第5話 「森の穴熊」
「アッシェ!!そっちいったよ!!」
「わかっている!!」
僕は片手剣で大盾を叩き、スキル『挑発』を使用して、今回の討伐目標となっているはぐれオークの注目を引く
「こっちだ!!」
バンバン!!
金属同士が激しくぶつかる音と『挑発』の効果は抜群で、はぐれオークは僕へと注意を向け、突進してくる
直撃寸前に治癒師であるパックからのバフ魔法『プロテクション』も掛かり、いつも以上の防御力となる
「ナイス、パック!うおおおお!!!」
僕よりも数倍デカいその巨体を大盾で受け止める
バガーン!!とデカい音を立て巨体がぶつかるが、タンクである僕は一歩も怯まない
むしろここからが僕の見せ場だ
大岩にぶつかったかの如く、僕にぶつかった衝撃をまともに受けたはぐれオークが、逆に怯む
その瞬間を決して見逃さず、大盾を前面に突き出し、スキル『シールドバッシュ』で打撃属性の攻撃を加えるとともに、スタン効果を狙う
勢いよく、はぐれオークの顔面めがけて鉄製の大盾がぶつかり怯みはしたが、スタンは発動しなかった
だがその瞬間を狙っていたかのごとく、木の上で狙っていたアリスから放たれた矢が複数直撃し、片目を潰し、身体にも数本刺すことに成功する
「よし!」
僕は一旦体勢を立て直し、次にはぐれオークがどう出るかを慎重に観察する
はぐれオークは片目のダメージを深刻に捉えていたが、それ以外の身体に刺さった矢は問答無用で引き抜いていた
だが、それも僕たちの作戦の内だ
引き抜いた矢には返しがついており、さらに矢自体に出血を促す毒が塗布されている
引き裂かれる肉とともに流れ落ちる血
予想外のダメージの高さに驚いたのか、形勢不利と見たはぐれオークが一気に方向転換し、逃走に移る
「なっ!?待て!!」
はっきり言ってこれは想定外の行動だった
驚いたのがそのはぐれオークの足の速さだ
二足歩行でこれだけの巨体にも関わらず、とんでもなく速い
現状で追いつけるのはシーカーであるアリスだけだろう
「アリス!!」
「わかってる!!」
___
俺は新たに手に入れた『一角兎の尻尾』の破格の性能に驚きながら、早速指にはめていた
ドドドドド……!!と遠くから地響きのような音が聞こえる。草木を大きくかき分ける気配とともに、その音はどんどん近づいてくる
さらに、女性の声で「待て!!」と聞こえてきた
「な、なんだー!?」
俺が思わず驚き、そちらの方向を見るととんでもなく巨大な、二足歩行の豚面の化け物が凄まじい速度で接近してきた
「う、嘘だろう!?」
俺は驚きながらも咄嗟に呪文を唱え始める
『紅蓮の理よ、我が掌へ集え――ファイアボール!』
俺の手に収束した魔法は、先程のアルミラージと同じように、こちらへ向かってくる巨体目掛けて飛んでいく
巨体が仇となったのか、速度のついた身体を急に方向転換できず、そのままファイアボールの直撃を受ける
今回は更に『ファイアボール』をレベル2に上げたことで発生する追加効果の炎上が起き、その巨体は一気に全身に火が回り、火だるまとなる
「プギーーーー!!」と悲鳴を上げ、のたうち回っていたがそのうちそれも聞こえなくなる
俺は再び腰が抜け、ぺたんとその場に座り込んでしまった
正直足がガクブルだ
その時だった
急に『システムメニュー』が起動し、俺にある事実を告げる
【経験値を70取得。ジョブレベルが1上がった】
【スキルポイントを1会得】
【保有スキルポイント:1】
どうやらレベルがあがり3になったらしい
「一体何だってんだ……」
俺が独り言のようにつぶやくと、いつの間にか隣にいた若い女性が、俺に声を掛けてくる 「君、すごいじゃーん!見たことないけど冒険者だよね?」
興味津々といった様子で俺の顔を覗いてくるその顔にはまだあどけなさが見て取れる
女性というより、俺の知る女子高生に近いような印象だ
だが装備を見ると俺の知る女子高生とは遥かに違う格好に驚きを隠しきれない
「ん?どうしたの?怪我でもした?」
「あはは……。いえ、怪我はないんですがその……こんなことは今日初めてだったので腰が……」
アルミラージに続いてあの豚面の化け物との戦闘だ
今日は大人しく採取だけして帰るつもりだったのに
「ええ!初めてだって!?」
明らかに予想外の答えを聞いたと言わんばかりのその娘は驚くが手を差し出してくれる
俺はその手を取り立ち上がる
