第22話 「歪なダンジョン」
目の前に広がる空間を見ていると頭が痛くなる
まるでゲームのバグった画面を現実にして、それを無理やり見せられているかのような場所だからだ
色も、物質も、空気さえも異質に見える
更に追い打ちをかけるように、ついさっきまで隣にいたサーシャやナナリーがいない
それどころか他の森の穴熊のメンバーが一人もいないのだ
俺はそれを知った瞬間、どっと脂汗が噴き出るのを感じ、半ばパニックになりかける
「どうしたらいい……!?」
そんな時、先程のトレント戦に挑む前のアッシェの様子がふと脳裏に浮かぶ
「……そうだ。慌てるな。考えろ……!」
「ふーーー」と深く息を吐き、どかっと床に座る。そして目を閉じ、状況を整理する
今いるこの空間は紛れもなく現実であり、俺はたった一人だ
だが逆に考えれば、この場にサーシャがいないというのは良かったのかもしれない
あれだけサーシャとナナリーも回復してきているように見えているのに、こんな空間に来たとなれば、深い心の傷になりかねない
「まずは手持ちの確認だ」
森の穴熊と初めて行動を共にした時、森の穴熊のメンバーから必ず最低でも三日分の水と食料を持参するよう言われており、現に今もマジックバッグの中にはそれらが入っているのが確認できた
これは想定外の事故や遭難に備えた、緊急時の物資だ
それがこうした形で生きるとは思いもしなかったが
そして先程のトレント戦で得た経験値のお陰で、レベルが1上がっている
SPが1余っているという状況だったので、進行方向を見ながら『スキルツリー』を開く
幸いにして、今いる場所がスタート地点のようで、後ろには進める道がない
つまり、少なくとも背後から不意打ちを受ける心配はないという状況だ
「現状、他のメンバーはもちろん、誰かがここにやってくる気配もない。つまりは最悪一人で脱出をしなければいけないということだ。考えろ……俺に今必要なもの……」
自身に今の状況を言い聞かせるようにあえて口に出し、自分自身を落ち着かせる
「……そうだな。これしかない」
持久戦になることも考え、リソースは多いほうがいい
今まではパーティ戦だったから、仲間のフォローが期待できた
だが今はソロだ
そうであるなら、ここで取るスキルはこれ一択
MP回復速度上昇(LV1):MPの回復速度が通常より25%早くなる。このスキルは最大でLV4まで強化できる
「これでいい……。後は……覚悟だな」
緊張したせいか喉が渇いたので水を一口含む
ゴクリと飲み干すと同時に腹をくくる
「よし……。行くか」
覚悟が決まれば行動は早いほうがいい
何がどう作用しているかがわからないからだ
だが、慎重になるべく足音を立てず、前方に深く注意をはらう
曲がり角では常にしゃがみ、先に何かいないかを確認する
聞こえるのは自身の呼吸音と心音だけ
そしてある所まで来た時、その静寂に異音が混じる
ぺた……ぺた……
何か水で濡れた足音のようなものが聞こえてくる
俺は高鳴る心音を抑えゆっくりとその様子を見ると、そいつはいた
先ほど戦略的撤退を余儀なくされたサハギンだった
だが正確には『サハギンのような何か』である
というのもその『サハギンのような何か』はとても生物とは思えなかったからだ
片手は頭から生え、更に首が180度回り、顔が完全に後ろを向いている
一種のホラーのようなその姿を見て心臓が更に高鳴る
やはりここは普通じゃない!
