第4話 「スキルツリーと魔法」
「おい、ススムとやら。やめるなら今のうちだぞ?」
宙に描かれている『ステータス』を眺めていた俺が呆けて見えたのか、キャシディーが声を掛けてきた
俺はハッとし、「大丈夫です!」と即答するも、キャシディーはさらに面倒くさそうな顔をする
「で?使いたい魔法の属性は何が良いんだい?」
「え、選べるんですか?」
「ああ。基本的には火・水・風・土の四属性から選ぶことになる」
俺はこの世界に飛ばされる直前まで組んでいたビルドを思い出す
「では、火属性でお願いします」
俺がそう言うと「離れていろ」とキャシディーが忠告し、魔法の詠唱が始まった
キャシディーが深呼吸すると同時に身体がほのかに光りだし、詠唱とともにその光が手の中へと収束していく
『紅蓮の理よ、我が掌へ集い、燃え盛る球となれ――ファイアボール!』
手のひらから放出された火の玉は勢いよく目標物へ飛んでいき、着弾と同時に燃え始める 「まあ、こんなもんさね」
俺は感動のあまり声すら出なかった。だが、次の瞬間、別の意味で絶句することになった
どうやら、この魔法を認識したことがきっかけだったらしい
目の前の『システムメニュー』が変化し、『スキルツリー』が表示されていたのだ
その『スキルツリー』は、まさしく俺がゲームでよく見ていたものに酷似していた
そして、感覚的にどう操作すればいいのかも理解できた
そうして俺は、『スキルツリー』に表示されている『基本魔法』の『ファイアボール』に所持しているスキルポイントを1だけ消費し、『ファイアボール』を取得した
『ファイアボール【LV1】:火属性の基本魔法。単体攻撃であり目標に着弾時稀に炎上効果を発生させる。この魔法は最大でLV5まで強化ができる。消費MP4』
「さて、手本は以上さね。次に魔法の行使についてだが……」
と、そのように説明を始めたキャシディーを横目に俺も覚えたばかりの呪文を唱える
『紅蓮の理よ、我が掌へ集い、燃え盛る球となれ――ファイアボール!』
『スキルツリー』で体得したスキルは、習うより先に身体と頭がその使い方を『理解』しており、自然と発動することができた
キャシディーの時と同じように俺の手から放出された火球は目標に勢いよく飛んでいき着弾と同時にボボボボ!と音を立てながら燃えていた
「なっ!?」
状況を理解できないキャシディーはただただ、その燃える目標を見つめ絶句し、終いには怒りながら訓練場を出ていった
俺がその後を追うように階段を上がり冒険者ギルドに上がると、受付嬢から声を掛けられた
「ススムさん、なにかされたんですか?キャシディーさんがとんでもない形相で怒っていましたが……」
どうやら話を聞くに、「馬鹿にしやがって!何がノービスだ!」と怒りながら出ていったらしい
「あ、あはは……」
俺は『スキルツリー』の話は端折り、キャシディーが見せた魔法を見よう見まねで使ったら、そのまま使えたという体にして説明をする
すると唖然とした表情で受付嬢が俺を見る
「ス、ススムさん、魔法を今まで誰かに教わっていたとか?」
「いえ……。見るのも初めてでした」
そう言うと受付嬢は若干引いたような表情を浮かべていた
うーむ。反応から察するにきっと魔法を行使するにはとんでもない知識や修練が必要だったんだろうなあと思う一方で、俺の魔法は『スキルツリー』で取得したものだから、かなりこの世界の常識や法則から外れているに違いない
なので俺はこの話は黙っておくことにした
俺は空欄になっていた冒険者申込用紙のジョブ欄に『魔法使い』と記載し、提出をする。
「はい。確かに。お預かりします。冒険者証は明日にはできます。冒険者ランクが鉄級の間に限り、冒険者互助組合として宿泊場所と夕食を提供しています。簡単なものですが、よければご利用ください」
「それは非常に助かります」
当面の宿はこれで何とかなりそうだ
金がほぼ無い身としては心から助かる思いだった
「それと他になにか質問はありますか?」
「でしたら資料庫や本棚はありますか?鉄級冒険者としてできる仕事に必要な知識を勉強したいのですが」
そう言うと先ほどとは打って変わり、受付嬢の表情が輝く
「大変素晴らしいです!でしたら、鉄級冒険者の方は採取から始まりますので、薬草類の勉強をされたほうが良いと思います。ご案内しますね」
そう言われ案内されたのは冒険者ギルドの二階に併設されている書庫で、そこには様々な種類の文書が残されていた
受付嬢はその中から手際良く資料を選んでくれ、俺に渡す
「まずこれらで勉強をされれば良いと思いますよ」
「何から何までありがとうございます」
俺はペコリと頭を下げて礼を言う
「勉強、頑張ってくださいね」
そうして俺は、渡された薬草類の資料を黙々と読み込み、時間を忘れて勉強した 。
見たこともない植物類が並んでいる。日本では漢方といった形で存在していた医術も、こちらでは別の形で進化し、怪我や病気の治療に用いられている
ふと気がつけば夜になっており、俺は慌てて夕飯を貰いに部屋を出る
「さて、どんな食事が出るのかなあ?」
やっぱり人間、生きていくにはうまい飯が欠かせない
だが、それは一口食べた時点で儚い希望となる
そう、飯がまずいのだ
恐らく味付けは塩のみだろう
シンプルと言えば聞こえが良いが、それだけなのだ
