第20話 「新たな力」
「うわー!ここがダンジョンなんですね!行ってみたい場所の一つだっただけに感激です!」
ダンジョン内に入り、支度を始めると、サーシャが初めてのダンジョンに感激していた
「あっ!危ないのでウロウロしないでくださいね!」
アッシェから早速注意が飛ぶ
それに反応したのはナナリーで、サーシャの首根っこを掴み、うろついていたサーシャを俺たちのところへ戻した
「ぎゃん!もー……わかってますって」
「でしたら、サーシャ様は常に私の後ろにいてくださいね」
「了解です!」
サーシャがビシッとナナリーに敬礼を返す
そのナナリーはというといつものメイド服ではなく明らかに冒険者のそれになっており俺を含め、他のメンバーも若干驚いている
その様子に気がついたサーシャが説明をする
「ああ、言ってませんでしたっけ?ナナリーはこう見えて、戦闘メイドなんですよ」
紹介されたナナリーは革の軽装に身を包み、自身の身長ほどもある長さの槍を携えている
「この間は安全面を重視するために抵抗はせず、捕まるという選択をしましたが、今回は最初から戦いに備え、サーシャ様の面倒を見ますのでどうか皆様は私たちのことを気にせず戦ってください」
「まあ……そういうことならお任せします。なにせ今回ばかりはあなた方まで庇う余裕があるかどうかはわかりませんので」
さすがのアッシェも今回ばかりは何が起きるか予想できないため、完全に自己責任として任せるようだ
「ええ、それは大丈夫です」
その空気を感じ取ったサーシャの表情が一気に変わる
『森の穴熊』のメンバーに俺がヴェルミナより仕入れた各装備品を配り、その説明を行う
「アッシェ。まず君にはこの首飾りだ」
そうして渡した首飾りは次のような物である
【呪】孔雀石の首飾り
レア等級
基礎値35
INT-7、VIT+5
スキル効果:『シールドバッシュ』使用時、攻撃判定が二度発生する
アッシェはゴクリと喉を鳴らしながら受け取り、今まで装備していた首飾りを外して装備し直す
その様子にアリスとパックも釘付けになり、変化がないかを聞いてくる
「どう?どう!?やっぱ呪われてる!?大丈夫!?」
アリスは半ば混乱状態に近い
「あ、ああ。大丈夫だ。問題はない」
「じゃあ次はパックだ」
俺はパックのための装備を手渡す
【呪】聖職者の上着
レア等級
基礎値34
STR-4、VIT-3、MND+7
スキル効果:『プロテクション』使用時、反射ダメージ効果を付与する。ダメージは使用者のMNDを参照する。
パックも以前から装備していた上着を脱ぎ、聖職者風の今回の装備に袖を通す
さすがのパックでも緊張している様子が見て取れる
「パック!大丈夫!?」
「……ああ。問題はなさそうだ……」
そして最後に一番の問題児のアリスに装備を渡す
今回アリスには最も忌避感を示していることから、あえて【呪われた装備】と【ルーン石】の二つを渡す
「なんで私だけ二つなの!?」
「一番嫌がっていたからさ」
「嫌がらせか!!」
「違うって!!一番忌避感が強い人に本来の効果を知ってもらえれば、その分心の変化も大きいだろうと思ったんだよ!それに、たまたま現状で確認できる範囲で用意できたのがこうなったっていうのもあるんだよ」
「ううう、死んだらススム君の枕元に出てやる……!!」
そう言いながら装備をおっかなびっくり手に取り、恐る恐る今の装備から変更する
アリスに用意したものは次の二つになる
【通常品】上等銀の指輪
アンコモン等級
基礎値26
AGI+5
スロット2(ルーン石カツ-ワン)
ルーン石【カツ】
【基本スキル使用時】
ルーン石【ワン】
【攻撃属性が打撃属性に変化し攻撃の接触面積が1.3倍になる】
【呪】古ぼけた皮の手袋
レア等級
基礎値29
STR-2、MND-3、LUK+4
スキル効果:クリティカル攻撃発生時、対象に2秒間のスロウを付与する
「うひいーーー!」
いちいち手を通すたびに悲鳴を上げる様子が面白くなり、思わず笑ってしまう
「笑い事じゃないんだが!!」
「まあまあ、それにもう装備し終わってるじゃんか?体調に変化は?死にそうかい? 」
俺がそんな風にアリスに聞くが、アリスは涙目になりながらも「……大丈夫」とだけ答える
ちなみに今回、俺用にも【ルーン石】を追加ではめ込んでいる
【通常品】皮の手袋
コモン等級
基礎値20
MND+3
スロット2(ルーン石イッツ-オウ)
ルーン石【イッツ】
【防御系スキルまたは魔法発動時】
ルーン石【オウ】
【基本スキルまたは魔法として扱われる】
さらに今回のルーン石に合わせ、未使用になっていたSPも消費している
炎の防壁(性質強化):炎の防壁の性質を強化する。炎の防壁展開時、攻撃に炎属性が追加され、さらに稀に炎上させる
「これで良し。準備完了だ」
今回の装備によって見た目が大きく変わったのは胴体の装備を変更したパックくらいであとのメンバーに特に変わった様子は見られない
だが、それはあくまで外見的な話であり、性能はまさしく破格だった
いつものようにフォーメーションを展開し、索敵に移り、移動中アリスより口笛で『小型の魔獣、一匹』の合図が鳴る
そこで俺はアリスにあえて、アリス単騎で獲物を仕留められるか確認を取る
「ええ?私一人で?うーん……」
そう言いながらも獲物を狙い、アリスが放った『精密射撃』は『基本スキル』のため、ルーンが発動し大きく性質を変えることになる
シュッ!と飛んでいった矢はおよそ時速200km近い
小型の魔獣も飛んできた気配を察知するが、避けるより先に鏃が魔獣へと当たるその瞬間、それは起きた
ドゴン!!
