第10話 「パーティメンバーとして」
初の遠征を前に、俺は心を躍らせながら準備と確認を入念に行う
「よし!よし!」
指差し確認をしながら荷物に問題がないことを確かめ、最後に何気なく『ステータス』を確認したときだった
【残りSP1】
という、最も重要な項目を見逃していたことに気がつく
「俺としたことが!!こんな重要なことを見逃していたなんて!?」
慌てて『スキルツリー』を展開し、どうするかを考える
方向性としては二つ
現在の『ファイアボール』は基本魔法のため、銅の短剣の効果によって使用後にMPが3回復する
消費MP4なので、実質的な消費は1だ
『ファイアボール』のレベルを上げるか、『性質を強化する』かの二択だった
前者は威力が上がる分、消費MPも増える
そのため、【呪われた】銅の短剣でカバーできるとはいえ、消費MPが増えるのは不安要素だ。なるべく不確定要素は排除しておくに越したことはない
そういう意味で今回は【性質強化】を選択することにした
ファイアボール【性質強化】:ファイアボールの性質を強化する。対象一体に対して追尾能力が付与され、更に着弾時に小爆発を起こす
「これで今度こそよし!」
俺はもう一度荷物を確認してから、寝床に潜るが遠足の前夜のごとくなかなか寝付けなかった
だが、翌朝は早い時間にパッと目が覚める
俺はササッと準備をし、集合時間まではまだ時間があったが、集合場所へ向かってみると、なんと既に『森の穴熊』のメンバーが揃い、出発準備を整えていた
「お、おはようございます!!あれ?時間間違えましたか?」
俺が慌てて挨拶をすると、メンバーも挨拶を返してくれたが、逆に俺の早さに驚いているようだった
「おはよう、ススムさん。まだ時間前だったのに随分早くに来たんですね?驚きました」
「あはは……。念願の場所に行けると思ったらつい。それで皆さんは?」
「はい。今日の行き帰りは馬を借りますので、その準備をしていたんです」
「それで早かったんですか。おっしゃってくれればお手伝いしたんですが。あ、いや手伝えることがあるかどうかは別ですが……」
そう言うと馬にまたがっていたアリスが俺を見下ろしながら笑う
「ススム君は律儀だなあ。もう少し肩の力抜いてー!」
「よく言われます……。性分なんでしょうね」
「まあ、僕も似たような性分なのでわかりますよ」
そう言ってアッシェが笑う
相変わらず爽やかだ
その後は荷の最終確認と馬の乗り方を教わる
当然ながら俺は乗馬初体験なので、今日はアッシェに同乗させてもらうことになっていた
「うわわ……!」
俺が慌てているとアッシェからアドバイスがある
「ススムさん。顔を上げて景色を見るようにしてください。そうすれば自然と恐怖心もなくなりますから」
俺はその言葉に従って顔を上げると、見たことがない風景が広がっていた
「うん、良いですね。ではこれより出発します」
「よろしくお願いします!!」
ダンジョンは街が管理しているが、街の中にあるわけではない。街から馬で10分ほど離れた場所に存在している
これは万が一、『ダンジョンブレイク』などの有事が発生した場合、ダンジョンが街に隣接していたり、街の中に存在していたりすると、即座に街が攻撃を受けてしまうためだ
少しでも距離を置き、防衛態勢を取れるようにしているのだと書物には書かれていた
いつも採取で眺めていた風景よりも高い目線で見る風景はとても新鮮だった
だが、やはり乗り心地は悪く、たった10分乗っただけで俺は尻が取れるんじゃないかと思うほどのダメージを受ける
「大丈夫かー?」
アリスが俺をツンツンしてくる
「今度馬の練習をしましょう。そのほうが今後のススムさんのためですから」
アッシェが神に見える!!
