第17話 「ルーン石」
第17話 ルーン石
『ルーン石』と表示されたその石を手に、俺は言葉を失っていた
すると、穴熊の面々が大きな声を掛けてくる
「ススム!? 大丈夫か!」
「ススム君!!そんなの捨てちゃっていいから!」
「ススム!!」
三人に声を掛けられたことでハッとし、「大丈夫だ」と伝え、アッシェたちに『この石』について聞く
「皆、良ければこの石について『知っている』ことを教えてくれないか?」
「えっ!?その石について?」
アリスはそう言い、考えることすら嫌だというように顔を青ざめさせている
アッシェを見ると、何か考えた後、ゆっくりと口を開く
「……その石は【呪われた石】と呼ばれている。ススムは【呪われた装備】については知っているか?」
俺はふと、腰に下げている短剣に一瞬目を向けるがアッシェの目を見つめ直し「ああ、知っている。」と答える
「それならば、話は早い。その石も【呪われた装備品】と同じように、見ての通り書いてある文字がぐちゃぐちゃとしていて何が書かれているのかが不明だ。なので、そもそも『何に使うもの』なのかも、全く分かっていない」
「じゃあ、『呪われた』と言われてはいるが実際に誰かがこれで傷ついたとかの話ではなく、単に『文字が同じような形をしているから』呪われたと言われている、そういう認識で良いのか?」
「そうなる」
俺はそれを聞き、ぎゅっと『ルーン石』を握る
「アッシェ。一旦引き上げないか?戦利品もかなり得られたし、サーシャさんに聞きたいことができた」
俺が真剣な表情でそう言うとアッシェは目を見開く
反対するかと思われたが、意外にも答えは「わかった」という端的な内容だった
馬に乗り帰る間も、アリスは決して俺の近くに来ることはなく、アッシェもパックも口を閉ざしたままだ
それだけでこの【呪われたアイテムたち】がどれだけ忌避された存在なのかを認識するには十分だった
だからこそ、俺はもしかしたら折角できたばかりの仲間たちを失うかもしれない
そう覚悟せざるを得なかった
沈黙のまま、街の中に入り拠点へと戻るとサーシャとナナリーが出迎えてくれる
「お帰りなさい!随分と早かったですね!それに……、何かあったんですか?」
サーシャは俺たちを包み込む異様な雰囲気に気がついたようだ。
そこで俺は単刀直入に聞くことにした
「サーシャさん。商人としての貴方に聞きたいことがある。この『石』を見て欲しい」
俺は懐にしまっていた『ルーン石』を取り出し、サーシャに見せる
サーシャの反応は穴熊の面々とはまた別の反応だった
一瞬眉を寄せた後、忌避するでもなく悲鳴を上げるでもなく淡々と答える
「知っていますよ?『呪われた石』……ですよね?これが何か?」
「サーシャさん、この『呪われた石』、他にも持っていませんか?もしくは他に扱っている商人を知りませんか?」
単刀直入に話を切り出すと、穴熊の面々がやはり驚く
「なっ!?」
「ススム君!?」
だが、俺の表情は真剣そのものだ
サーシャは俺のそんな表情をじっと見つめ、何かを『視ている』ようだった
だがそんな様子もすぐに消え、真剣な表情で俺の目を見つめ返す
「……ありますよ。『呪われた石』。そんなに数はないですが取り扱っています。……見ますか?」
俺は思わず心のなかでガッツポーズをする
「ああ、是非お願いします!」
その一連の様子を見ていたアッシェは何も言葉にはしなかったが顔はかなり険しい
当然の反応だろう
パーティのリーダーとして、メンバーを傷つけるような代物を扱うような人間は危険人物に他ならないからだ
「……アッシェ。お前が考えていることは十分理解している。だがその上でしばらく協力して欲しい」
「……良いだろう。だがメンバーに危害が及ぶ時は……」
「それも覚悟の上だ」
俺がそう言うとアッシェは頷き、了承を伝えた
案内された拠点となりのサーシャとナナリーの家はまだそんなに日にちが経っていないにも関わらず、すでに物が多い
だがそれでもきちんと整理されているのは商人の性なのだろうか
「さあ、こちらです」
そう言ってサーシャは一つの小さな宝石箱のようなものを取り出す
「ナナリー。」
「はい。サーシャ様」
サーシャに促されたナナリーは首に下げた鍵をサーシャに渡す
それはサーシャの持ち出してきた宝石箱の鍵だったようだ
これを見るだけでも厳重に保管されているのがわかる
机の上にコトリと置かれた箱にサーシャが手渡された鍵を通す
ガチャリ
開いた箱の中は綺麗に整えられ、それこそ宝石と同じように陳列されている
「さあ、どうぞ?」
サーシャに促され、俺は『ルーン石』を一つ一つ確認しながら物色する
「ねえ、アッシェー……」
その様子を見ていたアリスはパックの後ろに回り込み目に入れないようにし、アッシェの袖口を引っ張っている
「……」
だがアッシェは返事一つせず、ただ俺のことをじっと見ているのがわかる
