第32話:市立要第二高校防衛戦介入
市立要第二高校の生徒会長で全体の指揮も執っている一条桜より同校の守りを任された親友にして腹心の二条葵は、一条たち警ら巡回班十数名が予定時刻までに帰還しないことに焦りを覚えていた。
それを顔に出さずに、警戒レベルを引き上げるよう通達する。
警ら巡回班が襲撃され帰還困難になったと思われると添えると、伝えた相手は早朝の寝ぼけまなこが緊張と恐怖で見開かれた。
囚われたか、仕留められたか。
親友の身を案じつつも、現実問題として拠点への襲撃リスクが高まったことから、周辺の警戒と索敵を密にするよう追加で通達。
突如発生した音に視線を巡らせれば、仲間が校外を徘徊する屍鬼を狙撃銃で狙撃したところだった。
警ら巡回班の掃討が上手くいってないのか、敵の手がもう伸びてきているのか。
考えてみても、答えなど出るはずもなく。
深呼吸して、心を落ち着ける。
そんなもので落ち着くわけがないが、ほんの少しだけマシになった。
こちらの戦力を時間をかけて少しずつ削っていくつもりなら、大掛かりな襲撃はまだ起きない。
けれど、これを機に攻めてくるのであれば、時間は残り少ない。
『襲撃されたけど今は無事。拠点が攻められるかもしれないから備えて。もうすぐ戻る』
一条からのメールで無事は確認。
……これ自体が敵の偽装の可能性は排除できないけれども、そこはもう気にしてもしょうがないと諦める。
むしろ、奮い立たせるための材料にして、通達。
今なら、まだ。
緊張感を維持している今ならきっと、まだ耐えきれる。
7:00
市立要第二高校連合の警ら巡回班14名を仲間に加えて、彼女らの拠点へ眷属屍鬼が運転する車で移動する。
アイテムボックスの容量の多さに驚いてはいたものの、乗って移動すれば数分の距離。
そのわずかな時間車に揺られただけで寝落ちしそうになっているのが半数ほど。
体力薬と疲労回復薬と眠気覚ましを飲ませて、寝落ちしたら完全に足手まといだとなんとか持ちこたようとしている。
だが、眠気覚ましは全員既に飲んでいたらしく、効果を発揮しなかった。
仕方なく、半数はほんとに戦力外として護衛を配置して離れた場所で待機。
一条さんをはじめとした6人はなんとか戦闘可能らしいので、戦力に加わってもらうとして。
「リビングアーマーは余裕ないから、予備の眷属屍鬼を出すか。……1000人くらい」
眷属屍鬼たちの調べでは、要第二高校を包囲しつつある勢力は、正門側に屍鬼が多い。陽動と思われた。人間が多いのは裏門側。
それとは別に、格上っぽいのが1箇所に集まっているとか。
E-フォンのENSでリアルタイムでコメントを打ち確認し合い、無音に近いかたちで情報をやりとりしているらしい。
で、格上組の反対側への包囲が遅れているようで、苛立たしげにE-フォンを操作しているのがいるそうだ。
そいつの側に槍を持った兄弟らしき3人の男子が、ダントツで強いらしい。
さて、向こうの包囲が完了する前に、こちらの包囲が完了してしまったんだが。
そして、正門側には要第一中学のメインメンバーが間に合い、配置に着いた。
それらの情報はすべてENS経由で一条さんたちに伝えており、要第二高校内で指揮を執るという二条さんたちにも伝わっている。
というわけで、
『やっちまうよ?』
『状況開始』
おれの最終確認に、一条さんがゴーサイン。
遠慮なく突撃して、裏門側の人間を鏖殺した。
鑑定スキル先生に人柄や直前の行動なんかも表示してもらったら、全員見事に真っ黒だったので心も痛まない。
要第二高校側も正門を開放、全力をもって正面突破。メインメンバーも同調し敵勢力の背後から奇襲を仕掛けたことで前後から挟撃。おれの眷属屍鬼の援護を受けながら100を超える銃火器で武装した屍鬼を先制攻撃で壊滅させる。