パンも硬く、歯が折れるかと思うぐらいだ
これは早々に自炊をする必要があるかもしれない……
夕飯後、俺は指定の寝床に向かい、天井を眺める
はたから見ればただ天井を見つめているだけに見えるが、俺の視点では違う
今は目の前に表示されている『スキルツリー』を眺めている最中だったからだ
『スキルツリー』とはその言葉の通り、ツリー状、つまりは全てのスキルがどこかで繋がっている
ただ一直線にスキルが繋がるのではなく途中で枝葉のように分岐しているが、スキルの線が一本で続いている限り、自分で任意の場所にスキルポイントを使用できるため、そのツリーの育て方は人それぞれになるだろう
だが、現在の俺のレベルは2であり、残りのスキルポイントも『ファイアボール』を覚えた際に1使用したので残りは1ポイント
だがまあ、余らせておくのも仕方がないのでここは思い切って『ファイアボール』のレベルそのものを上げることにした
この『ファイアボール』は基本魔法というカテゴリーに分類され、これは最大でLV5まで成長させることができる
LV2に成長させると、威力が上がるだけではなく、詠唱時間の25%短縮や追加効果の発動などが含まれる
『ファイアボール【LV2】:火属性の基本魔法。単体攻撃であり目標に着弾時稀に炎上効果を発生させる。威力が多少強化され、詠唱時間の25%を短縮する。この魔法は最大でLV5まで強化ができる。消費MP4』
ちなみにハックアンドスラッシュでは装備により『スキルツリー』や『ビルド』そのものを見直す場面が多々あるため、今回出現している『スキルツリー』もポイントの振り直しが可能かどうかを確認する
結果、振り直しは可能だったが、1スキルポイントにつき100ミラルが必要だということがわかった
俺はそこまでを確認すると、そのまま疲れと期待で眠りについた
翌朝
朝一番に来たつもりだったが、先輩冒険者達は更に早かったようだ
既に報酬の良い依頼の奪い合いが起きている
そんな人混みをかき分け窓口に向かう
「おはようございます!」
「ふふ。おはようございます。ススムさん。準備はバッチリですね?」
「ええ、それはもう!」
そうして、一枚の鉄でできた証を差し出される
「こちらがススムさんの鉄級冒険者としての証となります。ご確認ください」
「これが……。ありがとうございます!」
「では問題なければこちらの受領証にサインをお願いします」
サインを書き俺は正式に鉄級冒険者を名乗れるようになった
冒険者になれたことで正式な身分も手に入れることができた
「さて……、行くか!」
俺は早速貰った証を首に掛け、冒険者ギルドを後にした
門番に貰いたての鉄級冒険者の証を見せると笑われながら「頑張れよ、新米」と声を掛けられた
俺は「新米」という言葉に恥ずかしさよりもこれから始まるんだという希望が溢れてきた。
街を出てすぐのこと
またしても『システムメニュー』に変化が起きる
それは『マッピング機能』解放の知らせであった
『マッピング機能』もハックアンドスラッシュには欠かせないシステムだ
一度通った道しか記録はされないが、それでも脳内で地図が展開できるのは非常に大きい「これがあれば、迷子になることは無さそうだ」
足取りは軽い
昨日かじりついて勉強した成果が早速出る
意外にも、今日採取する予定だった数種類の『薬草類』を見つけることができた
書物に書かれた通りの獲り方で慎重に採取する
童心に返った気分で順調に採取をしていた時、少し離れたところからガサッと草の擦れる音がするのに気がつく
「うん?」
そこに現れたのは一羽の兎だった
だが普通のうさぎではない
額に立派な角を持つ兎
一角兎、アルミラージで間違いないだろう
唐突に現れたその小動物の姿に俺は一瞬、癒された気分になる
「かわいいなあ……。うおぅ!?」
油断したその隙を狙ったかのように、アルミラージがとんでもない速度と跳躍力で、額の角を俺の顔面目掛けて突き出してきた
「あっぶね……!!いきなり俺の冒険が終わりかけたじゃねえか!!」
思わずアルミラージに怒りをぶつけるも既にアルミラージは次の構えに入っていた
俺はそれを見た瞬間、呪文を唱える
だがそれは昨日と同じ詠唱ではなく、若干短くなった詠唱を唱える
『紅蓮の理よ、我が掌へ集え――ファイアボール!』
俺の手から放出された『ファイアボール』はLV2となっていたこともあり、昨日よりも詠唱が25%短くなり、更に火力が増した状態で放出される
飛び込んできたアルミラージを避けることもできず、火球がその身体へ吸い込まれるようにぶつかる
「ギィ!!」
小さく悲鳴が聞こえたかと思うと、火球の熱であっという間にアルミラージは絶命した
俺は昨日と明らかに違う火力のファイアボールと、初めての命を懸けた戦いで思わず腰を抜かす
ぜぇぜぇと肩で息をしていると、絶命したアルミラージの死骸は、どろりと溶け出し地面へと消えていく
そしてその後に一つの指輪が落ちていることに気がつく
「これは……」
ゆっくりと立ち上がり、俺はその指輪を拾い上げる
その指輪は戦利品だったようで、鑑定する必要もないようだった
【レア:一角兎の尻尾】
装備部位:指
基礎値5
スキル効果:LUKに関係なく、戦利品入手確率が+30%補正される
なんかとんでもない戦利品を手に入れたんですが!?
