第19話 「呪われた装具店」
奥の暗がりから出てきた老婆、ヴェルミナが俺達の存在に気が付く
「おやおや……。お前も随分と珍しい客を連れて来たね。サーシャ。まさかお前たちを救ってきた者たちを【呪われた装具店】に連れてくるとは」
「【呪われた装具店】……?」
珍しく気圧されているアッシェがヴェルミナに問いただす。
「ああ、そうさ。ここは『常闇の装具屋』――界隈じゃ【呪われた装具店】とも呼ばれている店さ。ゆっくりしていきな……『森の穴熊』リーダーのアッシェ」
まだ名乗ってもいない俺たちのことを知られていることに驚くとともに、一気にアッシェの警戒心が強くなったのが俺にもわかった
「そう警戒しなさんな。お前たち『森の穴熊』は界隈じゃ有名なんだからね。ふぇーっふぇっふぇっふぇ!」
笑い方まで本当に童話に出てくる魔女のような笑い方に若干引く
「それで?今日は何を探しに来た?」
その言葉に俺が前に出て答える
「【呪われた装備】と、【呪われた石】を探しに」
その瞬間、ヴェルミナの目の色が明らかに変わる
「ほう……?『何が書かれているかもわからない物』を探しに?」
「そうだ。見させてもらっても?」
「はん。勝手にしな!」
ヴェルミナがそう言うと、どかっと部屋の隅に置かれていた、奇妙な背もたれの椅子に腰を掛け、俺たちの様子をうかがい始めた
「じゃあ、遠慮せず」
俺はヴェルミナにそう伝え、早速物色し始める
品々を見るにやはり客は年単位で来ていないということが容易に想像できた
埃を被り、いつからあるのかすらわからない
町外れにある、昭和の時代から続いているのに、なぜか潰れずに残っている個人経営のおもちゃ屋を見ているような、不思議な感覚にとらわれる
最初は『森の穴熊』のメンバーもおっかなびっくり見ていたようだが、俺の物色が時間がかかるとわかると、「少し外に行ってくる」と外出していく
その様子を見たヴェルミナは何も言わず眉を上げる
サーシャとナナリーもヴェルミナと同じく席に座りただ俺の様子を眺めている
何となく印象としてサーシャの醸し出すミステリアスな雰囲気がヴェルミナに重なる
しばらく物色してからようやく俺は『森の穴熊』のメンバー三人の物に加え、俺の分も含めた新たな装備とルーン石を探し出す
その頃には『森の穴熊』のメンバーも店に戻ってきていたが、道に迷い大変だったと漏らしていた
シーカーであるアリスがいて迷うとは相当わかりにくいのだろう
「それで?お前が選んだものは、どうやらいくつもあるようだが? 」
「ああ、そうだ。で、いくらになりそうだ?」
「ふーむ……。そうさな……」
そう言ってヴェルミナは五本指を立てる
「な……!5万ミラル……!?」
アッシェがその値段に驚愕するが、どうやら桁が違うらしい
「はん!価値のわからんバカタレめ。50万ミラルだよ」
「5、50万ミラルー!?」
そう言って飛び跳ねたのは他ならぬアリスだった
「ススム!!話になんないよ!こんな訳がわからないものにそんな価値があるとは思えないよ。それにそもそもうちにはそんなお金ないんだからね!!」
確かに50万ミラル、日本円に換算すると約500万円に匹敵しかねないその金額は非常に高額だ
お金にうるさく、【呪われた装備】をゴミと切り捨てるアリスでなくても同じ反応になるだろう
だが俺は、当然裏があると睨んでいた
「だが……」
「やはり条件付きか」
思った通り続きがあるらしい
「おや……想定済みか……?」
「そりゃそうだろう。俺たち『森の穴熊』のことを知っておきながら、商品を最後まで何も言わず選ばせ、そして額を提示したんだ。であるなら、何かしらの条件を付けて俺たちでも買える値段まで値下げするんじゃないかと睨んでいた。例えば……情報とか」
俺がそこまで言うとヴェルミナは盛大に笑い出す
「ふぇーっふぇっふぇっふぇ!!本当に面白いやつを連れてきたな。サーシャよ」
「ふふ」
サーシャがヴェルミナに褒められ笑っている
「そうだ。私が欲しいのは情報さね。条件を飲むなら割り引いてやってもいい。」
「……聞こうか」
「よかろう。条件は二つ。一つ、お前が持っている装備と石についての情報を渡せ。二つ、これらを試すならサーシャに立ち会わせ、そしてその情報を貰う」
「一つ目は予想できていたが、二つ目は?」
「どうせ試す際にはダンジョンへ行くんだろう?私の脚じゃ当然そこまで出向けない。だからこそサーシャの『目を通す』」