いくつかの『ルーン石』を見つめ、俺はある法則があることに気がつく
「やはりそうか。それならば……。あ、そうだ。重要なことを忘れていた。さっきの戦利品のいくつかに『スロット』と呼ばれるものがあったがあれは?」
非常に重要なことを思い出し顔を上げ、アッシェに聞く
「『スロット』とは戦利品や制作品に関係なく開く穴だ。この『スロット』には普通、『特殊加工された宝石』を埋め込むことができる」
「……効果は?」
「その埋め込む宝石によって左右されるが主に『筋力や体力など』の底上げか『状態異常に対する耐性』が付与される。だが俺たちみたいに金がない冒険者にはほとんど縁がないものだ」
「理由は?」
「単純に費用の問題だ。効果が高いものはとんでもなく高額になり、逆に一般冒険者でも手に入るような宝石は品質としてはほぼゴミに近いものしかない」
「なるほど……。あ、あった。これだ」
「だが、例えゴミだろうと、『宝石』を『スロット』に入れれば強化はされるんだな?」
「ああ、それは間違いない」
「ありがとう。十分だ」
非常に重要な要素となる『スロット』のことを聞きながら、俺は二つの『ルーン石』を選び出した
「サーシャさん。お願いがあります」
「いいですよ。持っていってください」
「えっ?俺まだ何も言ってないですが」
「ふふ。大丈夫です。その代わり、私もしっかりと『視させて』もらいます」
「……まあ、そういうことでしたらありがたく」
サーシャの目はまるで何かを狙う炎が灯ったようなそんな目をしていたのが印象的だった
「あとは、今日の戦利品見せてもらって良い?」
俺が戦利品を管理しているアリスに声を掛けるとまるで番犬のように牙を向けて今にも噛みつかんばかりの勢いで警戒される
「がるるるる……!!」
だがそれもパックに首根っこを掴まれ、引き剥がされた
「……ゆっくり見て構わないぞ」
「助かる」
俺がパックに礼を言うとアリスがパックに「裏切り者ー!」と叫んでいた
いくつかの戦利品を確認し、一つの木製の盾が目に入る
【コモン:木の小盾】
効果:VIT+1
基礎値3
スキル効果:無し
空きスロット:2
「見つけた。これだ」
手にした何の変哲もないコモンの小盾
穴熊の面々もサーシャたちも、俺がこの小盾を重要視する理由が分からず、首を傾げている
そんな面々をよそに俺は選んだ『ルーン石』を空いている『スロット』に慎重に近づける
すると思った通り、石はスロットに吸い込まれるようにすっと入り収まる
「「「えっ!?」」」
その様子を見ていた面々は、信じられないといった様子で目を見開き、声を漏らす
俺はそんなのお構いなしでもう一つの『ルーン石』もスロットに収める
「できた……。後は……。実験するからちょっと外に出てくれないか?」
俺はその小盾をオフハンドに装着しながら一行と一緒に外に出る
全員が外に出て、周りが安全であることを確認してから俺は呪文を唱える
『紅蓮の理よ、我らを包み、迫る脅威を焼き払え――炎の防壁!!』
呪文がマナと魔素と混じり合い、熱を帯びる
そしてその熱は次第に炎となり、シュボッ!!という音とともに俺を守る障壁を一瞬作り、そして三つの炎の珠が俺を守護するようにぐるぐると回りだす
ここまではいつもの、穴熊たちも知っている 炎の防壁だ
だが、ここからは未知の領域
突如としてそれは起きる
炎の防壁が完成すると同時に炎を纏った緋色の魔法陣が突如として俺の足元に大きく展開される
そしてその魔法陣より一際大きな炎が立ち上るとともに、現れたのは、炎を纏った二頭の大型の狼だった
「「アオオオオォォォン!!」」
明らかに異質な『ソレ』に、穴熊たちのメンバーは本能的に距離を取り身構える。
だが、俺は「大丈夫。」と制する
そう、召喚された炎を纏った二頭の狼たちは敵対するどころか俺を守護するように居座る
余りの光景にアッシェが目を見開き口を開く
「す、ススム……。その狼たちは……?」
「ああ。説明する。ちょっと待っててくれ。もうすぐだから」
「もうすぐ?」
アッシェが疑問を口にするとその二頭の狼たちはシュボッ!と炎となりスッと消えていく
「すまなかった。待たせた。説明させてもらうよ」
「そうしてもらおうか」
「……これを言うのは穴熊のメンバーたちだからこそだ。信じてほしいし他言はしないで欲しい。俺は……【呪われた文字】が読める」
「なっ!?」
「ええ!?」
あまりの衝撃に一同が固まる
当然の反応だろう
今まで全く解読できず、忌避すらされてきたものを『読める』というのだ
存在自体が不吉だと思われてもおかしくはない
「まずはさっきの狼たちだ。これを見て欲しい」
先程の小盾を見せ、スロットに二つの『ルーン』がはまっている様子を見せる
「この【呪われた石】の本当の名前は『ルーン石』……と言うらしい。そしてこの石には各種効果がある。今回装備したのは『ルーン石:カイ』、『ルーン石:ゼン』と言い、これらは二つを組み合わせることで初めて効果が発揮されるようだ」