だが、進むためには間違いなくあいつを倒さなければいけない
「くっ……!」
溢れてくる汗を拭い覚悟を決める
なるべく聞こえないように小声で呪文を唱える
『紅蓮の理よ、我らを包み、敵を焼け――炎の防壁』
そうして俺に炎の防壁が展開された、その時だった
先程ゆっくり聞こえていた足音が急に早くなり、角に隠れていた俺はあっけなく見つかる
そしてその頭から生えた腕で持っていた銛のような武器を突き立ててきた
「ぐうぅ!!」
俺は一瞬で後退の判断をし、代わりに足元より出現した二頭の炎を纏った狼に相手をさせる
一瞬で一頭が串刺しとなり、消失するが、もう一頭がその隙を狙い大きく噛みつく
肩口を大きく噛み砕かれた『サハギンのような何か』は、その傷口から血を大量に吹き出している
その血も、先ほど対峙した『本物のサハギン』とは違い、灰色をしていた
だが驚くべきは、それだけではない。痛覚を感じていないのか、肩口を破壊されてだらりと下がった腕をぶん回し、それで残りの狼を殴りつける
直撃はしなかったが、かすっただけで狼は「ギャワン!!」とかなりのダメージを受けた様子だった。
近づかれるのはまずいと本能で理解し、更に距離を開ける
そしてなんとか立ち上がった狼に意識を合わせ、狼が再び噛みつきに行った瞬間を狙いファイアボールを重ねる
「紅蓮の理を我が手に――ファイアボール!!」
見事に『サハギンのような何か』の意識は狼だけに集中し、狼に攻撃を放ったところで、ファイアボールが着弾、爆発し、『サハギンのような何か』は下半身だけを残して爆散していた
流石にこの状態では生きているという判定にはならないのだろう
『システムメッセージ』に経験値が入ったことで、無事に倒したということが確認できる
「ふーーー」と息を吐き、動揺した心を落ち着かせる意味と、リポップし後ろを取られると厄介だったため、俺は少し来た道を戻り、休憩する
次第に心音が落ち着くのがわかり、先程取ったばかりのMP回復速度上昇の効果も相まり、MPの回復はかなり早くなったように感じる
更に運がいいことにどうやらリポップすることもなく先ほど爆散した『サハギンのような何か』は既に魔素となっていたのかその姿は見えず、その代わりに何かが落ちているのに気がつく
俺はそれを手に取るとどうやら帽子のようであったが、未鑑定品となっており詳細がわからない
仕方がないので戦利品として持ち帰ることにし、マジックバッグに入れた後、再び歩を進める
幾度かの戦闘があった
だがそのどれもが決して「生物」や「魔獣」と言えるようなものではなかった
「はぁ……はぁ……」
だが一つ気がついたことがあった
それはこの歪な場所に来てからの敵と呼ぶものはいずれも俺がこの世界に足を踏み入れてから対峙した魔獣や魔物などが歪な形を成しているものばかりだった
現に今倒した敵も森の穴熊のメンバーと出会うきっかけになった「オーク」の姿を変形させたようなもので、今回のものは足が一本しか無く、もう一本の足が肩から生えたという歪さで、立ち上がることすらできていない状態だった
だがお陰で相手はこちらに近寄ることすらできず、俺はひたすら時間をかけ、遠距離からファイアボールを放つことで無事に倒し切ることができた
その時、この空間の何が気持ち悪かったのかに気がつく
それは、俺がこの世界に飛ばされてから見てきた景色を融合させ、変形させ、歪な形へと無理やり接合したかのようなものだった
今、俺の足元で魔素へ還ろうとしているこの「オークのような何か」もそうだ
これらは【俺のこの世界で体験した記憶を元に作られた空間】なのではないかと気がつく
なんでこんな空間が?
もともとこの世界にはこういう【システムのようなもの】として存在しているのか?
