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呪われた装備でハクスラ!  作者: 馬ノ やすら
第六章 「救えたもの」
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第13話 「救えたもの」

俺はアッシェから物資を受け取り、洞穴内へ入る

驚いたことに、洞穴内は人が暮らせるように改造されており、家財なども置かれている

本格的な拠点として使っていたことがわかるほどだった


奥に進むにつれ空気が明らかに変わる

それは重く、むせ返るような匂いが漂っていた

そんな中、突如現れた鉄格子の中に二人の女性がいた

女性は俺を見るなり悲鳴を上げる


当然の反応だと思えた

俺はさっと身を隠す

「申し訳ありませんでした。あなたたちを傷つけるつもりはありません。救援に来た鉄級冒険者のススムと申します」

俺は怖がらせまいと、ゆっくりとはっきり言葉をかける

返事はない

恐らく恐怖で言葉が出ないのだろう

「物資を持ってきました。水、携行食、毛布です。必要ですか?ゆっくりで良いので教えてください」

彼女たちを急かすことなく、ゆっくりと時間をかける


「……。ありがとうございます。全て頂けますか?」

一人の女性の声で返答があった

「わかりました。では二人分の物資をそちらに置きます。姿は見せず、物だけ置きますので少しだけこちらに取りに来ることは可能ですか?」

「……わかりました」

その返答を受け俺は腕だけを伸ばし、彼女たちから見える場所に物資を置く

「見えたかと思いますが、物資は置きました。怖いでしょうし、少し離れます。ゆっくりでいいので取りに来てください」

俺はそこから少し下がる

しばらくすると女性たちは二人で身を寄せ合いながら物資を回収した様子だった


「聞こえますか?まだなにか必要なものがあればおっしゃってください。可能な限り用意します」

「ありがとうございます。とりあえずは十分です」

「わかりました。俺はここにいます。あなたたちを最後までお守りしますので安心なさってください」


しばらくの沈黙

俺はこの瞬間まで、戦いの最中に起きたことを考えないようにしていた

結果的に俺のファイアボールを背に受けた賊は死んではいなかったが、それでも重傷を負っていた

改めて、この目の前で起きていることは『ゲームのシステム』という仮面を付けた、紛れもない現実だということを、改めて思い知らされ 俺は今になって手が震える

今回は賊を全て、命を取らずに確保することができた

……だが次も、命を奪わずに済むとは限らない

そう考えた瞬間、背筋を冷たいものが走った


しばらくすると、女性たちのうちの一人が壁越しに俺の話を聞きたいと言ってきた

「あの、ススム様は先ほど、自身のことを鉄級冒険者と言っておられたような気がしましたが?」

「はい。今は訳あって四角銅級のパーティに臨時で入っていますが普段は鉄級冒険者として薬草採取に励んでいます」

「薬草採取に励む鉄級冒険者……?もしかしてフォレスという男をご存知ですか?」

俺は唐突に出たフォレスの名に驚く


「フォレスさんのお知り合いですか!?」

「はい。私はフォレスの弟子で商人をしております。名はサーシャと申します」

サーシャと名乗った女性は共通の知人がいたからだろうか、少し声が軽くなった印象を受ける

「ですが何故、俺がフォレスさんの知り合いだとわかったんですか?」

「実はフォレスより嘘のような話を聞いていたので。鉄級なのに、とんでもない量の薬草を採取している人物がいると。私は信じておりませんでしたが……。まさか本当に実在しているとは。ふふ」

