第23話 「差し込む光」
『……スム……ススムよ……』
なんだ?誰かが俺を呼んでいる気がする
だがその声の主に思い当たる人物はおらず、男か女かもわからない声が聞こえる
『聞こえているね?……今から君に大切な話をする……』
大切な話?よく覚えていないが俺は今それどころではないんだ
『君に“鍵”を渡した……。この鍵はいずれ……』
鍵?
『頼んだぞ……』
おい!?鍵が何だって!重要なところが聞こえなかったって!!何を頼むって!?
そこまで叫んだところで光が差し込む
「う……うん……。ここは?」
見知らぬ天井だ
だが疑問と同時に左半身に痛みが走る
「あいたたた……!」
その痛みがきっかけで、俺は『歪なダンジョン』に一人閉じ込められていたことを思い出す
そうだ!ここはどこだ!?
身体を起こそうとするも上手くいかない
「力が入りにくいな……。というより、よく生きていたな」
俺がそんなことを言っているとガシャーン!と何かを落とした音がした
その音の方へ視線を向けるとサーシャが驚きに満ちた表情を浮かべ涙を流していた
「す、ススムさん!!目を覚まされたんですね!!」
落としたものにも気に留めず俺に近寄ってくるサーシャ
そしてその音に気がついた者たちも部屋を覗いては驚き、どこかへ行ってしまう
ただナナリーだけはサーシャと同じく部屋に入ってきて、サーシャと喜びを分かち合っていた
「サーシャさん、ナナリーさん。えっと……ここは?」
俺の質問に答えたのはサーシャだった
「ここは私の実家にある離れです。瀕死のススムさんをこちらで看病しておりました。もう目を覚まさないかと心配していたんです……!!」
「瀕死……。そうか、本当にあの状態で生きて帰ってこれたんですね」
「……はい。本当にそれはひどい状態でした。それに今も……」
サーシャがそう言いながら俺の左半身に目を落とす
俺もその視線の先に目を移す
そこには左腕から肩にかけて、酷い火傷痕が残っていた
「ところでサーシャさん……。俺はどのくらい寝ていたんですか?」
「約2週間です」
「そんなに!?」
「ええ。ですがこうして目を覚まされました。本当に良かったです……」
そうしてサーシャは再びナナリーとともに涙を流し喜んでくれた
その後、俺がどうしてこうなったのかを教えてくれた
「突然ススムさんは行方不明となり、半日ほど捜索を行いましたが見つからず、冒険者ギルドに支援を求めようとしたときでした
光に包まれたススムさんが、突如として空間から現れたんです
ですが、命があるのが奇跡のような重傷を負っており、緊急でミストヴェイルに戻りました
その後は錬金術師ギルドが薬品を、お祖父様が高位治癒術師を手配してくださり、治療に当たってくださいました
ですが予想以上に傷が深く、今の状態にするのがやっとなくらいで……」
そこまで話すと、サーシャは気を落としていた
だが、俺自身はあの場面で刺し違えてでもという気すらしていたので、こうして命がつながっただけ儲けものである
「そうだったんですね……。皆さんには感謝を伝えないとな」
俺がそう口にすると、サーシャはフルフルと頭を横に振る
「皆さんは元々ススムさんに助けられてきた者たちです。今回はその恩を返したということだけですよ」
「それでもです。やはり自ら感謝を伝えたいですね」
「ふふ。ススムさんらしいですね。ですが、生憎お祖父様は今、王都に向かっておりますので不在です。そのうちこちらに来るとは思いますが、私の方から目を覚まされたという報せだけ送っておきますね」
「感謝します」
ペコリと頭を下げる
「それと他の皆は……?」
この場に『森の穴熊』のメンバーがいないことが気になり、俺が思わず聞くと、サーシャとナナリーは顔を合わせて俺を見る
「他の方々ですが現在、『冒険者ギルド』により謹慎を命じられており活動を停止しています」
「なんだって!?」
こうしちゃいられないと感じた俺は立ち上がろうとするもやはり上手く体が動かない
「ススムさん!無理をなさらないでください……!」
「仲間たちがそんな状態なのに無理をせずになどいられません!申し訳ないですが、着替えをしたいのでどなたかお手伝いを呼んでくれませんか?」
「……わかりました」
そうして呼ばれた男性に手伝ってもらい着替えるが、その際に姿鏡を見て、改めて自分がなかなかの傷を負っていたことを知る
火傷は主に左手から左腕、左肩、首の一部、そして左頬に火傷の跡が残っていた
更に肩口には大きな穴が空いたと思われる部分は塞がってはいるがそれでもはっきりと大きな痕が残っている
外科的な医術に関しては日本よりもこちらのほうが優れているのかもしれない
着替え終わると、サーシャが馬車を用意してくれていたようで俺はそれに乗り込みサーシャとナナリーを伴い、森の穴熊の拠点に向かう
拠点に到着する前にはアリスが察知していたようで、三人が拠点前で出迎えてくれた
「ススムくーん!!」
そう言ってアリスが抱きつこうとするが「あ!」という声をあげ踏みとどまった。
どうやら怪我人だということを思い出した様子だった
「ススム……」
アッシェはかなり精神的に疲弊している様子が見える
パックは何も言わず頷き一つで返事をする
「アッシェ、パック、アリス。すまなかった。現状の皆の状況を聞いた」
それに答えたのはアッシェだった
「そうか……。だが何故一人で【呪われたダンジョン】なんかに!?」
「【呪われたダンジョン】?よくわからんが、心当たりはある。これから冒険者ギルドに行き、カイエンと直接話がしたい。君たちにも聞いて欲しいんだ。来てくれるかい?」
俺がそのように声を掛けると三人は顔を見合わせ頷き、サーシャたちも伴い冒険者ギルドに向かうことになる。
第23話 「差し込む光」用語の補足
高位治癒術師
主に宮廷に仕える治癒術師であり、高位貴族や王族相手に治療を行っているため、平民や一介の冒険者が関わることはない存在。
その力は一般的な治癒師とは全くの別物と言って差し支えないほどで、『死亡さえしていなければ、どんな怪我でも治療できる』と言われるほどの治癒力を持つ。
ただし、負傷してから時間が経ちすぎていたり、特殊な怪我を負っていたりする場合などは完治させることができず、大きく傷が残る場合がある。
命をつなぐことと、傷が見えないレベルまで治癒することは別という認識になる。
冒険者の処分
冒険者規約に違反したものはその内容により様々な処分を受けることがある。
口頭での注意や一時的な活動停止処分。
罰金や最悪冒険者証の強制剥奪と様々な処分があるが、今回の森の穴熊は『謹慎処分』となるため、比較的重い処罰となる。




