第27話:5日目、6:00 起床
・称号《4日目生存者》獲得。
:世界改変を4日生き残ったお前たちに、褒美を与える。
どうか、生き延びてくれ。
:ポイント2000、全能力+1獲得。
6:00
目を覚ます。
E-フォンで時間を確認すると、だいたい30時間ほど寝たのが分かった。
眠ったまま丸一日以上過ぎるのは、思っていた以上に恐怖で、現状を把握するべく部屋から飛び出……る前に、トイレを済まし《洗浄》スキルで体をきれいにして、洗面所の鏡で寝癖などないか確認してから部屋を出る。
最上階の4階は完全個室。大人組などおれの身近な人が選んでいた。
隣の部屋は、同級生の東舞さん。
入学式の次の日から登校しなくなったおれに、毎日ノートの写しと授業やお知らせのプリントを届けてくれていた人。
両親を亡くしたおれの心を繋ぎ止めてくれていた人の一人。恩人だ。
ドアをゆっくりノックする。
女子の部屋に入るのかと思うと、妙に緊張する……。
「はーい。……平坂くん、よかった。目が覚めたんだね」
「う、うん。なんか、ごめん」
「ううん。謝ることなんてないよ。たくさんがんばってくれたんだもの。あ、おはよう」
「うん。おはよう」
やばい。どうしよう。
寝起きの東さんが優しく微笑んでくれたのを見て、ドキドキしてしまう。
おれは今変な顔してないだろうか。
「よかったら入って。コーヒー淹れるよ」
「う、うん。いただきます」
間取りはこの拠点のおれの部屋と同じで、物が少なく殺風景。
入口で靴を脱いで部屋に上がると、座ってとクッションを差し出される。
クッションに座りローテーブルに向かうと、東さんが淹れたばかりのコーヒーを2つテーブルに置いて、対面に座る。
なんか、この部屋、コーヒーとは違ういい匂いがする。
……って、匂い嗅いでたら、変態くさいだろ……。
「はいどうぞ。それにしても、ショップの薬の効果ってすごいね。本当に1日以上眠ったままだったよ」
「いただきます。……うん。寝る前にやれるだけのことをやりたいと思ってがんばってたけど、寝て目を覚ましたら、すごい怖くなった。寝てる間にみんないなくなったりしてないかってさ」
「いなくなったりしないよ。むしろ、目を覚ました時に誰か一緒に居た方がいいんじゃないかってさ、添い寝しようって話にもなってたもの」
いや、添い寝とか。
東さんはその時のことを思い出してか、くすくすと笑っている。
かわいい。
「結局、全体の半分くらいの女子が権利を主張してさ、話し合いで決着つかないから飽きてきた子も居てね。解散になったの」
自分以外を推薦する女子もいて、面白かったなー。なんて、思い出し笑いしてる。
そんな話を聞いたおれは、どうすればいいのか分からなくて、頬を引きつらせていた。
「あ、そうだ平坂くん。武くんって呼んでいいかな? 私のことも、舞って名前で呼んでほしいの」
「……えっと、いいの?」
「うん。お願いしてもいい?」
「…………ま、舞、さん…………」
「さんもいらないよ武くん。同い年だもん。呼び捨てにしてくれる?」
「ま、まい」
「うーん、堅いなあ」
「舞」
「うん。武くん。これからもよろしくね」
「うん。こちらこそ」
花が咲くような笑顔を向けられて、舞のこと、これまでよりももっと好きになってしまう。
ただでさえ、ほかにも好きになった人がいるのに。
今よりもさらに好きになってしまったら、気持ちを抑えることができなくなりそうだ。
「あ、それでね? 昨日武くんが起きてこないからってことで全体会議してさ。大人含めた女子たち全員で決めたことがあるから」
え、覚悟してねって、なにそれ。
みんなを放置して一人寝てたから、報復でもされるの?
「武くん。こんな世界になって、みんなすごく困って、不安で、怖かったの。そんな時に、救い出してくれて、安全な場所で快適に過ごすことができるのって、とても貴重でありがたいことだと思うんだ。だから、ありがとうね。すごく、感謝してるよ」
感謝の言葉とともに、テーブル越しに身を乗り出してくる舞。
1秒。
唇が触れて、離れる。
はあ、と吐息がかかる至近距離で、お互い、顔を赤くして、目をそらしてしまう。
でも、すぐに目が合って、またそらして、ふにゃ、と笑ってしまう。
「……こ、こんなことで、受けた恩を返せるとは思ってないけどさ。私、がんばるからね」
「違う。そうじゃない」
「えっ?」
「そうじゃないんだ。恩を返すのは、おれの方なんだよ。入学式の日から今日まで、おれが、舞からどれほどの恩を受けてきたと思ってるのさ。舞には、ずっとずっと、おれの方が救われてきたんだ。恩を返すのはおれの方なんだよ」
舞の両手を優しく握りしめて、目を合わせて、はっきりと宣言した。
これくらいで、想いを伝えきれたとは思わない。
これくらいで、恩を返せたとは思えない。
「だから、これからもずっと、おれにできることをやっていくよ。返せるだけの恩を返していくよ。でも、それを気に病むとかはしなくていいから。おれが、してあげたいと思うから、そうするだけだから」
見つめ合って、顔を寄せて、そのまま……。
「んんっ、お、おはよう」
すぐそばで、誰かの咳払い。
目を向ければ、腕を組みつつ顔を真っ赤にして仁王立ちしている西園美麗さんがいた。
「お、お、おはよう、西園さん」
「みー、おはよう」
「はいおはよう2人とも。ノックもしないで部屋に入ったのはごめんだけど、朝から野次馬が聞き耳立ててるので、いちゃつくのはほどほどにね」
「うわ、マジか」
頭を抱える。
西園さんはそんなおれのそばに身を寄せて、耳元でささやく。
「私のことも、美麗って名前で呼んでね」
両手をおれの頬に添えて、顔を寄せて、唇が触れ合う。
「……み、美麗さん……」
「さんは要らないってば」
「美麗」
「うん。……ね? キスしてどうだった? ドキドキした? 私めっちゃドキドキしてるよ」
パッと離れて、明るい笑顔で煽るように感想を聞いてくる美麗。
その笑顔は少しぎこちないれど、問いかける顔は真っ赤だ。かわいい。
「うん。よし。じゃあ行こうか。朝ごはんだよ。おなか空いちゃった」
パタパタと手を振りながら背を向ける美麗に、苦笑する。
純情というかなんというか、照れ隠しに必死だ。
とはいえ、空腹なのも事実なので、舞と視線を絡めて目でうなずき合い部屋を出ようとする。
(ちなみにだけど、ファーストキスなのでそこんとこよろしく)
美麗が、
(実は私もだよ。今後ともよろしくね)
舞が、2人が身を寄せて、耳元でささやいて両頬に唇を触れさせてきた。
2人から、どこか甘いにおいがして、くらりとする。そして、顔に熱が集まっていくのを自覚した。
きっと今、おれの顔は真っ赤なんだろうな。
かなわないなあ。
2人のこと、ますます好きになってしまうよ。
「……朝からお盛んですね」
3人揃って食堂に着くと、三樹にジト目で罵られてしまった。
3人とも顔真っ赤だろうし、抱き合うようにひっついた状態で来たのだから、そう思われても仕方ない。
とはいえ、今日も朝ごはんは美味しかった。