……わからない ……
ただ一つわかったことは、そろそろ出口が近いのではないかということだ
俺の記憶を辿っているなら、この世界での始まりに近づいている
それは即ち、この空間の終わりに近づいているということだ
そしてその時が来る
空間が更にネジ曲がり扉のようになっている
「つまり、ここが俺の始まりの場所でここの終わりの場所……ボス部屋ってか?」
明らかに区切りを感じさせ、しかも冒険者となって日が浅い俺でもわかる扉を通しての威圧感
明らかに何かいると感じざるを得ない場所だった
そうであればなおのこと準備はしなくてはいけない
幸いなことにここに来るまでの間にレベルが更に2上がっておりSPも2振るだけの余裕があった
なので俺は扉から若干離れた場所で休憩しながら『スキルツリー』を見る
せめて装備の更新が出来ればとも思ったが、いくつか手に入った戦利品は全て未鑑定状態でステータス補正すらわからない状況だった
そんな状況でそんな装備を使おうものなら、まさしく【呪われた装備】の言い伝え通りとなり命を落としかねない
不確実なものに命は預けられないのだ
だが、『スキルツリー』で得られるものは確実なものだ
俺はここまでのルートの経験から次のものを取得した
MP回復値上昇(LV1):MPの回復数値に全て+1の上昇効果が発生する。このスキルは最大でLV4まで強化できる
ファイアボール(LV4):火属性の基本魔法。単体攻撃であり目標に着弾時に炎上効果を発生させる。威力が大きく強化され、詠唱時間の75%を短縮する。この魔法は最大でLV5まで強化ができる。消費MP6
「これでよし」
ファイアボールのレベルを上げたことでMPコストが重くなる分、MP回復値上昇とMP回復速度上昇のコンボでMPを確保する
次の敵としてどちらが出てくるかはわからなかったが、まず間違いなく火力を上げる必要を感じた
短期決戦しかない
俺は顔をパンパン!と強く叩き気合を入れる
「よし……行くぞ!」
ゆっくりと扉を開くとそこには予想外のものが現れる
この扉の先にいるのはホーンラビットか、ゴブリンかのどちらかであると予想した
だがそれは両方間違いで、両方正解だった
上半身はゴブリンであったが、下半身がホーンラビットであり、頭にはホーンラビットの角が生えている
「……そう来たか……」
俺が呆気にとられているとそのホーンゴブリンとでも言うべきそいつは、まさしくホーンラビットと同じように跳躍する前の貯めを見せる
「やっべえ!!!」
俺は以前、ホーンラビット戦でそれを何度か見ていたために即座に身体が反応する
バッと横に飛びながら避けた先で転がっていると、後ろではドゴーン!!!ととんでもない音がしている
ホーンラビットはあの大きさでさえ下手すれば命取りだったのに、大きさは小人ほどもあるゴブリンなのだ
直撃したら確実に死ぬ
俺は急いで立ち上がり走って距離を置く
だがかすめるようにホーンゴブリンが後ろからとんでもない速度でぶっ飛んできて気がつけば俺の目の前で地面に刺さっている
「おいおい、嘘だろう……」
とんでもない質量兵器になっているが、どうやら身体のバランスが悪いらしく一回ごとにヨタヨタとしている
生物としては中途半端なのだろうと思えたが、一度構え状態になればそれは関係ない
小人ほどの大きさがアリスの放つ矢よりも早く飛んでくるのだ
しかも最悪なことに、最初はヨタヨタしており攻撃を打ち込む隙が若干あったが、そのインターバルが徐々に短くなってきており、今ではファイアボールや炎の狼がホーンゴブリンに到達する前に次段が飛んでくるという状況だ
非常にまずい……!
どうする……!!
考える時間さえ与えられず飛んでくるホーンゴブリン
「ぐうぅ!!」
俺は無様にゴロゴロと転がりながら避けることで精一杯だ
「ここまでか……?」
そう思った時、目の前にアッシェの身を挺した姿が浮かぶ
そうだ
逃げるだけじゃだめだ……!
俺はそう考え『あえて受ける方』を選ぶ
飛んでくるラインは直線だ
ならそれを利用すればいい!!
