第26話:9:00、女子トーク的な
佐藤鈴女教師視点。
「えー、みなさん。改めまして、おはようございます」
なぜか代表として議事進行を任された私、佐藤鈴が挨拶をすると、おはようございます。と元気な挨拶が返ってくる。
大量のポイントを消費して《要塞》化した要市立第一中学校は、現在主人である平坂武くんが睡眠代替薬という薬を服用してきた反動で、明日まで目を覚まさない事態に。
その際の指揮系統を明確にしていなかったおかげで、教師である私に臨時代表の役目が回ってきた。
名家のご令嬢たる御剣家三姉妹の一華さん、双葉さん、三樹さんは学生という立場から辞退、年長者であり警察官の弓削奈月さんや乙骨優さんは、警察官としての立場的に下に位置して命令を受ける側だからとこちらも辞退。
あとは、中学生組と高校生組の女子たちなので、代表としては不適切とほぼ消去法で私に決まってしまった。
「で、では、本日の議題を、御剣一華さんお願いします」
「御剣一華です。よろしくお願いします。さて、みなさん。今の状況を正確に理解していますでしょうか?」
中学生組40人+高校生組20人+大人3人で60人ちょっとの視線が一華さんに集まる。
無言が答えと受け取ったか、一華さんはひとつうなずき語り始める。
「生き残ったことは、みなさんの行動の結果です。ですが、この夏の暑さを感じないほどに快適で、敵に見つからず攻め込まれない安全な場所を提供してくれたのは、平坂武くんです。その点は、決して忘れることのないようお願いします」
みんな大きくうなずいたり、はーいと元気よく返事している。
「また、市内の各避難所では、衛生環境が悪くなりつつあります。労働を課せられているとはいえ、好きな時に好きなだけシャワーを浴びることができて、着替えも一瞬で乾燥まで済ますことができるこの環境は、ほかの人たちよりはるかに快適といえるでしょう」
高校の体育館で、着たきり雀で戦い続けた初日と比べて、快適さは比べられないほど。
プライベートは確保されているし、夜は好きに女子会をしているようだし、家族やほかの同僚友人知人などのことを考えなければ、本当に恵まれている環境だといえる。
「そんな中で、武くんは、ずっと一人でがんばってきて、夜通し戦い続けて、自分が稼いだポイントや経験値を惜しみなく分け与えてくれています」
不意に、一華さんは言葉を切り、視線を下げた。
「けれど、武くん、今は限界を迎えて、眠り続けています」
声のトーンが下がり、気落ちした様子を見せる一華さん。
みんなも、心配げに、悔しげに、うつむいている。
「では、『ずっとがんばってきた武くんに報いるには、どうするべきか?』今回の議題はそれです。みなさん、活発な意見をお願いします」
わー、ぱちぱちぱち。
え、なんか、みんな、ノリノリだけれど、いいの?
「はい」
「はいどうぞ。自己紹介を兼ねて、学年や職業と名前を言ってから意見をどうぞ」
「中学2年、相沢蘭。心も体も魂も、すべてを捧げるしかないと思います」
「いきなり剛速球が来た!? あ、相沢さん、ありがとうございます。ほかにも意見ありませんか?」
「はい」
「はいどうぞ。名前から」
「要市警察署交通課所属、弓削奈月です。日常のことでできることを、お世話してあげればいいと思います。具体的には、ひざ枕して耳掃除したり、お風呂で体洗ってあげたり、添い寝してあげたりなどです」
「ちょーっと、刺激が強いかもしれないなあ!? ほとんどの女子が未成年なんですけどねっ!? ほ、ほかにありませんか?」
「はいはいっ!」
「はいどうぞ。学年と名前を言ってくださいね」
「中学3年、田力瑠衣っす。先輩を見かけたら、みんなひっつけばいいと思うっす!」
「ハグですか。ありですね。誰でもやりやすくて難易度低いところは非常に良いと思います。ほかには?」
「はい」
「はいきた双葉」
「高校3年生徒会長、御剣双葉です。……えっと、その、おはようと、おやすみのキスを……。あっ、まって、これなし。やめるっ」
「双葉姉さん……」
「わが妹ながら、恋愛初心者にはハードル高いの来たわね……。……えっと、ほかに、ありませんか?」
「あ、はい」
「はいどうぞ」
「高校1年、東舞です。いろんなこと、気がついたこと一つ一つにありがとうと感謝を伝える。で、どうでしょう?」
「感謝を伝える。とても大事ですね。良いことです。ほかには?」
「はいっ」
「はいどうぞ」
「高校1年、西園美麗です。舞と似てるけど、毎日お疲れさまと労いの言葉をかける。で」
「労いの言葉をかける。これも大事ですね。ほかは?」
「はい」
「はいどうぞ」
「中学3年、思井佳奈美といいます。生徒会副会長を務めております。ほめる。でいきます。なんでもいいので、武先輩のことをほめてあげたいです」
