第9話 「臨時パーティ結成!?」
「はぁ……。またか……」
冒険者ギルドマスターの部屋でカイエンはセリーヌからの報告を聞き、ため息をついている
「そうですね……。それも日に日に量が増している気がします」
そう言いながらセリーヌもため息をつく
「本来であれば喜ぶべきなんだろうが、ススムじゃあなあ」
「同意します。このままだと、すぐに四角銅級になりますよ? どうするんです?」
「ふーむ……」
カイエンが目を閉じ考える
弱音を吐かず、馬鹿なことも言わずに考え込むカイエンを見て、セリーヌは本気で作戦を考えているのだと察し、その傍らに立っている
「……やはりこれしかないか。セリーヌ。マリリを呼べ」
「わかりました」
そう言うと、セリーヌはすっと部屋を出ていった
しばらくするとマリリのやかましい声が聞こえてくる
「全くなんだってこの忙しい時に!!」
「どうやら、過去一で忙しいみたいだな、マリリ」
「お陰様でね、カイエン! お宅の新人がいい仕事してくれてるせいで、こっちは大忙しさ! ボーナスでも出してあげてよね 」
「こっちの気も知らずに……。まあいい。座れ。その新人についての話だ」
マリリは不思議そうな顔をするが、ススム関係だと知ると素直に席につく
「それで?ススム君関係ってなによ?」
「正直な話、現状の奴は放っておくと非常に面倒な立場になりかねない。そこで『首輪』を付けておきたい」
「『首輪』だなんて犬じゃないんだから!もっとこう、言い方ってもんがあるんじゃない?」
そう言ってマリリはお気に入りのススムが犬扱いされていることにプリプリしている
「だが、時に『首輪』はその犬を守るためにも使用されるのを忘れるな。今回はそういった意味での話だ」
「ふーむ?」
「ススムにダンジョン由来の『指名依頼』をしてくれないか?」
カイエンの意外な提案に目を丸くするマリリ
「本来、依頼を受ける冒険者をこちらから指名するなんて、そんなことしていいわけ?」
「確かに。だが、現状ではこれしか無い」
カイエンの真剣な様子にマリリも察する
「しかしそんな急に言われてもねえ?それに彼、鉄級でしょ?ダンジョンは無理じゃあ?あ!そういうことか」
何か思い当たったように、一人で納得しているマリリ
「そういうことだ。何かないか?」
マリリは「うーん。」と考えるがすぐに思い当たるものがあったようだ
「ああ! そういえば『本部』から急ぎの依頼があったわ! それもダンジョン産ので」
それを聞き、頭が痛くなるカイエン
「よりにもよって、『本部』かよ……」
「でもこれしかないし、仕方ないね。嫌なら別を当たることだねえ」
「……ちっ!仕方ねえ」
その後、しばらく打ち合わせをすると、マリリはご機嫌で退席していく
「あとは……。あいつに頼るか」
独り言を残しカイエンも席を立つ
――一方、その頃
「よう、やっぱりここにいたか」
僕が一人、焚き火をしながらゆっくり酒を飲んでいると、カイエンが現れる
「カイエンさんじゃないですか!」
僕が立ち上がり、敬礼をしようとしたところ、カイエンによって手で制される
「今日はお前に相談があって来た」
「カイエンさんの相談ならなんでも聞きますよ?」
僕が内容を聞かずに返答をすると「バカタレ」と言われる
「俺とお前はもう教官と教え子の関係じゃないんだ。対等な立場としての相談だよ」
「あはは……。それでもギルマスと、その支部に所属する冒険者という立場ですけどね。……飲みかけですが、いりますか?」
「ああ……。そうだな。少し貰うか」
僕はグラスに酒を少し注ぎ、カイエンに渡す
「それで、相談とは?」
「ああ、ススムのことだ」
「ススムさんの?」
突然出てきたススムの名前に、僕は驚く
何せ彼は冒険者になったばかりの鉄級だ
そんな人間にカイエンがなにか考えているというのが信じられない
「近いうちに、錬金術ギルドからススム宛にダンジョン絡みの指名依頼が入ることになった」
