第2話 「呪われた装備品!?」
森を抜けた先にはまさしく異世界の風景が広がっており、俺はそんな異世界の風景の中、街道に出ていた
日本のようにコンクリートで舗装されてはいないが、それなりに整備された大きな街道だった
「よし!だが、参ったな……。右を見ても左を見ても村や街などは見えないぞ」
辺り一面に広がるのは野原だった
俺がいっそ、右に進むか左に進むか、棒が倒れた方向で進もうかと適当に木の枝を探していた時、カッポカッポと馬の蹄を鳴らしながら、馬車が近づいてくる音が聞こえてきた
「ツイてる……!だが、参ったな。金がない。どうしたものか……」
そうこう考えているうちに遠くに見えていた馬車は、どんどんこちらへ近づいてきていた
「ええい、ままよ!」
俺は「どうにでもなれ!」と半ばヤケになって手を振る
「おーい、すみませーん!助けてくださーい!」
俺が馬車に向かって手を振ると、御者が気がついたようで手を上げ、少し離れたところで馬車を止めた
俺を盗賊か何かだと思って警戒しているのかもしれない
俺は腰に差していた短剣を地面に置き、服を少しめくって武器を持っていないことを示し、両手を上げて御者に声をかける
「なにか御用ですか?」
御者が大きな声で問いかけてくる
俺はそれに答える
「すみません。助けてもらえないでしょうか?旅の者なんですが、道が全くわからず、よければ道を教えていただきたく!」
しばらく御者は馬車の中にいるであろう人間たちと相談をし、返答がある
「わかりました!お話をお聞きしますのでこちらへ!」
「ありがとうございます!」
俺は短剣を腰に差し直した後、それでも相手に警戒させないよう両手を上げたまま近づく
「そこで止まれ!」
馬車の中から現れたガタイの良い髭面の男が、抜き身の剣を俺に向けて聞いてきた
「一体何の用だ?」
「先ほども言いましたが、道に迷ったので、村か街がある方向を教えていただけませんか!」
「……ふむ?ここら辺の人間じゃないのか?」
俺はしばらく考え、一芝居打つことにした
「……はい。実はここから遥か彼方にある外部と交流をほとんど持たない村の者です。その村が魔物たちに見つかり命がけで逃げてまいりまして……。村の外に出るのも初めてだったもので、何日逃げ続けたのかもわからないくらい彷徨い、途方に暮れておりました……」
俺は「ヨヨヨ……」とでも言いたげな、か弱い雰囲気を出す
髭面の男は俺の姿を下から上まで見る
「……随分とボロボロだな。靴すら履いてない。どうやら嘘ではないらしいな」
そう言うと剣を鞘にしまう
「すまなかったな。盗賊かと思った」
俺はすぐに謝罪を受け取る
「あはは……。こんな姿ですしね。本当にお恥ずかしい」
「ここからだと、ミストヴェイルの街が一番近く、俺達はそこへ向かっている」
「ミストヴェイル……ですか。このまま馬車の進む方向へ行けば着きますか?」
俺が聞き返すと、髭面の男は目をパチパチさせる
「ここらではミストヴェイルは主要都市の一つだ。本当に何も知らないのか?」
「お恥ずかしながら……」
髭面の男は腕を組み、考え、「よし!」と頷く。
「御者、この男をミストヴェイルまで乗せていってくれないか?費用は俺が持つ」
「よろしいので?ガルドンさん」
「ああ。俺が責任を持とう」
ガルドンと呼ばれた髭面の男は気前の良いことを言い、俺を馬車内に入れてくれた
「本当によろしいのですか?」
「ワケアリの人間でこんなにボロボロになっているのに、保護しないわけにもいかないだろう」
ガハハとガルドンは豪快に笑い、俺の背中を打った
バシンバシン! とかなり力が入っており、痛い……
「……お世話になります。俺は……、『ススム』と言います」
危なく名字を名乗りそうになったが、この時代背景だと、名字持ちは貴族に限定される可能性がある
なので俺は下の名だけを名乗る
「ガルドンだ。鍛冶師をやっている。出張の帰りでな」
「なるほど……随分と力がお強いんですね」
そう言うと再びガハハ!と笑われ、背中を打たれた
痛い……!