とても矢がぶつかったとは思えない、金属製の大型ハンマーで殴り飛ばしたような音が響き、魔獣の身体が一瞬だけ大きく沈み込んだかと思うと、そのままはるか遠くまで吹き飛ばされる
それはとても矢が直撃した光景とは言えないようなものであった
「「「!?」」」
結果を予想していた俺を除くメンバーが思わず立ち上がり、何が起きたのかと確認をする
一番驚いていたのは言うまでもなく『ソレ』を行ったアリス本人であった
まるで何が起きたか理解できないといった様相である
「アリス!今のは!?」
思わずアッシェが声をかけるが、アリスは口をわなわなと震えさせながら「い、いつも通りのはず……だったけど……」とやはり信じられないという印象を受けたようだ
「まあ、これから、これから」
俺がそう言ったことで皆はハッとしていた
確かにまだ始まったばかりなのだと
次の獲物は中型の猪型の魔獣だった
ここは先にパックが、いつものセオリー通り『プロテクション』をかける
だが、その『プロテクション』も何かが違う
違和感を覚えるパックを横目に、俺はあえてアッシェに、最初は攻撃を受けるよう声をかける
「あ、ああ。わかった……」
そうして猪の前に飛び出し、アッシェの『挑発』が発動
バンバン!!と金属同士が激しくぶつかる音に興奮した猪型の魔獣は、アッシェ目掛けて文字通り猪突猛進する
アッシェもそれに対抗すべくどっしりと腰を落とし、構える
そして猪がアッシェに接触するその瞬間
バギン!!
例えるなら大きなガラス製の食器を派手に割ったときのような音が響き渡る
アッシェは微動だにせず、吹き飛んでいたのは突っ込んできていた猪型の魔獣だった
再び一同に動揺が見られるが、俺は冷静に獲物が生きていることを確認し「アッシェ!!」と声をかける
アッシェもその様子に気がついたようで即座に吹き飛んだ猪型の魔獣に追撃を行い、『シールドバッシュ』を行う
だが、これもいつもと大きく違う
一度放たれた『シールドバッシュ』は、ドゴ!ドゴン!!と二度の衝撃音を響かせ、当然ながらそれを食らった猪型の魔獣はすでに絶命しているどころか、明らかにやりすぎなくらいのダメージを負っている
「ススム……!さっきのは……?」
珍しく動揺しているパック
俺はここまでの二戦で起きた事象を休憩の時間を利用しながら説明する
「最初のアリスの件だが、あれは矢の当たり判定がおおよそ握り拳位の大きさになって通常の矢の効果の『刺突』が『打撃』に変わった結果だよ。要はとんでもない速さのどデカいハンマーでぶん殴ったようなもんだ」
「それであんな事に……」
アリスは唖然としながら自身の手を見つめている
「パックとアッシェのだが、パックの『プロテクション』に反射ダメージが発生したんだ。ちなみにMNDが高ければ高いほど反射ダメージが大きくなる。アッシェのは、『シールドバッシュ』が一度で二回の攻撃判定が発生している。相対的にスタンの発生確率も上がるはずだ」
「そ、そんなことが……」
パックとアッシェはお互いを見ながら驚く
サーシャはというと、俺の言葉を漏らすまいと、なにか必死にメモを書いている
「サーシャさん?」
情報漏洩の観点から、メモは良くないと思ったがそれもサーシャは織り込み済みだったようだ
「ああ、大丈夫ですよ!!ヴェルミナに報告後、これは燃やしますんで!!」
「……それならいいんですが」
やはりどこかサーシャとヴェルミナは似ている気がする
「ところでアリス。次の獲物はぜひあいつにしたいんだが、いそうかな?」
俺がそう言うとアリスは一瞬考えたあと「ああ!」と口にし探しに出かけ、直ぐに発見した様子で戻ってきた
「あっちにいたよ!リベンジマッチだね!」
「ああ、今度こそ正面から倒してやろう」
俺が声をかけるとギラリと森の穴熊のメンバーの目が光る
そう、その相手とは以前の指名依頼の際手も足も出ず、正攻法ではない方法でようやく倒すことができた大岩蛇である
今回は明らかに前回とは違う