包囲しようとしていた各所の敵は、おれの眷属屍鬼が逆包囲して各個撃破。
ここまでにかかった時間はほんの数分。
残るは指揮官を含むと思われる格上組のみ。
それに相対するは、一条さんをはじめとする要第二高校連合の6人と眷属屍鬼4人。
「…………まさか、三条がそちらについていたとは。我らの存在意義、忘れたか?」
「くだらない。そんなことより俺は、一条桜、お前が欲しいんだよ」
おれが駆けつけたときには、銃火器で武装した敵側が数人倒れていて、一条さんと男が睨み合っていた。
「家も立場も役目も捨てて、そうまでして私を欲する? 婚約の打診は断ったはずだけど?」
「関係ないさ。お前を組み伏せて俺好みの彩に染め上げるその日までおれは諦めない」
嫌悪丸出しの一条さんと、自己陶酔というか悦に浸ったヤバい面構えの男。
発言内容も普通に犯罪的だぞ。
「むしろ、この状況は俺に味方している。力さえあれば何でも手に入る世界になった。お前を手に入れて幸福をこの手に掴む。足りないものは、愛で補うさ」
「……相変わらず、気持ち悪い奴」
糠に釘というか、一条さんが何を言っても涼しい顔で受け流している。
あの男、自分がやべーやつだとは思ってもいないんだろうな。
後ろにいる弟2人も引いてるぞ。
そんなやり取りをしている間に、眷属屍鬼の活躍で三条三兄弟以外は全滅していた。
眷属屍鬼に持たせた矢や投げナイフなどの投擲、銃弾などを無効化する《矢避けの御守り》が大活躍して、小銃も散弾銃も無効化。完封して圧倒していた。
戦い終えた少女たちと眷属屍鬼が三条三兄弟を包囲しても、三条長男の気持ち悪い余裕の表情は変わらない。
「協力してくれている人たちがいてね、お前たちはもうおしまいよ。あきらめなさい」
「なに、頭を押さえて人質にすれば、他は従うしかあるまい?」
三条三兄弟が孤立無援で包囲されている現状すら、三条長男にとっては予定通りと言わんばかりで、一条さんの降伏勧告にも下衆な発言をし続けている。
弟2人がもう泣きそうになっているんだが。
「三条の槍は三位一体。誰であろうと、何人いようと、我ら三兄弟には敵うまい。……いざ、参る」
背の高い長男が先行し、次男三男が続く。
三対一の状況を作り出すことで数的有利にし敵を速やかに撃破する戦闘スタイルだという。
それは、たしかに有効な戦闘スタイルなのだろう。三対一なら。
「ぐっ、ふ?」
走り出すと同時に背中から槍を受け、倒れ伏す三条長男。
そのすぐ後ろにいた次男は、投擲をした姿勢で。
つまりは、三兄弟で一条さんを倒し人質にして要第二高校連合を服従させようとしていたのは三条長男のみで、弟2人は裏切ったというか、長男の奇行についていけなくなったのだろうと思えた。
三条次男は、倒れ伏す兄の体から槍を捻ってから引き抜き、首、心臓、頭の順で突き、捻り、確実に仕留めた。
「すいません一条さん。うちのバカ兄が迷惑かけました」
槍が頭に刺さったままピクリともしない長男を確認してから、一条さんに頭を下げる三条次男。
三男も、槍は手放さないが深く腰を折り頭を下げていた。
「さすがにこれで許してもらおうなんて思ってもいないんで。でも、三治はまだ小学生っす。俺の首でどうにか治めてくれないでしょうか」
そう言い、驚愕で目を見開く三男に目を向けることなく、三条次男は小太刀を抜き放ち、一条さんが止める間もなく首に添えて、
・三条長治・業鬼 レベル22 タイプ:鬼、戦士、不死
:妄執に囚われ続け膨れ上がった歪な愛情は、積もり積もって腐って膿んで、狂気を孕み、人を鬼へと転じた。
我が愛の前に立ち塞がるすべてを、この手で縊り殺してやろうぞ。
「離れろ!」
離れた場所で様子見していたおれが、警告する。