「で、ススム。その村の名は?」
「お恥ずかしいことに皆、『村』で通していたため名を知らないんです。外部との交流も少ない集落だったので、それでも困ることがなかったために疑問に思ったことすらありませんでした」
あはは、と笑って誤魔化す
だが、ガルドンにはすんなりと受け入れられる
「確かに今は厳しい時代だ。そういった集落は少なくはない。税さえきちんと収めて居ればそれで良いというお上の考えもあるんだろうがな」
なるほど、そういう時代背景なのね
やはり俺の想像通りであればこの世界は中世に近い
「それにしても大変だったな……。逃げられたのは……?」
ガルドンが悲痛な顔でそう聞いてきたので俺は頭をフルフルと振って答える。
「そうか」
俺には元々家族など居ない
四十年を日本で過ごしたが、両親は早くに死別しているし兄弟も親戚も居ないのでこれは事実だ
「ところで、その腰に差している短剣は?」
俺の現在の所持品で唯一まともそうなものである短剣を指さす
さすがに鍛冶師なだけあり、気になるようだ
「これは……、家宝だったものです。名などはありませんでしたが俺達の家族の宝物でした。そして最後に家族が持たせてくれたものでもあります」
俺が内心ヒヤヒヤしながら言うと、ガルドンの声が震えてきて、しまいには泣きだした
「そうか……!そうか……!良いご家族だったんだな……!」
俺はあまりのガルドンの反応に悪いことをしたという罪悪感が生まれた
「どれ、その短剣見てやろう」
ガルドンがそう言い、手を伸ばしてきた。これ以上迷惑をかけられないと思って断ろうとしたが、「遠慮するな!」と、なかば強引に短剣を奪われる
「ふむ……。未鑑定品か」
あ、やっぱりそれは正しかったのね
俺がそんなことを思っているとガルドンがおもむろに一枚の巻物を取り出す
「折角だ。鑑定してやろう」
「ええ!?払えるものがありませんよ!?」
「良いんだ!やりたいからやるだけだ!」
気前よく鑑定してくれるガルドンは、巻物を使った
鑑定は非常に簡単なものだった。ガルドンが短い呪文を唱えると、巻物がそれに反応して光り始める
やがてその光が、短剣を包み込んだ
あっという間の出来事だったが、俺がこの世界で初めて目にする『魔法』そのものだった
どんな効果があるのかと、俺は興奮しながら鑑定結果を待つ。いつも画面の中で起きていたことが、今は目の前で現実に起きているのだ。そのことに興奮していると、鑑定結果を確認したガルドンの顔色が変わる
「ススム。悪いことは言わない。これは早急に処分しろ」
「えっ!?」
俺は突然の話に理由を聞く
「どうしてですか?」
「こいつは……『呪われた装備』だ」
『呪われた装備』だって!?
俺は初めて聞く単語に驚きを隠せない
するとその様子を見て察したのかガルドンが説明をしてくれる
「まず、これを見ろ」
そうしてガルドンが鑑定が終わった短剣を見せてくれる
【レア:銅の短剣】
効果:STR-10、VIT-10
基礎値10
スキル効果:基本魔法を使用するとMPが3回復する
「なっ!?」
とんでもないスキル効果じゃねえか!
一見するとハズレ装備に見えた短剣だが、付いているスキル効果はかなりのものに見える
だが、基礎値って何だ?
俺がそんな表情を浮かべているとガルドンは頷く
「お前も、この文字が見えたようだな。この『呪われた文字』が」
「……へ?」
呪われた文字?
俺にはしっかり最初から最後まで読めている
読めない文字など存在していない
わからないことはすぐに聞く
「あの……。『呪われた装備』とは……?」
俺があまり物を知らないことを思い出したガルドンは説明をしてくれた
「ああ、すまない。どうやらお前が住んでいた村では存在していなかったようだな。『呪われた装備』とは、通称でな。その装備者を尽く不幸にしてきたことからそう言われている」
「装備者を呪う装備……」
俺の目の前にある短剣はとてもそうは見えない
確かにステータスにデバフ効果はあるがスキル効果もある
「まず前提として、これらの装備はレアリティだけはわかる。お前もわかるだろう?」
ガルドンの手の中にある短剣がレア級だということは、最初からわかっている
「はい」
俺が頷くとガルドンは続ける
「だがそれ以外のことがわからない。いろいろな逸話があるが、剣士が呪われた剣を装備したが、いつものように力が発揮できず、亡骸になって帰ってきた、なんて話はザラよ。そういった話が次々と聞かれるようになり、次第にこれらは総じて『呪われた装備』と呼ばれることになった」
確かに目の前にある短剣には、攻撃力に直結するステータスであるSTRにデバフが掛かっている
さらに、体力にも影響があるVITにも同じような状態だ
これに気づかず剣士が装備すれば、ガルドンが説明したような状況も頷ける
だが重要なのは、ガルドンが『レアリティ以外の文字が全て読めない』と話していることだ
俺にはレアリティ以外もきちんと読める
きっと鍛冶師をやっているガルドンの口ぶりから察するに、これが『この世界の常識』なのだ
「よければ、俺が責任を持って処分するが?」
ガルドンから声がかかり、俺は反射的にビクッとしてしまう
「い、いや、これは……」
「『家族の形見』……だものな。好きにすればいいさ。だが、警告はしたぞ」
「ありがとうございます」
そんな話をしているときだった
御者から声が掛かる
「そろそろ街が見えてきましたぜ!」
その声につられ馬車から外を見ると、そこには非常に大きな街である『ミストヴェイル』の姿が見えてくる
第2話 「呪われた装備品!?」の用語補足
【用語解説】
鍛冶師
主に武器・防具の制作や修繕を生業としている。
また、未鑑定品を鑑定できるジョブでもある。
巻物
魔法が一時的に封じられている。
特定の呪文を唱えることでMP消費をせず巻物内の魔法を発動できる。
鑑定
未鑑定品となっているものに使用。
詳細不明な部分を明らかにする。
鑑定できる職業や場所は以下の通り。
鍛冶師:鑑定できるレアリティに上限あり。レジェンドまで鑑定可能。ユニーク以上は不可。
冒険者ギルド:鑑定できるレアリティに上限あり。レジェンドまで鑑定可能。ユニーク以上は不可。
鑑定士:全てのレアリティを鑑定できるがその分高額になる。
呪われた装備品
一般人から見るとレアリティ以外は全て解読不能な文字としてステータスが表示される。
ただし、ススムは例外であり、レアリティを含むすべての文字を正しく認識できる。
基礎値
現状不明。
バフ
ステータス等の上昇効果
デバフ
ステータス等の弱体効果
MP
マジックポイントの略。
魔法を行使する際に使用。
魔法の種類や強弱によって消費MPが異なり、強力な魔法ほど必要なMPも多くなる。




