第35話:10:00、確認と、報告
10:00
「ちょっと待て」
緊急会議を終えて解散したあと、三条双治に声をかけられる。
「なんだよ?」
「ちょっと、ちょっとこっち来い」
雑に掴まれ人気のない方に誘導される。
「で? なんの用だ?」
「いや向こうに連絡したいのは分かるが、せめてこっち見ろや」
ENSで一条さんと二条さんに会議の結果を伝えてから、ため息一つ吐いて三条双治に向き合う。
「で? なんの用だ?」
「いやお前、救出作戦の詳細は詰めないのか? どこの誰を優先するとか、捕まってる人を人質にされたらどうするかとか。敵の数も配置も知らないだろう?」
それはそれでもっともな話だが、それがどうしたという話でもある。
「おれのクラスはネクロマンサーで、やる気満々な眷属が3000ほどいる。戦う意思がある程度でも5000は出せる。敵の数が10000人とかでないなら、数で囲んで圧殺できる。眷属の平均レベルは20超えてるし、銃弾数十発を急所に撃ち込まれでもしない限りはまずやられない。負ける要素がないから詳細を詰める必要もない。敵は鏖殺。それだけだ」
「……おっふ……。いやこれ俺の出番ねえだろ」
保有戦力の具体数を示すと、三条双治はのけぞって変な声を出していた。
出番? あるぞ?
「敵のレベルがどれくらいかは分からんが、全員が一日目から今日までずっと戦い続けてきたとかじゃあないだろう。鏖殺ならおれ一人で十分だし、うちのレベル上位勢10人もいれば制圧は可能とみている。人質に取られても、数ですり潰すしやはり問題はない。お前の出番はその後だよ。救出した人たちの守りと治療と運搬。男子と女子を混ぜてもいいか離した方がいいか分からんし、なんなら恋人同士もいたりするかもしれんだろ?」
「……戦力的に余裕な理由は? お前の強さや眷属の数だけじゃねえだろ?」
言葉と態度で余裕を示せば、戦力を探るような視線と言葉。
いや、ようなじゃなくて、探りを入れられてるな。
まあその程度、別に構わんが。
仮に三条双治が敵側と通じていたとしても、今日明日くらいの短い時間でこの数をどうにかできるとも思えないし。
「……いや言わなくていい。お前の眷属《鑑定》スキル持ってやがるな? 言わなくていいがよ」
三条双治が断言する。
おれは否定しない。それが答えだった。
「とんでもねえな……。まあ、余裕なのは分かった。スキルとかわけ分かんねえモンもある世界になったんだから油断してっと足元掬われっぞと言おうとしたが、まあいいか」
三条双治はガシガシと頭をかきむしる。
頭がかゆいのかと思ったが、ある程度落ち着くためのポーズのようなものみたいだ。
「クソ兄貴が聞き出した分では、敵の数は350人ほど。ネクロマンサーが10人以上いて、屍鬼が200〜300はいる。外回りしている屍鬼を含めてその数なのかどうかは分からない。対して、捕まっている人の数は400人ほど」
具体的な敵の数を聞いても、優位は変わらないと思える。
「敵の最大レベルは?」
「20ちょっとだな。クソ兄貴が一対一なら確実に殺せると敵の上位陣を見てそう言ってたから。で、それは20人にも満たないとか。他はぐっとレベル下がるらしい」
「そうか。分かった」
それくらいなら、情報漏れ対策含めて今から行ってサクッと鏖殺してこようかな?