「ありがとうございます」
「いやいや。もともとあれはうちらの獲物だったんだけど……。あ、きたきた!おーい!」
そしてその娘は豚面の化け物が現れた方より走ってこちらに向かっている二人の男性に手を振っている
「やっときたー!遅いぞ、二人とも!」
娘が声を掛けるとその男たちははぁはぁと肩で息をしながら答える
「馬鹿言うな!アリスが早すぎるだけだ!」
金髪の男がそう言うと180cmはあろうかと思われるデカくて筋骨隆々の男も無言で頷いている
「アリス……、それにしてもこの状況は?」
金髪の男――この男もまた、高校生くらいの年齢に見える。彼は現状を把握しようと娘に声をかける
「アッシェ、それがね?」
そうしてアリスと呼ばれた娘からアッシェと呼ぶ金髪の男に今までの状況が伝えられる
「……それは本当かい!?にわかには信じられないな」
その声に巨体の男も頷く
「だよねー。私もこの目で見てなかったら信じられない状況だよ」
アリスはそう言い、びっくりしたと全身で表現している
「それにしても、いったいこれは?」
俺は黒焦げになっている死骸について話を聞く
それに答えたのはアッシェだった
「ああ、これは元々僕たちが狙っていた獲物でね。群れからはぐれ、最近ここいらで被害が出ていた時に冒険者ギルドに討伐依頼があり、僕たちが請け負ったというわけさ」
そこまで言ったところがアリスが付け加える
「結果はこの通り。逃げられた所を君に取られちゃったんだけどね」
がっくしと肩を落とす
「自己紹介が遅れたね。僕はアッシェ。この四角銅級パーティ『森の穴熊』のリーダーをしている」
そう言ってアッシェは自己紹介をしてくれる
金髪イケメンの顔が眩しい
「私はアリスだよー」
そう言ってニコーッと大きな笑顔を向ける
「それでこっちのデカいのが、パック」
アリスに紹介されたパックは頷き「……よろしく」とだけ呟いた
「ところで君は?」
アッシェに促され、俺はハッとし自己紹介をする
「俺はススムと言います。実は昨日冒険者になりたての鉄級で、今日は採取をしている最中でした」
俺がそう自己紹介をすると森の穴熊達は再び顔を見合わせ驚く
状況が良くないと察した俺は頭に手をやり「あはは……」と愛想笑いをする
「それにしても困ったな」
自己紹介が終わった所でアッシェが話す
「困った……ですか?」
俺は状況を読み込めず聞き返す
「うん。今回の獲物を最初に正式に依頼を受け、手負いにしたのは僕たちだけど、仕留めきったのは君だ」
「あー……そうなりますね。あ、もしかして報酬の関係ですか?」
俺が現状を脳内で整理し、導き出した答えはそれだった
「せいかーい」
アリスがうんうん、と頷きながら答える
「あ、あの……それなんですがそれについては俺は辞退しても……」
俺が手を少し上げそう答えるとアリスが笑顔満面で俺の手を握る
「本当に!?いやー、ススム君!話がわかるねえ!!」
俺の手を取ったままブンブン振るアリス
パックがでかい手でそのアリスの顔を手で掴み静止させる
「いだだだ……!パッグ、わがっだっで……!」
アリスがそう言うとパックはアリスから手を離す
「そう言ってもらえるのはありがたいんだけどね。そうも行かないんだ。冒険者ギルドへの報告は虚偽無く正確に。これは基本中の基本だからね。それに……、正直言うと君の力をまだ信じられないんだ」
アッシェの誠実な言葉の中に俺への警戒心も見て取れる
「そこで、だ。この死骸は僕たちのパーティの収納鞄で一時的に預かり、一緒にギルドに報告に行ってくれないかな?」
「一緒に……ですか?」
「そう」
そう言うとアッシェはにっこりと笑う
表情は笑顔そのものだが内面では少し背筋が寒くなるものを感じる
きっと拒否権は無いのだろう
「……わかりました。同行させていただきます」
「君が話がわかる人で良かったよ」
パックが一見すると普通の鞄に見えるそれを黒焦げの死骸に近づけると、まるでアニメのようにシュッと吸い込まれ、あの大きな死骸はまるで存在していなかったかのような状態になる
「こ、これがマジックバッグ……!」
俺が思わず声を漏らすと再び森の穴熊の面々は顔を見合わせ笑う
「マジックバッグなんて珍しくもないのに、大げさだなー!」
そんなことをアリスに言われる
そういや、あの自称神の奴が収納関係のスキルは既に存在していると言っていたが、これのことか?と考える
