第14話 「これから」
「よし、揃ったな。じゃあ、早速報告に行こうか」
アッシェが皆の様子を確かめ、声を掛けた
「にっしし。報奨金、報奨金!」
アリスが嬉しそうに浮かれている
ギルドに入ってまず最初に声を掛けてきたのは、受付嬢であり副ギルマスでもあるセリーヌだった
「穴熊の皆さん!それにススムさんも!お帰りなさい」
「ただいま戻りました」
アッシェがリーダーとして挨拶をすると、すぐにカイエンが、珍しく自ら階下に降りてきて声を掛けた
「よお。無事に戻ったみたいだな」
そう言うと親指でくいっと「二階に上がれ」とジェスチャーをする
今回は本来の『指名依頼』に加え、『誘拐された人々の救助と賊の確保』までしてきたのだ
ギルマスとしても聞きたいことは山ほどあるだろう
俺達は素直にその仕草どおり、二階の『いつもの部屋』に通された
この部屋は何かと縁がある場所だが、良い思い出ばかりではないので少し苦手だ
「さて、どこから聞いたもんかな」
カイエンが顎に手を当て口を開いたときだった
一階のギルド内が若干騒がしくなっていることに気がつく
廊下では「閣下!困ります!」とセリーヌが誰かを止める声が聞こえる
だがその声もお構いなしにズンズンと重い足音が近づいていき、ドアがバン!と開かれる
そこにいたのは、先ほど紹介されたサーシャの祖父であり、前伯爵でもあるヴォルフガングとそれを止めようとしているセリーヌの姿だった
流石のセリーヌも、前伯爵ほどの立場にある人物を無理に止めることはできなかったようだ
「今回の誘拐事件の件。儂も当事者だ。話を聞かせてもらおうか」
そこにすっと間に入ったのはカイエンだった
「ヴォルフガング様。申し訳ありませんが、ここは冒険者ギルド。腐っても俺の領分です。勝手をされては困ります」
「わかっている、カイエン。だからこそ、儂は余計な口は挟まん。ただ話を聞かせてもらいたいだけだ」
ヴォルフガングがそこまで言うとカイエンは大きなため息を吐いた
「本当に強引なお人だ。セリーヌ、ご苦労」
カイエンがそう言うとセリーヌは一礼して去っていく
今のやり取りを見る限り、二人が昔からの知人であることは間違いなさそうだ
あれ? そう言えば後日、使いを寄越すとか言ってなかったっけ?
まあ、今回の件はサーシャも巻き込まれている。予定が変わったのだろうか
「で?どこまで話した?」
「これからですよ」
「なら丁度良かったな。では聞こうとしよう」
アッシェが『森の穴熊』のリーダーとして報告を始め、当初の依頼完了後の帰り道に荷馬車を発見したところから、今現在に至るまでを話す
それは簡潔だが要点をしっかりと押さえた、お手本のような報告だった
「……そうだったか。ご苦労。アッシェ。お前たちが捕らえた賊だが、ビンゴブックに名が載ってる賊どもだった。近いうちに公式に討伐依頼が出される予定も立っていたところだ。お手柄だったな」
カイエンが率直な意見を述べた
こんなにも人を褒めるカイエンを見たのは初めてかもしれない
何しろ俺の知っているカイエンはいつもブチギレている姿しかないからだ
「いやあ、それにしてもススムの採取の指名依頼と、ススムの護衛依頼。それにビンゴブックに載った賊かー! 報奨金がますます楽しみになってきた!!」
アリスが目を輝かせ、指折りしながら今回の報奨金のことを数えているとアッシェから「アリス!」と注意が飛ぶ
「採取の指名依頼だと……? そんな依頼を受けていたのか?」
カイエンはアリスをギロリと睨みつける
きっと後で雷が落ちるだろう
「秘匿事項なので」
カイエンがそう言って口を閉ざしたが、ヴォルフガングは引き下がらない
ただの興味で聞いているのではない。どこか、必死に何かを求めているようにも感じる
そして次にヴォルフガングの口から出た言葉は意外なものだった
「よもや、その依頼の品というのは『朝露のセージ』ではあるまいな!?」
その言葉に俺は驚いた。だが、驚いていたのは俺だけではない。カイエンまで目を見開いていた
「なんと……!そうだったか……。お主達が!で?『朝露のセージ』はどうなったのだ!?」
「……ススム。結果だけを教えろ」
カイエンも先ほどの反応から何かを察したのだろう。結果だけを教えろと言われ、俺は答えた
「採取中にトラブルはありましたが、無事に完了しています。後は依頼主に届け、検品をしてもらえば完了となります」
そう答えたときだった
突然、ヴォルフガングの大きな両手が俺の手を握った
そして彼は、そのまま膝から崩れ落ちた
聞こえてくるのは、涙の混じった感謝の言葉だった
「本当に……感謝する。何と礼を言えばいいのか……!」
俺は手を握られたまま困惑し、カイエンを見るがカイエンもこの状況は想定していなかったようで「さあな?」と肩でジェスチャーをしてくる