いや、要第二の人たちも関わらせる名目は必要か。
「お前今サクッと皆殺しにしてこようとか思っただろ」
「…………い、いや?」
「動揺してんじゃねーよ」
三条双治が呆れた顔でフンと鼻を鳴らす。
……なんだこいつ。心を読むスキルでも、
「別に心を読むスキルとか持ってないからな?」
「ふなっ!?」
「動揺してんじゃねーよ。分かりやすすぎるぞお前」
ちらっと思ったことを連続で当てられて、ひどく動揺してしまう。
しかも分かりやすいとか言われて動揺を隠せない。
「いやこれちゃんと釘刺しておかないとダメなやつか? お前、これから空いた時間使って要第二にまた行ったりしたら、そうそうたる顔ぶれのお姉さま方に説教されるぞ。行くなら先に、どこに行って何時ごろ戻るか伝えてからじゃねーと、みんな心配するぞ」
「……えっ、なんで考えてること分かるんだ? ……怖いんだが?」
「トップがフットワーク軽すぎるの問題ありすぎだろ……。お前が要第二の人たちのことを心配しているように、ここの女性陣もお前のこと心配してるんだよ。強さに対しての信頼はあっても、それとこれとは別問題だ。ちらちらと不安げな視線を向けてる人がたくさんいたぞ」
気づいてねーのかオイ。と肩を押される。
「お前基本仏頂面なのに意外と表情変わってるからな? 俺よりも付き合い長いここの人たちなら、何考えてるかどう行動するか察してると思うぞ。そんで、言われないと少し傷付く。信頼されてないのかもと少し落ち込む。そういうのの積み重ねが不仲に繋がるんだぞ」
「……それは……こまる……。傷付けたくないし落ち込ませたくない」
「なら、最低限連絡してから行動しろ。心配させたくもないだろ?」
拳でドンと胸を叩かれる。
叩かれた胸は痛くないが、心が痛んだ。
……心配、させたくもない。
今まで、夜の単独行動とか、心配させてたのだろうか。
……させてたんだろうな……。
いや、心配させてた。
心配してるってコメントもらってたはずだ。
「じゃあ俺は弟と合流するから要第二に行く。ここと違ってあそこは守りが必要だからな。校門前で待ってる。そっちの用が済んだら行くぞ。…………うぉっ!?」
「…………うふふふ腐腐腐…………捗る…………」
三条双治が変な声あげたと思ったら、相沢蘭が口を三日月のように吊り上げながらこちらを覗いて嗤っていた。
普通にビビった。
三条双治と別れて、事前に連絡を受けていた相手の元を訪ねる。
「すまん、待たせた」
「あー、いえいえ。忙しいでしょうに呼びつけてすいません。で、さっそく見てほしいんすけど」
疲れた様子の要第一中学1年生東創には、同級生で足が不自由な篠原歩の足代わりになるモノを創るよう頼んでいた。
車椅子を利用する篠原は、段差があると移動に難があるからだ。
ひとまずかたちになったと連絡がきたので、東少年の自室兼工房を訪ねたのだが……。
「戦闘車両本体と、有線攻撃端末4体。動力はないんで篠原のスキル頼りですけど、ひとまずはこんな感じで」
示されたのは、ホーネットのハチ素材を利用した六本足の乗り物と槍と盾を持った二足歩行の人形。
乗り物は、二人乗りが可能な円形のボディに段差を乗り越えるための六本の足。
ボディ前面と前足に重点的に装甲を配置して守りを固めつつ、背面にはハチの毒針を加工して作られた機関銃のようなニードル発射機構、両側面には鉤爪と盾付きの戦闘腕。
見た目自体がもう威圧感マシマシで、乗り込むと前面の透明な風防が展開して搭乗シートをドーム状に覆って保護する機能も付いている。
有線攻撃端末は二足歩行の人型で、ニードル発射機構の付いた槍とハチの外殻で創られた大盾を装備している。
東少年のクラス《魔工技師》は、これらを動かすための動力は創れない。
しかし、篠原のクラス《人形師》は、MPを消費することで動力がなく自立行動できないものを動かすことができる。
東少年が、手ずから、気になる女の子を守るための鎧と、歩くための足を創り出せる。
たとえ自分一人では戦えなくても、二人で力を合わせることで、戦うことができるようになっていた。
鑑定スキル先生で確認し戦闘もいけることが分かったので、さっそく篠原を呼ぶ。
少しして、篠原と一緒に同級生で親友の西園美鈴もやって来た。
車椅子から立ち上がろうとする篠原を制止した東少年は、篠原をお姫様抱っこして六本足の乗り物に乗せた。
「東くん、私重いよ?」
「いや、篠原は軽いよ」
二人して顔を真っ赤にしている。
青春だな。
「いいなー」
「ごめん。西園はちょっと待ってて」
篠原が人形師のスキル《人形操作》で六本足の乗り物を起動する。
「東くん、この子の名前は?」
「ハチ型二式多脚戦闘歩行車両 《ホーネットタンクII》。二人乗りで、機動制御と戦闘腕操作・ニードル砲操作の火器管制を二人で分担できる。人形師のスキル《人形操作》で攻撃端末の制御もすることを想定して、1人あたりの負担を減らす目的で二人乗り」
「発想がガチ過ぎで草」
「西園うるさいよ」
篠原はさっそく多脚戦車と攻撃端末を同時に動かしていた。
まあ、室内なので、ゆっくりとだが。
「で、西園にはこれ」
「お? なになに?」
「携行式射突型ランス 《ポイズン》。バトンくらいの大きさの筒にニードル射出機構を組み込んでて、射出口を押し付けてボタン押すとパイルバンカーを発射して装甲を貫き毒を流し込む。グリップのボタン操作で射出したパイルバンカーを引っ込めることもできるし、出した状態にして刺突剣として戦うこともできる。それと、パイルバンカーを出した状態でグリップを伸長すれば槍にもなる。ハチ素材で軽いから耐久性を確保しつつ携行性と戦闘力と暗殺性能を全部載せした」
「発想がガチ過ぎで草」
「西園うるさいよ」
気になる男子からの(物騒な)プレゼントで嬉しそうにしつつも、イジることも忘れない西園妹と、説明が早口になってちょっと恥ずかしそうな東少年。
そんな二人を見て、嬉しそうにほほ笑む篠原が印象的だった。