「えっ!?」
『指名依頼』は通常であれば、名が知れ始めた四角銅級以上の冒険者に、運が良ければ舞い込む程度のものだ
それを冒険者になりたての鉄級冒険者であるススムが指名されるというのは、異常事態でしかない
だが問題は『ダンジョン絡み』ということだ
ダンジョンの入場ルールには、階級制限という絶対的な制約が存在する
そこまで考えた時、ある可能性が頭に浮かんだ
「まさか……、『森の穴熊』のパーティとして?」
「流石だ、アッシェ」
「ですが、どうして僕たちなんですか?他にも適任はいるのでは?」
その問いに、間髪入れずカイエンが返答する
「『お前達』だからこそだ。現状、俺が持ち合わせる答えにそれ以外の答えはない」
そう言いながら、グラスに入った酒を煽っているカイエン
それは即ち、僕たち『森の穴熊』をそれだけ評価してくれているということだ
そうであるなら答えは一つ
「そのお話。お受けいたします」
「頼んだ。詳細はまた後日」
それから数日後
正式にカイエンからの頼みが、森の穴熊への『依頼』として冒険者ギルドより発行され、僕たちは再びカイエンの前に立つ
内容としては次のようなものであった
ススムの能力は未知数であり、冒険者ギルドとしても把握しておく必要がある
また、このまま流れに身を任せる状態にさせておくとどんなトラブルを抱えるかわからず、冒険者ギルドとしても不利益を被る可能性がある
そのため、ススムの能力を確認するとともに、彼が危険な行動を取らないよう監督する役目として、今回錬金術ギルドより正式に発行されたススム宛の『指名依頼』に同行すること
最終的な判断と指揮はアッシェに一任し、危険と判断した場合は即時依頼を中断して撤収すること
以上が『依頼』として発行された
「これって私たちに対する『依頼』だよねえ? 報酬は!?」
そう言いアリスは報酬額を見て驚いている
「こ、こんなに!?よーし、お姉さん頑張っちゃうぞーー!」
パックは何も言わずに僕の顔を見て頷く
ある日のこと
俺は突然セリーヌに呼び止められる
「ススムさん。今よろしいですか?」
「え?これからまた採集に行こうと思っていたんですが」
「……。」
無言の笑顔で圧をかけてくるセリーヌに逆らえるわけもなく俺は「はい……」と返事をする
案内されたのは二階の応接室
あれ?俺また怒られるのか?
そう思いながら部屋に入るとそこには既にカイエンとマリリが座っている
「ん?お、来たな!期待の新人!」
マリリからは機嫌が良さそうな声がかかるが、一方、カイエンからはピリッとした空気感を感じる。
「ススム、お前に錬金術ギルドより『指名依頼』が入った」
「『指名依頼』ですか?えーっとそれって……?」
その問いに答えたのはマリリだった
「君にはミストヴェイルダンジョンでしか手に入らない『朝露のセージ』の採取を依頼します」
「『朝露のセージ』ですか?えーっとそれって確か、石化毒を解除する薬の『灰石還しの秘薬』の素材になる薬草でしたっけ?」
俺が何日も掛けて勉強した薬草とポーションの本の中の一冊に書いてあったのを思い出しながら返答する
「なんと!珍しいのによく知ってるねえ!流石ススム君だ!」
「あはは。勉強は嫌いではないので。ですが、ダンジョンですか?それって『指名依頼』であれば鉄級の俺でも入れるんですか?」
そう聞くと、当然のようにセリーヌから「×」のジェスチャーを返される
「ええ……?ではどうしろと」
「もちろん、こちらも考えがある。入れ」
カイエンの言葉を合図に一団が入室する
「えっ!?」
「お久しぶりってほどでもないですかね。ススムさん」
「アッシェさん!それにアリスさんとパックさんも」
「やっほー!」
アリスは手を振り、パックは頷きだけで返答する
「今回は依頼の特性上、お前単独では条件を満たせないため、冒険者ギルドとして四角銅級パーティの『森の穴熊』に依頼を行い、同行させる。つまりはお前は『森の穴熊』と臨時パーティを組むことになる」