俺は思わず土下座のような形で礼を述べると「何してるんです?」と3人から笑われた
ダンジョン付近は冒険者ギルドの中ほどではないが人が多い印象を受ける
ただ人々の姿は違う
冒険者は当然いるが、さながら小さなバザーのような印象を受ける
道具屋、食事処、鍛冶場、更には情報屋らしき者たちが地図を片手に商売している様子があった
それらの光景に目移りしているうちに、いつの間にか入り口付近まで来ていた
そこで一旦先頭を歩いていたアッシェが止まる
アッシェからは笑顔が消えているのに気が付き、俺は反射的に背筋が伸びる
「ではススムさん。ここからが本番になります。これから僕たちは臨時とはいえパーティメンバー、つまりは命を助け合う仲間になります」
「はい」
「ですがそれと同時に僕は、あなたを監視する役目を負います」
「はい」
「ここから先は僕の言葉に従うようにお願いします。もしも違反が見られた場合、即時撤退を指示します。良いですね?」
「わかっています。不束者ですがよろしくお願いします」
俺がそう言いながら頭を下げるとアリスが背中を一発叩いてくる
「さあ、新人!行くよー!!」
「はい!」
俺は笑顔になりダンジョンへと突入する
ダンジョンの中に一歩足を踏み入れると、そこには想像もしなかった光景が広がっていた
遺跡の中に入ったはずなのに、眼前に広がっていたのは『森』だった
俺があまりの光景に絶句している間にも、既に『森の穴熊』のメンバーの行動は始まっている
「アリス、いつもの通りだ」
「はいよー」
アリスは一瞬で木に登ると、器用に木々を移動しながら偵察を始めた
「ススムさん。ここからは基本縦列で移動します。先頭は僕が、中にススムさん、最後尾がパックです」
「わ、わかりました」
ダンジョン内部は確実に『森の中』ではあるが、基本的に何代にもわたり、冒険者たちが開拓してきたからだろうか
踏みならされた場所は道となり、前を遮る枝葉のようなものは無かった
それでも急に何かが出てくるとは限らない
そんな緊張感だけが場を支配した
一時間は歩いただろうか
急に「ピィ」と耳に入るかどうかの小さな口笛が聞こえる
それを合図に先頭を歩いていたアッシェが止まり、手で静止をかける
すると再び小さな口笛で「ピー、ピッピッ」と聞こえる
これはシーカーとして偵察を行っているアリスからの合図だ
「前方に小型が二匹います」
アッシェが小さく俺に教える
「僕が先行し、注意を引きます。パック頼んだ」
すると即座にパックは治癒師のスキルである『プロテクション』を素早くアッシェに掛ける
「俺はどうしたら?」
「隙を見て攻撃を」
「……わかりました」
俺はその言葉を聞き、短剣を抜く
「ふっ!」
小さく息を吐いたアッシェが、とんでもない速度で目標へ向かっていく
大盾を正面に構え、そのまま突撃した
俺は必死にその後を追うと、若干開けたところにそれはいた
かなりデカいきのこが二本
だが当然普通のきのこではない
人面があり、手足が生えている
「あれは……!」
俺がそう言うと、後ろで控えていたパックが教えてくれる
「マタンゴだ。風下に立たないように。毒を噴霧してくるぞ」
普段あまり声を出さないパックの声に驚きつつも、指示通り風上に立つよう移動し状況を伺う
目の前で繰り広げられる戦いは、まさに華麗そのものだった
タンクであるアッシェが敵の注意を引きつけつつ、遠隔ダメージディーラーであるアリスが木の上から器用に弓での射撃
そしてパックも様子を見ながら必要なバフを掛けている
目の前で繰り広げられる戦いに呆けていると急にアッシェから声がかかる
「ススムさん!今です!!」
ハッとした俺は状況を一瞬で確認するとアッシェの『シールドバッシュ』にてふっ飛ばされた一体のマタンゴがもう一体のマタンゴにぶつかり、二体が団子のようになっていた
俺はそこまでを確認し、呪文を唱え始める
『紅蓮の理よ、我が掌へ集え――ファイアボール!!』
収束したマナは一直線にマタンゴへ飛んでいく
だが、その気配を察知したマタンゴは逃れようとその場から離れようとしたが、『性質強化』された『ファイアボール』はマタンゴを追うように軌道を変え、更に着弾と同時に爆発する
ボゴーン!!ゴゴゴゴ……
爆発は小さなものだったが、小型のマタンゴ二体を巻き込むには十分な範囲で爆発し、一発で二体は消し炭と化していた
「うわわ!すごいすごい!一発で消し飛んじゃった!」
アリスが興奮しながら降りてくるとアッシェもすっ飛んでくる
「なっ!?なんですか、ススムさん!今の!?」