思わぬところから声がかかったせいか、全員一瞬動きを止めてしまった。
その一瞬で、屍鬼化……業鬼化した三条長男が頭に刺さったままの槍を引き抜き回転させ石突きで次男の持つ小太刀を打ち払い、腹を突いてはじき飛ばす。さらに槍を投げて追撃するが、それはおれが割り込みはじき飛ばす。
弟に槍を投げた結果には興味すらないのか、三条長男は自分の槍で一条さんに襲いかかる。
その速度は、先ほどよりも速く鋭い。
一条さんが反応できないほどに。
「やらせねえよ」
しかし、それを俺が許すはずもない。
高速で移動する三条長男に追いつき、横に蹴り飛ばし、地面を跳ねた先に追いつき、
「クソが。死ね」
縦に真っ二つにして、アイテムボックスに収納した。
そこまでしてようやく戦闘が終了した。
異常な速さで屍鬼……業鬼? になったのもそうだが、縦に真っ二つで倒せなかったら、細切れか核みたいなのを見つけて破壊するくらいしか思いつかないので、面倒がなくてよかった。
「……その、終わったぞ」
「……ゲホッ、痛ってえ……。あー、悪い。誰かは分からんけど手間かけさせたな。助かったよ。しかしあのクソ兄貴、まさか変身するとは」
槍の石突きでみぞおちを突かれた三条次男は腹を押さえながら冗談ぽく言う。
しかし、変身ときたか。人間辞めてたし変態だろ。
「双治くん……」
「うっす。まあなんつーか、元々俺と三治はバカ兄を止めることができなくて、せめて2、3人くらいは逃がせればと思って参加したもんで、はい。……まあ、必要なかったみたいっすけど」
一条さんは泣きそうになりながら三条次男に声をかける。
対する三条次男は、あくまで軽い調子で肩をすくめてみせた。
「できればね、四条五条の小学生2人くらいは逃がしてやりたかったけど、捕獲の優先目標になってて。どうにもできなかったっす」
三条次男は軽い調子で言ってみても、表情は悲痛なもの。
その覚悟と無力感を周囲は理解してしまい、しん、と沈んだ雰囲気になってしまう。
「いやー、大規模な衝突の中で、命がけで助け合い、芽生える恋。なんてのもいいとは思ったけどさ!」
「バカ三条。あんたもほんとは一条先輩狙いだったんでしょ?」
「いや俺は巨乳派なもので。どっちかっていうとたわわな二条さんだな」
「サイッテーっ!」
親しい間柄らしい女子が厳しい表情で三条次男に詰め寄り詰問すれば、その女子の胸を見て、鼻で笑っていた。
そんなことをすれば当然、次男は平手打ちの刑に処され頬を真っ赤にしていた。
一条さんも、ゆっくり近づいて反対側の頬を笑顔でひっぱたいていた。笑顔で。
………………こっわ。
「ねえ、三治くん。三治くんは? 誰か好きな人いる?」
同級生か、年少の女子が三条三男に問いかけている。
「僕は、四条さんが好きだな。ぶっきらぼうでツンツンしてるけど、本当は優しくてかわいいから。物静かで微笑む姿がきれいな五条さんのことも好きだけど、でも、こんなんやらかしたあとだからなぁ……」
兄弟2人が口を揃え冗談めかして言うので、場の空気は弛緩する。
でも、問うた女子2人は好きと言われてないので微妙な表情。
本人を目の前にそうは言わないだけかもしれないけれど、友人知人として親愛の情くらいは示した方がいいんじゃないかと思ってしまった。
口には出さないが。
「あ、なんかもう終わったみたいな空気だけど、実際のところまだ終わってないんだよな」
「要第三小学校、第三中学校、第三高校および県立要大学、陥落です。暴力団石嶋組の若衆と下部組織の半グレ集団、要大学の協力者たちによって避難所となっていた各校が襲撃され、死者はネクロマンサーによって眷属に、生存者は……その……」
「奴隷みたいなひでぇ扱いされてる。こんなもん頼めた義理じゃあねえが、助けてやってくれねえか?」