「あはは……」

それから、少しでも彼女たちの気を紛らわせようと、冒険者になってからの日々のことを話した

「ええ!?鉄級で錬金術ギルドからの『指名依頼』ですか?」

「はい。何とか依頼の品を回収し、帰りにあなたたちの存在を知って、今に至っています」


「そうだったんですね。本当にありがとうございました」

「いえ、お気になさらないでください」

俺は決して『無事で良かった』などとは言わない

実際に彼女たちが受けた心や身体の傷がどの程度かわからなかったからだ


そんなことを話していると、にわかに外が騒がしくなるのを感じる

「うん?何か外が騒がしくなってきましたね」

俺がそう言った時、アッシェが中に入ってくる

「ススム。救援が来た」

「……!そうか!」


壁の向こうから、二人が泣いて喜んでいる声が聞こえてくる

そしてしばらくすると毛布をまとい、若干憔悴した様子の二人の女性が姿を現した

俺は二人に「気をつけて。帰りましょう」と声をかけると、サーシャの声で「はい」とだけ聞こえる


二人の女性を伴って外に出ると、そこには騎馬隊をはじめとする、かなり上等な装備をした兵たちの姿が見える

俺は内心、たった二人の女性の保護に何故この様な正規部隊が展開されているのか理解できなかったが、その理由はすぐに明らかになった

「我らはミストヴェイル正規軍の者である!誘拐された人物がいると聞き、救援に参った!」

それに答えたのはサーシャだった

「私はサーシャ・ヴィクトリア・ブラウンです!この度の迅速な救援に感謝申し上げます!」

サーシャが自身の名を名乗りそれを聞いた兵士たちは一斉に敬礼をする


なるほど

家名持ち、即ち貴族か

それなら、これほどの兵が派遣されてきたことにも納得できる


サーシャは用意された馬車に乗り込む前に一度、俺を振り返る

「ありがとうございます、ススム様。それと……」

「わかってます。『最後まで』お守りしますよ」

俺は彼女たちとの約束を守るため、森の穴熊の三人と正規兵の連中に事情を話す

結果、俺だけが先に馬車でサーシャたちと共にミストヴェイルの街に帰ることになる


「やっぱりススム君に任せて正解だったね!」

「その様だ。こっちのことは気にしないで任せてくれ」

アリスとアッシェはそう言い、パックは頷き一つで見送ってくれる


「ではススム様。こちらに」

案内されたのはサーシャたちが乗り込んだ馬車の御者席だった

「ありがとうございます。お二人とも、これから俺もミストヴェイルまで同行します。よろしくお願いします」

そのように声をかけると「感謝申し上げます」とだけ返ってきた


帰路の最中は特に会話があるわけでもなく馬車は進む

だが俺はそれでいいと思った

『救う』というものには様々な形がある

これもまたそうなんだろうと俺は思いながら馬車で揺られる


日が昇り始めた頃、ミストヴェイルの街が見え始め、先頭には、立派な重鎧を纏った筋骨隆々の男が立っていた

白髪をたくわえ、整えられた髭を伸ばしている


「お祖父様だわ!」

サーシャの声でその存在が祖父なのだと知る

馬車が到着後、サーシャたちは飛び出していき、「お祖父様」と呼んでいた男のもとへ駆け寄る


そこで今回初めて、救出した二人の顔をはっきりと見た

そして目が合う

俺は何も言わず頷き一つで返す

サーシャたちもそれに答えるかのように頷き一つで返してきた


サーシャの祖父はサーシャから何かを聞いたようで、単身俺の前まで来る

俺はどうしたら良いのかわからず、ただこのままではまずいと思い、その場に跪き、頭を下げる

「大変大義であった。立って楽にし、顔を見せてくれ」

その声は低く力のこもった声であった


「はっ」

俺はすっと立ち上がり、サーシャの祖父と顔を合わせる

「我が名はヴォルフガング・アウグスト・ブラウン。ブラウン家前伯爵である 」


伯爵家だって!?とんでもない大貴族じゃないか!!

俺は内心飛び上がる


「そう固まらないでくれ。いずれ日を改めて話を伺いたいが、よろしいかね?」

「はい。今この場にはおりませんが、三人の仲間ともご一緒させていただきたく思います」

「うむ。では正式に書状を送る。冒険者だったな?名は?」

「ススムと申します。仲間と組んでいるパーティの名は、『森の穴熊』です 」

「よかろう。本当にこの度は助かった」

「いえ。こうして再びご家族のもとに送り届けられて良かったです」

俺がペコリと頭を下げると肩にぽんと手を置かれた


その後、解散となり俺はそのまま、外門の前で皆の帰りを待った

しばらくすると、馬に乗った三人の姿が見え、一緒に凱旋となる


――――――――――

第一部『チュートリアル編』完

第13話 「救えたもの」用語の補足


ミストヴェイル正規軍

都市ミストヴェイルが保有する正規の軍隊。

日常では、都市内外の巡回や犯罪の取り締まりなど、治安維持を主な任務としている。

ダンジョンブレイクや戦時下などの有事には最前線に立ち、都市の防衛や戦闘任務を担う。軍の内部にも階級制度があり、所属する兵士によって実力や得意分野は異なる。また、組織としての統率力や集団戦に優れる一方、個人の戦闘能力では実戦経験豊富な冒険者に劣る者も多い。


人物紹介


サーシャ・ヴィクトリア・ブラウン

ブラウン伯爵家の娘。

年齢二十四歳

理由は現段階では不明だが、伯爵家の令嬢という身分でありながら、旅をする商人として活動している。

今回も旅の途中で賊に遭遇し、同行者と共に捕らえられた模様。


ヴォルフガング・アウグスト・ブラウン

ブラウン伯爵家の前当主であり、サーシャの祖父。

年齢六十三歳

軍人上がりであり、その実力と名は他国にまで知られている。

筋骨隆々とした体格と、整えられた白い髭がトレードマーク。

現在は家督を息子に譲っているが、個人として、とある人物の護衛を買って出ている。

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