「紅蓮の炎よ――」
そこまで唱え俺は布を強く奥歯で噛む
ホーンゴブリンがぐっと下半身に力を入れ飛び出すその瞬間、突撃の軌道上に、あえて身代わりとなるように二頭の炎の狼を置く
「ギャワワン!!」という狼たちの悲鳴が聞こえるとともに弾け消える
更に炎の防壁すら、それでも破られる
勢いはかなり削がれたように思えたがそれでも止まらない
俺はそれを予測した上で左肩を前に木の小盾を構える
そして予測通り、ホーンゴブリンは木の小盾をぶち破りながら更に俺の左肩にめり込む
「ぐうううううぅぅぅぅ!!!」
左肩に刺さった大きな角は、骨にまで達して俺の肩口で止まる
だがその痛みは尋常ではなく焼けるようで気が遠のく
だが、ここで気を失えばすべてが終わる
俺は残った気力を込め、手をホーンゴブリンの胴体に向ける
「ファイアボール!!!」
激しい痛みの中、布をかみながら発せられた言葉は呪文となり俺を大きく巻き込んだ形でホーンゴブリンもろとも爆散する。
「かっ……かは……!!」
その威力は凄まじく、刺さったホーンゴブリンの角と頭だけを残し、それより下は全て吹き飛んでいた
当然だが俺もその爆発に巻き込まれ、大きく吹き飛び地面に打ち付けられる
地面に転がる頃には意識も薄れていき、感覚も鈍くなってきているのがわかった
「へ……へへ……ざまあねえぜ……」
俺は誰に言うでもなくそういいながら笑う
完全に意識が途切れる瞬間、『システムメッセージ』が流れる
『一時的ダンジョンをクリアしました』
『クリア報酬を入手しました』
『クリア報酬:【真実への鍵】、【未鑑定の両手杖】を入手しました』
『ダンジョンクリアに伴い強制排出されます』
そうして完全に意識を失った俺は光に包まれ、強制的にこの歪なダンジョンから排出された
「どうだ!?いたか!?」
アッシェが声を荒げている
サーシャは震え、ナナリーもサーシャを抱きしめている
「ううん、やっぱりどこにもいない!私、ギルドに救援依頼出しに行く!!」
アリスがそう言った時だった
急に一面が光り出し、俺の身体は、先ほど吸い込まれた場所にそのまま放り出される
「「「!?」」」
森の穴熊たちがその光に驚くと同時にススムが突然現れたことで一層慌ただしくなる
「なっ!?おい!!ススム!!」
「ススム君!!パック!!」
「言われなくてもわかっている!!」
パックにより緊急治療が行われるが重傷を負っている上に左肩には全く見たことがない、角の生えたゴブリンの頭がぶら下がっている
「このまま緊急帰投する!!」
アッシェの声により森の穴熊のメンバーは足早にここを後にした
第二部『呪いの価値編』完
第22話 「歪なダンジョン」用語の補足
ポップ
魔物の出現という意味。そのため、リポップは再出現という意味となる。
これらは主にRPG等のゲーム用語として使用される。
歪なダンジョン
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��常のダンジョンとは異なり����������
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特殊な魔物
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���������������リポップ��������
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���������������ボス������������
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第22話現在のステータス一覧表
名前:ススム
ジョブ:魔法使い
年齢:二十歳
出身地:不明
種族:ヒューマン
レベル:12
残りSP:0
HP:18
MP:30
STR:3(+10-10)
VIT:3(+10-10)
AGI:4
MND:21(+3)
INT:42
LUK:1
初期スキル:言語理解、ハックアンドスラッシュ
所有スキル:ファイアボール(LV4・性質強化)、炎の防壁(LV2)、炎属性攻撃力上昇(LV1)、継続HP回復(LV1)、MP回復速度上昇(LV1)、MP回復値上昇(LV1)、
現在の装備
メインウェポン:【呪】銅の短剣(STR-10、VIT-10)
オフハンド:木の盾(ルーン石カイ-ゼン)
頭:なし
胴:上等な布の街着(上)(VIT+5)
腕:皮の手袋(MND+3)(ルーン石イッツ-オウ)
脚:上等な布の街着(下)(VIT+5)
靴:皮の靴
首:なし
右指:一角兎の尻尾
左指:銀の指輪(STR+10)