「なるほど……そこまでお見通しか」
「伊達に年食っちゃいないよ」
「だが、その条件についてこちらも条件を出す」
「ああ、わかっている。情報の秘匿だろう?そんなもん言われないでもそうするさ」
俺が最も懸念していた点を問題にもならんと一蹴するヴェルミナ
「まあいい。そこまで話が通じる相手なら問題はないだろう」
俺がそう言うとアッシェが腕をガッ!と強く掴んできた
「ススム!そんな簡単に決断して良いのか!?」
掴んできたアッシェの手を優しく解き、俺は笑顔を見せる
「この手のコレクターに対しては情報っていうのは一種のステータスだからね。それを理解している人間ほど、情報が漏れることは『決してない』よ」
その様子を見たヴェルミナが嬉しそうににたぁっと笑う
「それで、その二つの条件を飲むとしたら、いくらになる?」
「ふぇーっふぇっふぇっふぇ。ならさっき、アッシェの坊主が勘違いした金額でいいさね」
「それでも5万ミラルじゃないか!とてもじゃないが今の僕たちじゃ無理だぞ!」
アッシェが声を荒らげるが俺には一つ宛があった
むしろこれしかない
「なるほど……。俺のことも『十分に』知っているわけだよな」
「さて、なんのことだかな」
ヴェルミナは呆けたふりをするがとんでもない狸ババアだ
俺はここで、今まで言う必要がないと思っていた薬草類の定期収入について『森の穴熊』のメンバーに伝える
「ええええ!?ススム君、そんな収入があったの!?」
「……噂は聞いたことがあったが、まさかそんな事になっていたとは驚きだ」
それにパックも頷き、三人とも驚きを隠せないでいた
「い、いやあ……。正直忘れてたっていうのが大きいかな……。あはは……」
「忘れて良い金額じゃないよ!!」
アリスにそう言われゆっさゆっさと揺さぶられる
「ま、まあ今回の装備を買ったとしても追々収入があるから、それはしっかりパーティに渡すよ」
だがそれに拒否を示したのはアッシェだった
「いや、それは認めない」
「なんで?」
「それはススムが『個人』として頑張って得た結果だ。それを何もしていない僕たちが得ることはできないよ」
「う、うーん……」
「そりゃあ、私だってそんなのあったら欲しいけどさ!やっぱそれを貰うのは違うと思うんだよね」
パックもそれに頷く
「そっか、すまない。ただ今回については俺のある種のわがままに皆に付き合ってもらう形になる。だからせめてこれだけは払わせて欲しい」
アッシェは俺の言葉に「うーん」と悩んでいるがその隙にヴェルミナと支払い契約を進めてしまう
「ちょ!ススム……!」
「なはは。すまない。もう支払いの契約は終わったよ」
「毎度あり。ふぇーっふぇっふぇっふぇ!」
装備品を受け取り、マジックバッグに仕舞い、俺は第一の条件として、持っている情報を開示する
内容は『森の穴熊』のメンバーに公開したものと同じだ
「なんと……。この【呪われた文字】が読めるのか……。そこまでは流石の私でも予測できなんだ」
「そいつは良かった」
「で?今回買ったものはどんな物なんだい?」
ヴェルミナが一層目を輝かせる
「さあ?それはサーシャからの土産話を楽しみにするんだな」
「くっ!クソガキが!」
「あっはっは!」
ヴェルミナに一泡吹かせて、俺はいい気になる
数日後、準備を整え俺たちは実験すべくミストヴェイルダンジョンへと足を踏み入れる
第19話 「呪われた装具店」用語の補足
登場人物
ヴェルミナ
【呪われた品々】を専門に取り扱っている『常闇の装具屋』の店主。
年齢不詳の老婆であり、童話に出てくる老魔女のような風体をしている。
なぜこのような店を持つことになったのか、また、これらの品々がどこから流入しているのかは一切の謎。
サーシャとは何かしらの繋がりがあるようで、サーシャ自身、ヴェルミナを古い友人と呼んでいる。
また、非常に優れた情報収集能力を有しており、本来であればギルド内でも副ギルドマスター以上でなければ知り得ないような情報ですら持ち合わせている様子を見せる。
【呪われた品々】の価値
世間一般では回収されたあとに処分されるものとされており、その価値はほぼ無いと思われていたが、『常闇の装具屋』では異常な高値で取引されていることが確認される。
また本文でも記載したように一定数の『収集家』がいるようで、密かに取引されていると思われる。