一緒に冒険者ギルドに帰る道中、豚面の化け物の正体がオークだと説明されて驚いた
だがそれと同時に、確かに黒焦げになっているとき、かすかに豚肉が焼けるようなにおいがしてたなぁなんて物騒なことを考えていた
第5話 「森の穴熊」用語の補足
人物紹介
アッシェ
ジョブ:ナイト(タンク兼近接ディーラー)
性別:男性
種族:ヒューマン
年齢:十八歳
個人冒険者ランク:四角銅級
装備スタイル:片手剣、大盾、重鎧
特徴:パーティ『森の穴熊』のリーダー。金髪で見た目が整っており女性からモテる。
性格は堅実でまじめ。
冒険者の仕事を誇りにしており規則を重視している。
また弱者をほおっておけず、それゆえ面倒事に巻き込まれることもある。
メンタル面が若干弱く涙もろい。
アリス
ジョブ:狩人(シーカー兼遠隔ディーラー)
性別:女性
種族:ヒューマン
年齢:十七歳
個人冒険者ランク:銅級
装備スタイル:弓、短剣、軽装鎧
特徴:非常に明るくムードメーカー。
ひょうひょうとして軽口を叩くことも多く、軽率に見られがち。
パックに愛のげんこつを食らうことも多々あり。
名誉よりも金を優先するがこれには理由があるとか。
アッシェと対照的でメンタル面が非常に強く現実主義に近い。
そのため、流されやすいアッシェを支える場面も多い。
パック
ジョブ:治癒師
性別:男性
種族:ヒューマン
年齢:二十歳
個人冒険者ランク:四角銅級
装備スタイル:魔導書、片手メイス、布製服
特徴:筋骨隆々で茶髪、身長は180cmと大柄で一見すると前衛職のような風体をしているが実は珍しい治癒師。
性格は寡黙であまり言葉を発しない。
だが芯が強くアッシェを慕っている。
アリスの暴走を止める役。
近接戦闘が必要になる場面では腕力と片手メイスを武器に前衛職に劣らない攻撃を見せる一面も。
寡黙ゆえ今までどのパーティとも馴染むことができず、最低限の依頼しかこなさなかったため、冒険者としての昇級機会に恵まれなかった。
実力は銀級相当とギルドからも評価されている。
パーティ『森の穴熊』
上記のアッシェをリーダーとしてアリス、パックの三人で構成される。
パーティ単位としての階級は四角銅級とされている。
アッシェ、アリス、パックは全員同じ村出身であり昔なじみ。
パーティとしての冒険者階級
個人ではなくパーティとして活動する場合、各個人の階級がバラける可能性があるため、冒険者ギルドにパーティ申請をしたあと、ギルドからパーティ単位としての冒険者階級を設定される。これは主に構成員の階級を基準とし、活動実績なども考慮される。
今回の『森の穴熊』のようにほぼ階級が揃っている場合は問題ない。
例)金級一人、銀級一人、銅級一人の三人で構成される場合、金級相当の依頼を任せると死者が出る可能性があるため、パーティ単位の階級は銀級相当とされることがある。
なお、各個人で発行する冒険者証とは別にパーティに所属しているパーティ証もギルドより発行され、これは主に『腕の装飾品』としているパーティが多い。
これについても冒険者証と同じでどのパーティに所属しているか、階級は何かがわかるようになっている。
オーク
この世界では、人間種、亜人種、獣人種などによって社会が形成されている。オークは見た目は獣人種に近いが、正確には魔物に分類される。
魔物については後述。
魔物
獣とは別に魔物が存在する。
魔物は出生がかなり特殊であり元々は獣だったものが魔素の影響で変容し、後々魔物となるものもいる一方、生まれながらに魔物に分類されるものもいる。
4話で登場したアルミラージは前者であり、元は獣の兎種だったものが魔素の影響で変容しアルミラージとなった。
一方、オークは生まれながらにオークであり、オークのみでコミュニティが形成されている。
【第5話現在のステータス一覧表】
名前:ススム
ジョブ:魔法使い
年齢:二十歳
出身地:不明
種族:ヒューマン
レベル:3
残りSP:1
HP:4
MP:7
STR:3
VIT:3
AGI:4
MND:7
INT:11
LUK:1
初期スキル:言語理解、ハックアンドスラッシュ
所有スキル:ファイアボール(LV2)
現在の装備
メインウェポン:なし
オフハンド:なし
頭:なし
胴:布の街着(上)
腕:なし
脚:布の街着(下)
靴:皮の靴
首:なし
右指:一角兎の尻尾
左指:なし