「臨時パーティですか?」
「ああ。だが勿論、コイツらと組ませることで無条件で仕事をさせるつもりはない」
「と言いますと?」
「『指名依頼』はススムへの依頼であるが、今回の主導権は『森の穴熊』、特にリーダーである『アッシェ』に任せることにした。今回の依頼では、アッシェの判断が全てだと思え。特にお前が注意すべきことはアッシェから依頼の続行が不能と判断された場合だ」
「その場合は?」
「問答無用で、依頼はその時点で放棄。撤収すること。それが絶対条件だ」
「ふむ……」
俺がその条件を頭に入れ考えているとカイエンより釘を刺される
「ちなみにそれを無視して強行した場合や、アッシェの指示を無視した結果、『森の穴熊』に損害が発生した場合、お前に対し冒険者ギルドとして責任を取らせる。具体的には今後、お前が例え個人の階級で四角銅級以上の階級になろうともミストヴェイルダンジョンへの立ち入りを永久に禁止する」
「ええええ!?」
俺があまりに重いペナルティに驚くがアッシェは笑顔でフォローする
「あくまでそれは指示に従わなかった場合の『最悪のペナルティ』だから、問題なくことが済めば困ることはないと思うけど?」
そう言われそれは確かにその通りだ、と考えを改めた
「これで問題がなければ、錬金術ギルドからススムへの『指名依頼』を正式に受諾するが?」
「大丈夫です!」
俺は「ダンジョンに入れる!」と、ぐっと拳を握る
それがカイエンから見れば心配の種でしか無いらしい
「では正式にススムを『森の穴熊』の臨時パーティメンバーとすることをギルドとして承認する。なお、この決定により一時的にパーティ単位での冒険者階級は『銅級』とする。以上だ」
こうしてこの場はお開きとなり、準備期間を経て俺達はミストヴェイルダンジョンを目指すことになる
第9話 「臨時パーティ結成!?」用語の補足
指名依頼
通常の依頼は冒険者ギルドが依頼主より依頼を受諾後、広く冒険者に仕事の斡旋が行われる。
しかしこの制度は依頼主が、依頼を受ける冒険者を最初から指名する制度である。
だが、当然特別待遇となるため、報酬が通常依頼より高額に設定される場合が多い。
また準備資金を前金として渡される場合がほとんどである。
本部
冒険者ギルドや錬金術師ギルドなどの各ギルドには『本部』が存在しており、最終決定件や権限などはこの『本部』が有する。
通常の各街や村に存在しているギルドは『支部』となる。
『本部』は強い権限を有しており、また極秘にしたい情報なども集まる。
実際に判断し指揮命令しているのが『支部』なので、『支部』が独自の判断で動くこともあるが、『本部』が介入した場合は基本的にその判断が優先される。
そのため、現場との方針の違いから混乱が生じる場合もある。
師弟関係
高階級の者は独自の判断により弟子を取ることがある。
これは後進育成に繋がることから各ギルドにより奨励されている。
アッシェは冒険者になりたての頃、まだ現役の冒険者だったカイエンに師事しており、二人には師弟関係があった。
臨時パーティ
通常、パーティは固定メンバーで活動する。しかし仕事内容などによっては、複数のパーティが合同で行動したり、一時的に補欠要員を加えたりすることがある。
ただし臨時パーティ結成時もギルドにその都度申請が必要であり、メンバーの状況によりパーティ階級が上下することがある。
ダンジョンと冒険者ギルド
ダンジョンの最終的な管理は、街が行政として行っている。しかし実際にダンジョン内で活動する者の大半が冒険者であることから、冒険者ギルドにも大きな管理権限が与えられている。
その権限の一つがダンジョンへの入場許可である。冒険者ギルドから危険性が高いと判断された者は、原則としてダンジョンへの入場を認められない。