「ほめる。すごくいいですね。私も感謝を伝えてほめ倒したいです。ほかはありますか?」
「は、はい」
「はいどうぞ」
「中学1年、篠原歩です。平坂先輩の、身体に触る。というのはどうでしょう? 服の上からでもありで」
「なるほど。近づいて、けれども近づきすぎない距離で、ハグするよりは離れた位置で、直接触れ合う。いいですね。ハグよりも難易度が低くて失敗することもない。気持ちを上手く言葉にできなくても、ささやかでも直接触れ合うのはいいと思いますよ。ほかはどうですか?」
「はい」
「どうぞ」
「高校2年、原田裕子。スカートをたくし上げておパ」
「はいアウトー。それ以上は大丈夫です。そういう遠距離攻撃はダメかなーと私は思います。そういうのは、2人きりの時、同意を得てからするべきかと。でも意見ありがとうございます。ほかはありませんかー」
「はい」
「ほいきた三樹」
「中学3年生徒会長、御剣三樹です。改めて言うことでもないかもですけど、おはよう、こんにちは、こんばんは、おやすみなど、あいさつをする。で」
「あいさつはとても大事ですね。当たり前のことですけど、欠かさないように意識していきましょう。ほかはありますか?」
「えっと、はい」
「はいどうぞ」
「交通課の乙骨優です。平坂くんの好みのタイプと私たちにしてほしいことの確認はするべきではないかと思います」
「好みのタイプ……」
「双葉姉さんがドストライクですよ」
「ちょっ!? み、三樹!?」
「武先輩が中学1年の頃からずっと、生徒会庶務で雑用をやってくれていたそうなんですけど、暇があれば双葉姉さんのことを見ていたみたいですし、高校に上がってからも、コンビニバイトしている武先輩に毎朝声をかけていたみたいですし。双葉姉さんから毎日名前呼ばれて声かけられて、惚れない男子なんていません」
「うわちょっと三樹、断言しちゃって大丈夫?」
「一華姉さんを見る目も、惚れてる人を見る目だよ。反面、私たち中学生組を見る目は、兄が妹を見るような親愛な感じです。恋愛じゃなく。だから多分、武先輩は年上のきれいな女性が好きだと思います。あと巨乳。佳奈美もギリ恋愛対象だよ。私は庇護対象な感じだけど」
「えっ!? わっ、私も!?」
あら、ちょっと騒ぎになってきたわね。
双葉さんや佳奈美さんがだいぶあわててる。
ほかにも、もしや自分はと感じてそうな女子や、そんな女子を興味深そうに見ていたり話しかけたりしている女子、よく分かってなさそうな子や興味なさそうにしている子もいる。
助けられたからといって、全員が全員、武くんに好意を寄せているわけでもなさそうね。
でも、そうか。武くんは大人の女性が好みなのね。
なら、私は……。
今は、いいか。
そろそろまとめてしまいましょう。
「はーい、静かに。落ち着いて。これまで出た意見をまとめます。
・あいさつをする。
・感謝を伝える。
・労いの言葉をかける。
・ほめる。
・体のどこかに触れる。
・ハグをする。
これらはどれも、コミュニケーションを取る。と言い換えてもいいかもしれませんね。体に触ったり抱きついたりするのは、大丈夫な人は実践してもいいでしょう。その際は、武くんに許可を取ってからにすると、問題はないと思います。また、男子に触るとか難しい人は、無理せずあいさつにとどめておくべきでしょう」
一度言葉を切ると、はーいと元気な声が返ってくる。
見渡してみても、こちらを見もしない子や返事するのも嫌そうな子や、体調悪そうな子もいないみたいだから、今のところはまだ大丈夫そうね。
「おはようやおやすみのキスやお世話したいは、ちゃんと告白して結ばれて恋人同士になってからするようにしましょう。こんな世の中です。日本の法律上一夫一妻ですが、そんなこと気にする必要もないと思います。武くんのことを本気で好きになったなら、2人でよく話し合い、急がず焦らず慌てずに、愛を育んでいけばと思います。また、各人の恋愛は邪魔せず、先に結ばれた子を邪険にせず、後から来る子を煽らず、みんなで仲良く武くんをシェアすればよいと思います」
おおー、と感心したようなどよめきのあと、大きな拍手が上がった。
「では、そんな感じでいきましょう。昼食をはさんで、午後は2班に分かれて周辺のパトロールに行きましょう。戦力と前衛後衛のバランスが傾かないようにしつつ、リビングアーマーさんにお願いして2体ほど護衛に付けましょう。こういう時だからこそ、引きこもるよりは行動するべきかと思います。では、第一回全体会議を終わります。お疲れさまでした」
午後の方針、勢いで勝手に決めてしまったけれど、よかったわよね?
????『後輩ちゃんに性癖把握と暴露されてて草』
????『サボってんじゃねえ働けこの穀潰し』




