第34話:9:00、緊急会議
9:00
要第二高校連合の1000人と、要第三小・中・高校・大学の生存者で囚われの身になっている数百人を救出後ここに受け入れるべきかどうかを議題に全体会議を始める。
知恵を貸してほしいと頭を下げた。
「はい」
「佳奈美」
さっそく挙手してくれた中学三年で生徒会副会長の思井佳奈美の名前を呼ぶ。
「はい。前提の確認なのですけれど、一つ、この拠点に千数百人の受入れは可能なのかという点。二つ、ここのようにもう1箇所《要塞》化して2箇所運営する場合と、1箇所に受け入れて千数百人分の生活費を毎月支払う場合のどちらが武先輩にとって大きな負担になるかという点。以上2点を教えてください」
「分かった。一つ目の受入れ可能かどうかは、可能だ。追加でポイントを支払い建物を増築すればいい。二つ目の要塞2箇所運営と1箇所に多人数追加どちらが負担大きいかは、要塞2箇所の方が負担が大きい。毎月支払うポイントの最低値が決まっていて、要塞が2カ所なら2カ所分徴収されるからだ。また、《要塞》化に必要なポイントよりも、建物増築したポイントの方がずっと安い」
佳奈美の質問に答えると、すぐに手が挙がる。
「はい」
「三樹」
中学三年で生徒会長の御剣三樹は、おれに対しては普段からジト目気味だが、今は普段より鋭い目つきになっている。
「要第二と第三の人たちを受入れる本当の理由は?」
「いや、嘘も本当もないんだが……。要第二は、みんなの知り合いも結構いるみたいだからだな。ただ、そういう人たちは向こうの主要メンバーで、引き抜くと向こうが大変なことになりそうだから、それならいっそという感じだ。
で、要第三の囚われてる人たちは、あんまりな目に遭ってるのに、救出したらあとは放置とかあんまりだと思ったからだ。最低限の生活の保障はしてやりたくなったが、自立できるまで世話するのだと何日かかるかも分からないし、そこまでやってやる義理もな。無いとは言わないけど、できれば自分の意思で生きて、生活してほしいところもある」
まだちょっと納得いってない感じの三樹だが、座ったのに合わせて別の人が手を挙げる。
「はい」
「ポンコツ……じゃなかった。乙骨優」
低身長な警察官の乙骨優をついうっかりあだ名で呼んでしまうと、さすがに不満そうにしていた。
「もう、みんないるところで変なあだ名はやめてよ。……で、確認なんだけれど、全員女子なの?」
「要第二の1000人は、教師何人かを含めて全員女性で、要第三は男子もいる。人数は分からないけど100人くらいはいるんじゃないかな。それだけの人数の男子受入れはちょっと拒否したい」
「じゃあそこの三条双治くんは?」
乙骨優は状況説明のために連れてきた三条双治に話を振る。
「んあ? 俺? いやー、別の避難所に行こうかなって」
「弟くんどうすんだよ。おれは二人とも受入れる方向で考えてたぞ」
「少数ならいいのかよ。基準が分かんねーなおい」
明確な基準はおれも分からないが、受け入れるつもりの女子と仲が良い男子なら、多少はいいかなと思うようになってきている。
一応納得はしたのか、座る乙骨優に続き中学2年の相沢蘭が手を挙げた。
「花園の中の薔薇二輪。……うふふ腐腐……どっちがタチでどっちがネコですか……?」
「このおバカちょっとやめなっ!」
なんだかゾワッとする相沢の言葉を高校2年の原田 裕子先輩がチョップして無理やり座らせていた。
……なんの話だったんだろう。
「はーい」
「烏丸さん」
犬神のポチさんと猫又のタマさんと一緒に避難してきた烏丸翔子さんが手を挙げる。
「要第二の子たちと、要第三の子たち、受け入れを今決めなきゃいけないかな?」
「うん? ごめん、それはどういう意味? 敵対勢力の殲滅と被害者の救出は必ずやる。その後のことになるけど、対応は事前に決めてた方が動きやすいかなって思うけど」
「捕まってる要第三の子たち、救出したからって、すぐに社会復帰できるくらい浅いのかな? 心の傷」
心の傷と言われて、なんとも言えなくなった。
正直、おれだって両親を殺された心の傷は三ヶ月以上経った今でもまだ癒えてない。復讐心も燻ってる。
ましてやそれが、自分の体と心と尊厳を傷つけられ踏みにじられたとあれば。
同じ期間で復帰できるとは言えなかった。
「決めるのは、救出した子たちの状態を確かめてからでも遅くないんじゃないかなって。結論を急ぐ必要もないんじゃないかな」
「……なるほど。今急いで方針決めても、想定外があった時に逆に混乱するかもしれないか……。検討します。それはそれとして、他に意見あればどうぞ」
偵察した眷属屍鬼が伝えてきた内容は、ひどいものだった。
それよりもっと酷い状態になっているかもしれないこと、付きっきりで対応しないといけないかもしれないこと、それもあるかもしれない。
たしかに、救出が終わってからじゃないと見えてこないものもあるんだろう。
その点を受け入れて検討すると言った時点で烏丸さんが座ったので、他の意見を求めてみる。
「……はい」
「佐藤先生」
神妙な表情の佐藤鈴先生が手を挙げた。
「捕まっている人たちを救出してしばらく休ませたあと、戦う意思がある人はここに受け入れて、その意思がない人は別の場所に保護する。その保護と護衛の人手は、屍鬼の人たちの中で戦えない人たちにやってもらうのはどうかしら?」
「ちょっといいか? 捕まっている人たちを救出しても、まあその、さっきのお姉さんが心の傷と言ったように、言葉にしたくないほど酷い目に遭っているわけで、いわゆるトラウマ案件だと思うんだ。だから、男とかいない環境で心穏やかに過ごす時間も必要あるかもしれないってのは頭に入れといてくれ」
佐藤先生から具体的な案が出ると、三条双治が思い出したように言葉を重ねる。
「さっきの烏丸さんの意見と足して考えると、救出したあとに一人一人意思を確認して、方針を決める感じか。ある程度休ませて、心を持ち直す時間も必要だと。期間を区切るのも酷な話か……」
「方針がだいたい決まったなら、今日にでも決行するかい?」
御剣双葉さんが、戦意漲る強い視線を向けてくる。
でも、すぐは多分無理だと思う。
「救出した人たちはそのままにしておけないだろうから。だから、要第二の人たちの力を借りたい。方針を決めたら、向こうと打ち合わせしてから決行かな」
双葉さんの言葉に、首を横に振る。
さっさとカチコミしたいのはやまやま。
でも敵を鏖殺しても、捕まっている人たちをそこに置いておきたくもないし。
その人たちも、そこにいたくないだろうし。
でも、そのために苦しむ時間が長引くのは本末転倒でもある。
言わないけど。
「ほかに、なにかある人は? …………これから要第二の人たちと連絡取り合うから、今日は救出作戦は決行しない。その上で、なにか気づいたら遠慮なく言ってほしい。戦闘と救出で人手が必要だから、サブメンバーの子たちにも作戦に参加してもらうことになると思う。直接戦わなくても、参加するかどうかは決めておいてほしい。
では、これで緊急会議を終わります。お疲れさまでした」