「ルーン石……。聞いたことあるか……?」
アッシェが振り返り確認を取るが全員が頭を横に振る
「まあ、あれだけ忌避されてたんだからそんなもんなのかもな。ちなみに効果だが、『ルーン石:カイ』は【魔法の詠唱を完了した際】で『ルーン石:ゼン』が【唱えた呪文の属性を纏った狼二頭を60秒間召喚する。再使用間隔90秒。】になる。つまりさっき俺は、炎属性の炎の防壁の呪文を詠唱したから、炎属性の二頭の狼が60秒間だけ出現した、ということだ」
「そ、そんなことが……」
「この『ルーン石』はさっきも言ったが二つで初めて効果を得るようだ。今回は『ルーン石:カイ』の方が【発生させるための条件】、『ルーン石:ゼン』が【条件を達成した後、得られる効果】になっている。サーシャさんの他の石もざっと見たが、基本的にすべての石がこの法則に従っているように見えたのでまず間違いないと思う」
「まさかあの【呪われた石】にこんな効果があったなんて……」
一番興奮しているのは石を収集していたサーシャであったが、やはりそれは畏怖や恐怖ではなく、熱を帯びた感情に思えた
ここまで説明をした時、アッシェから確認があった
「ススムはさっき、【ルーン石に何が書かれているかがわかる】、ではなく【呪われた文字が読める】、そう間違いなく言ったな?」
アッシェがなにか感づいたように確認を取る
「ああ、そういった」
「根拠は?」
そう聞かれるのはわかっていたので俺は一瞬目を伏せた後、「ふーっ」と一呼吸入れた後、腰から銅の短剣を抜き、掲げる
「これが根拠だ。これも【呪われた装備品】だと言われたが、俺には内容は読めているし、実際の効果も今までの戦闘で実証済みだ。間違いない」
言い切った
これを言ったせいで、パーティメンバーからの俺を見る目が変わり、パーティを追放されるかもしれない
ドッドッド……と心音が高鳴る
だが、答えは意外なものだった
「そうか。わかった」
アッシェはただ一言、そう言葉を残すだけだった
第17話 「ルーン石」用語の補足
ルーン石
一見するとただの真っ黒い小さな小石に見えるが、その中心には金文字で一文字だけ書かれている。
文字とは言うが、どちらかと言えばシンボルマークに近く、世界中を探しても存在しない文字となっている。
注目すべきは、その効果であり、全てのルーン石には【呪われた装備品】と同じく、効果を示す【呪われた文字】が書かれているため、読むことができる人物がいないという実情があった。
世間では【呪われた石】と言われ、【呪われた装備】と同様に忌避されている。
ルーン石のルール
ルーン石を正しく使用するにはルールがあり、そのルールに従わなければ効果が発動しない。
それが【二つで一つの効果】になるという点である。ルーンには【発動条件】が書かれたものと【発動効果】が書かれたものの二種類が存在している。
そのため、一見すると【発動効果】だけでも効果が発動するように見えるが、【発動条件】が存在しないため発動することはない。
また、このルールは必ず一つの装備品だけで完結させなくてはならず、一つを頭、もう一つを手に設置したところで効果は発生しない。
スロット
基本的なことは本文参照。
ルーンにおいてはこのスロットが非常に重要であり、上記のルールを発現させるためには、必ず一つの装備品に2つの空きスロットが必要となる。
ちなみにこのスロットの有無によってレアリティが変わることはなく、また通常であればそのスロットを埋める役割を特殊加工した宝石が担うが、安価な宝石では得られる効果も低いため、冒険者はもちろん、取り扱う商店に至るまで重要視されておらず、スロットの有無で価値が変わることはほぼない。
サーシャとルーン石
サーシャがなぜ、ルーン石を宝石箱のようなものに入れ、鍵をナナリーに預けていたのか、現時点では謎。
だが、その扱いを見る限り、粗雑に扱っているのではなく、高価な品として大切に扱っているように思える。
第17話現在のステータス一覧表
名前:ススム
ジョブ:魔法使い
年齢:二十歳
出身地:不明
種族:ヒューマン
レベル:6
残りSP:1
HP:9
MP:15
STR:3(+10-10)
VIT:3(+10-10)
AGI:4
MND:10
INT:21
LUK:1
初期スキル:言語理解、ハックアンドスラッシュ
所有スキル:ファイアボール(LV3・性質強化)、炎の防壁(LV1)
現在の装備
メインウェポン:【呪】銅の短剣(STR-10、VIT-10)
オフハンド:木の盾(ルーン石カイ-ゼン)
頭:なし
胴:上等な布の街着(上)(VIT+5)
腕:なし
脚:上等な布の街着(下)(VIT+5)
靴:皮の靴
首:なし
右指:一角兎の尻尾
左指:銀の指輪(STR+10)