第4話 「スキルツリーと魔法」用語の補足
魔法
魔法とは外気に存在する魔素を自身のマナでコントロールして、呪文を唱えることでそのマナと魔素を収束、圧縮しそして放出することで初めて魔法が発動する。
ちなみに魔法を放出する際は、自分の現在のMP以内の魔法でなくては圧縮の段階で失敗して、魔法は発動しない。
魔素
本文では未出だが説明。
魔素とはこの世界独特の元素であり、空気と同じ様に自然界のありとあらゆる場所に存在している。
上位の魔法使いになればこの魔素を肉眼で視るということも可能になる。
魔法の種類
魔法には各カテゴリーが存在している。
基本魔法:基礎魔法と呼ばれることもある。魔法使いが最初に覚える魔法。
応用魔法:基本魔法を応用した形の魔法。
防御魔法:防御に特化させた形の魔法。
召喚魔法:各属性ごとにことなる召喚を行い、一定期間自立した攻撃を行う。一定期間がすぎると自然消滅する。
強化魔法:バフと呼ばれることもある。自身またはパーティメンバーを対象とした強化を行う魔法。
弱体魔法:デバフと呼ばれることもある。対象に何かしらの弱体効果を発動させる魔法。
特殊魔法:以上のカテゴリーとは全く別枠の魔法であり、形態も効果も様々。
究極魔法:奥義とも呼ばれることがある。一撃の威力が他の魔法とは桁違いに大きい反面、消費されるMP、使用できる間隔などに大きな縛りが発生する。この究極魔法を使用できる魔法使いは全体を通してもほんの一握りである。
魔法のレベル
魔法には各段階が存在している。
基本魔法であってもレベルが1あがるだけで威力、詠唱時間の短縮 、追加効果等が発生する。
各カテゴリーにより強化できる段階はまちまちであり基本魔法の場合は最大で5段階まで強化が可能。
ただしリスクとして一定段階まで強化されると一回あたりの消費MPがその分増えるため、自身の現在のMPとバランスを取る必要がある。
薬草の効果
この世界での薬草の効果は即効性があり、瞬時にその使用効果が現れるのが大きな特徴。
さらにこの薬草を薬に変化させるとポーションと呼ばれるものになり、より強い効果が発揮される。
スキルツリー
本文にも記載されている通り、基本的には一本の道で全てが繋がっている。
最初は誰でも基本魔法からの習得となる。
このスキルツリーは全てのジョブで存在しており、ルールは同じ。
仕様1)スキルツリーは次のカテゴリーに進むまでに消費しなければ行けないスキルポイントが設定されている。
例えば基本魔法から次の応用魔法に行くまでに基本魔法のカテゴリー内で5ポイント消費しなければ応用魔法へはアクセスできない。
仕様2)仕様1の縛りがあるため、最初から究極魔法を覚えることはできない。
スキルツリーの振り直し
1ポイントごとに現金が必要になる。
ただし1ポイントごとに一律料金ではなく1ポイント増えるごとに加算金額になるため、修正するポイントが多ければ多いほど高額になる。
冒険者の階級
冒険者は段階ごとに階級が存在している。
最初は皆例外無く『鉄級』から始まる。
功績や実績、推薦などにより審査が行われ、階級が上がる。
また依頼内容によって事前にギルドが想定される危険度を判別し、階級別で受けられる依頼を決めている。
以下階級
鉄級→四角鉄級→銅級→四角銅級→銀級→四角銀級→金級→四角金級→白金級
なお、各ギルドの副ギルドマスター以上の者は必ず金級以上でなければならない。
冒険者の証
各階級にちなんだ形と金属でできたコイン系の物であり主に首から下げることができる。
これには名前、発行した街、発行年月日が打刻されている。
依頼中に殉職した場合、遺体を持ち帰るのが困難なことが想定されるため、他の冒険者がこれを持ち帰ることで殉職したという認定になる。
金属でできているのも、肉体が大地へ返ったとしても証だけは残るためである。
依頼中、この証を見つけた場合、持ち帰りギルドに届け出ることもギルド規約の中に含まれている。
一角兎の尻尾
尻尾とは名がついているが指輪である。
その意匠は中心に一角兎の角が彫り込まれ、輪を尻尾をモチーフとしたラインで形成されていて全体的に仄かな桃色の指輪である。
呪われた装備ではなく一般流通品であるが、性能も相まって非常に希少な戦利品であることをススムはまだ知らない。