だが、そのような事もすぐに無かったかのようにヴォルフガングは立ち上がる
「『森の穴熊』だったな。此度のお主達の尽力に感謝する。それとススムだったか?本当にありがとう」
ヴォルフガングから突然感謝を告げられ、俺達は慌ててその場で跪く
「ではな。邪魔をした」
嵐のようにやってきたヴォルフガングは嵐のように去っていった
その光景にアリスが思わず「行っちゃった……」とポカーンとしていたが内心は俺も同じ思いだった
その後はマリリがギルドにやってきて無事に『朝露のセージ』の納品を完了する
「すごい、すごい!まさかこんなに完璧な状態のものを五束も持ってくるだなんて思ってもなかったよ!」
納品された『朝露のセージ』をまじまじと見ながらマリリが答える
「マリリ。その『朝露のセージ』、依頼主は誰だ?」
カイエンからの問いにマリリは「さあ?」と答える
「『本部』から急ぎの依頼だったけど?何かあったの?」
「……いや、それならいい。忘れてくれ」
カイエンがそのように言葉をかけるも、マリリは既に眼前の『朝露のセージ』に夢中で話は忘れたようだ
「ススム」
「はい?」
「お前も何か思っても忘れろ」
カイエンの忠告のような言葉が飛んでくるも、そんなもん日本にいた頃から身についている
「既に覚えていませんが?」
「はんっ!そうかよ」
俺が要件が終わり退室しようとすると、カイエンから肩越しに声がかけられる
「そうだ。今回の一件でお前はまず間違いなく銅級に昇格する」
思わず振り返る
「え?」
「そりゃそうだろう。ここまでやりきって鉄級ってのはおかしな話だ。内容的に四角銅級でも不自然ではない。だが、そこは経験の問題だ」
「まあ、急に上がりすぎても問題がありますしね」
「理解が早くて助かる」
「でだ、一応言っておくがこれでお前はあの『穴熊』達と名実ともに遜色が無くなる」
「何が言いたいんです?」
「さて、な。こっからはお前次第ということだ」
「はあ」
「ああ、それと銅級になるんだから、荷物まとめておけよ。鉄級の支援は一切無くなるんだからな」
「ああ、そう言えばそうか……!!」
一刻も早く次の住処を見つけなければ俺はあっという間にホームレスだ
それは何としても避けねば!
そう思い荷物をまとめ、一階のギルドに行くと穴熊達が談笑をしていた
「あ、きたきた」
アリスが笑顔満面で俺に声をかける
「ススム、こっちに来てくれ」
アッシェからも声がかかったので何事かと話に混ざる
「お疲れ様、ススム」
「ああ、皆もお疲れ様。どうかしたの?」
何事かと思いながら話に加わると、アッシェから外に行こうと提案を受ける
何の話なのか分からないまま、俺も従って外に出ることにした
「聞いたよ、ススム。どうやら飛び級して銅級になるんだって?」
「えっ!?どこでそのことを?」
当事者の俺ですらさっき聞いたばかりの話だ
「まあ、それはいい。それよりもだ。ススム。住むところに困ってたりはしないかな?」
「それは非常に、切実に困ってる」
「ははっ!そうだろうと思った」
アッシェは俺の困っている顔を見て笑う
「笑うなよ」
「悪い。だが、そこでだ。提案がある」
「提案ー?」
訝しんだ表情でアッシェを見る
「正式に『森の穴熊』のメンバーにならないか?」
そう言われアッシェが手を差し出す
「は?え?冗談だよな?」
「仲間に冗談をいうリーダーがいると思うか?」
差し出された手を見てから、俺はアッシェの顔を見る
アッシェはニッと大きく笑っていた
「なるほど……。カイエンのさっきのアドバイスはこれか。後悔はないんだよな?」
「ああ」
清々しいまでのアッシェの返事に俺は手を握り返す
「よろしく頼む」
そう言うとアリスとパックも嬉しそうに声を掛けてくれる
そしてもう一人、声をかける人物がいた
「ちょーっと待ったーー!!」
そういって現れたのはサーシャだった
第14話 「これから」用語の補足
ビンゴブック
冒険者ギルドや都市が、特に危険な対象として認定したものを掲載している情報一覧。
ビンゴブックには様々な対象が載っており、掲載されている対象は、通常の討伐や捕獲といった依頼とは異なり、難易度が跳ね上がる傾向にある。
基本的にこのビンゴブックに載る対象は『生死問わず』になるが、生け捕りにし、軍当局などに連行したほうが報奨金が増える傾向にある。
貴族と平民
貴族は基本的に上級国民と呼ばれる存在であり、平民とは身分や命の重さが根本的に異なる。
一応、法のもとでは貴族も平民も平等とは言われている。しかし実態としては、貴族の気分を害したという理由で平民が殺されたとしても、貴族が法で裁かれることは稀である。