だが、それでも気を緩めることはせず、最大限の準備をしてから俺たちは攻撃を仕掛けることにする
パックが『プロテクション』を掛けた上から、さらに俺が性質強化をした炎の防壁を掛ける
『紅蓮の理よ、我らを包み、迫る脅威を焼き払え――炎の防壁』
それと同時に俺たち森の穴熊のメンバー全員の身体に薄い火球がくるくると回り始めると同時に性質強化のせいだろうか、各々が持つメインウェポンにもほのかに赤い光が宿り、手にすると温かく感じられる
さらには俺の小盾のルーンの結果も有り、二頭の炎を纏った大型の狼が出現する
二度目だというのにやはりなれないのか森の穴熊のメンバーは全員目を丸くする
だが、アッシェは直ぐに気を取り直し「いくぞ」と声をかける
今回は場所を移る必要はないため先制攻撃で一気に仕掛ける
アッシェがアリスに合図を出すと同時に、二発の『精密射撃』が放たれる
だが、先ほどと違うのは矢が炎を纏っていたことだ
その炎を感知したのか、大岩蛇は以前と同じくとぐろを巻き、防御姿勢に移る
だが、今回はそれが悪手になる
大岩と同等の大きさと硬さを持つ大岩蛇に対し 、二発の大型ハンマーのような打撃と化した矢がぶつかる
ドゴン!!
以前はその鱗に弾かれていた矢が弾かれるどころか鈍い音を立てて大岩蛇の身体にめり込み大岩蛇を宙に浮かせる
それを見たアッシェもすかさず距離を詰める
すでに大岩蛇は二発のうち最初の『精密射撃』のダメージで防御の体勢が大きく崩れている
アッシェは冷静にその様子を見てから顔面めがけ上から下に振り下ろすように炎を纏った『シールドバッシュ』を叩き込む
バガ、バガン!!と二度の衝撃を受けた大岩蛇は上から下に撃ち落とされた形になり、地面に大きく叩きつけられ、反動でもう一度宙に浮く
タンクにも関わらず、アッシェから放たれた『シールドバッシュ』は下手な近接ダメージディーラーの攻撃すら凌ぐ、強烈で重い一撃となる
さらに性質強化をしている炎の防壁の効果で激しく燃えだす大岩蛇
その様子にアッシェが少し後退したところに、俺のルーン石で召喚されていた炎を纏った二頭の大型狼が、大岩蛇を逃すまいと食らいつく
まさしく瞬殺
あれだけ手こずり、あわやこちらに犠牲者が出たかもしれなかった相手――大岩蛇は、戦闘終了後、見るも無惨な消し炭となり、魔素となって大地へ帰っていった
俺たちはその様子を見て、お互いの顔を見合い「うおおーー!」と勝鬨をあげる
第20話 「新たな力」用語の補足
戦闘メイド
高位の貴族になるにつれ、従者には下位貴族階級の者が多い。
特に代々優秀な兵を輩出している貴族階級の者が従者となり、同時に護衛の任に就く者も少なくない。
それが男性であれば『戦闘バトラー』と呼ばれ、女性の場合は『戦闘メイド』と呼ばれる。
呪われた装備への忌避感
本文ではアリスが強烈な忌避感を示しているが、これはアリスが特別なのではなく、この世界においてはこれが一般的な反応となる。
忌避感を生み出しているのは、はるか昔より受け継がれている様々な呪われた装備の負の逸話によるところが大きく、また幼少期よりそうした逸話を教育の一環として聞かされている者も多いことから、このような反応となる。
プロテクション
治癒師が行うバフ魔法の一つ。
物理防御力を主に強化するという効果があり、熟練者になると物理防御力だけではなく魔法防御力や各種耐性まで一度に上昇させることができる、治癒師には必須のバフ魔法となる。
精密射撃
狩人等、弓を使う戦闘スタイルにおける基本スキル。
基本的に単発射撃になるが、熟練者ほど一発ごとの間隔が短くなり、精度も上がる。
物理属性
物理属性と呼ばれる属性は大きく分けて三種類に分類される。
一つ目が剣等で切られた際に発生する斬撃属性。
二つ目は槍や弓等で突かれた際に発生する刺突属性。
三つ目は殴打等によって発生する打撃属性である。
今回相対することとなった大岩蛇は物理耐性が高いが、正確に言えば斬撃、刺突属性には特に強く、殴打属性は比較的通りやすい等の特徴がある。