「えっ?!多分『ファイアボール』のはず……です……?」
「なんで疑問形なんですか!?」
戦闘終了後、まず各自で損害がないか確認し、その後メンバー同士でダブルチェックを行った後、俺たちは再び歩を進める
「ところで聞いてもいいですか?」
「……なんです?」
先ほどの戦闘以降、アッシェが俺を見る目は明らかに変わっていた
いつもの感じというより警戒に近い雰囲気を出している
「なんで先ほどの戦闘のあと、皆さんで確認し合ったんですか?」
それに答えたのはアッシェではなくパックだった
「戦闘中は興奮状態になり、意外と気が付かないうちに怪我を負っている場合がある。 そしてそれに気が付かず、そのまま放置してしまう場合もある。だからお互いで確認し合う必要があるんだ」
「なるほど」
要はアドレナリンが出ている状態だから怪我しても気が付かないのか
そういう意味では、こういったダンジョンや討伐では、ソロよりもパーティのほうが安全面では圧倒的に有利なのだと認識する
途中で休みの最中、俺は依頼のあった『朝露のセージ』についてまとめたメモを取り出す
それには容姿や特徴、更に、ダンジョン内のどの辺りで確認されたかなどが記載されている
それを覗き込んできたアリスは今いる場所と照らし合わせ、おおよその場所を割り出している
「多分もうそろそろ目的地のはずだよ」
「わかった。行きましょうか」
アッシェは俺に手を差し伸べてくれるので俺はその手を掴んで起き上がる
先ほどと同じように隊列を組み進むと、口笛で先ほどとは違う音が聞こえる
「ピピー」
「隠れて」
アッシェにそう言われ俺は咄嗟に木の陰に隠れる
すると、木の上にいたアリスがすっと音もなく降りてくるが表情が険しい
「どうかしたか?」
アッシェがアリスに聞くと、アリスが短く答える
「自分で見てみ?」
その声に従いゆっくりと音を立てずに進行方向を見る
すると、『朝露のセージ』が数本咲いているのが確認できた
だが、問題はその手前にいたものだった
「あれが、『朝露のセージ』か。だが厄介だな……」
アッシェが悪態をつくのも分かる
『朝露のセージ』の前には岩のようなゴツゴツした肌を持つ大蛇が立ちはだかった
第10話 「パーティメンバーとして」用語の補足
性質強化
ススムが使用する『スキルツリー』には、取得したスキルをさらに強化する段階が存在する。
『性質強化』はその一つであり、魔法の威力を単純に上昇させるのではなく、その性質そのものに変化を与える強化である。
その内容は魔法ごとに異なり、同じ魔法でも通常時とは大きく異なる性能を発揮する場合がある。
さらに強化を進めることで、『最終強化』へと至る。
ミストヴェイルダンジョン
外部から見ると遺跡のような外観をしているが、内部へ入ると鬱蒼とした森が広がっているダンジョン。
この森のような環境は第十階層まで続いており、第十一階層以降では異なる景観が広がっている。
その詳細については、今後の物語で明らかになる。
アリスの口笛
斥候を担当するアリスは、口笛を用いて確認した情報をパーティメンバーへ伝えている。
口笛の音や鳴らし方によって情報が分けられており、魔物の特徴や危険などを、声を出さずに瞬時に共有することが可能。
今回はマタンゴとの戦闘時に『魔物の大きさと数』が伝えられている。
また、最後に鳴らした口笛は『危険。一時停止』を意味している。
朝露のセージ
ミストヴェイルダンジョン内の限られた場所でのみ採取できる、貴重な薬草。
おおよその自生場所は確認されているものの、道中には危険な魔物が出現するため、実際に採取できる者は限られている。
さらに採取方法にも特殊な技術が必要であり、専門的な知識を持つ者でなければ扱うことが難しい。
石化状態を引き起こす毒を解除する薬効がある。
【第10話現在のススムのステータス一覧表】
名前:ススム
ジョブ:魔法使い
年齢:二十歳
出身地:不明
種族:ヒューマン
レベル:3
残りSP:0
HP:4
MP:7
STR:3(+10-10)
VIT:3(+10-10)
AGI:4
MND:7
INT:11
LUK:1
初期スキル:言語理解、ハックアンドスラッシュ
所有スキル:ファイアボール(LV2・性質変化)
現在の装備
メインウェポン:【呪】銅の短剣(STR-10、VIT-10)
オフハンド:なし
頭:なし
胴:上等な布の街着(上)(VIT+5)
腕:なし
脚:上等な布の街着(下)(VIT+5)
靴:皮の靴
首:なし
右指:一角兎の尻尾
左指:銀の指輪(STR+10)




