第24話:16:00、試み
16:00
中学校への帰宅途中、耐え難い眠気に襲われ、E-フォンで睡眠代替薬を購入する。
弓削奈月さんが霊馬に乗せて運んでくれると言ってくれたが、意を決して飲み干し、普段の睡眠時間の6時間と念じれば、疲労と眠気が減り、だるさがある程度薄れ、体力が回復したのを実感できた。
・代替睡眠時間 24h/24h
次はもう、服用できない。しても効果がない。
だから、今できることをやろう。
明日、後悔しないために。
とはいえ、外での活動は禁止されてしまった。
大いに不満ではあるが、みんなの表情を見てあきらめざるを得なかった。
みんなから相当心配されている。
今日はもう外に出ないでと、夜通し活動してはいけないと、見張りがついている。
後輩の御剣三樹と思井佳奈美、恩人の佐藤鈴先生、あとは高校生組の先輩女子が1人。
せっかくなので、アパートの一室みたいなリビングと寝室に分かれている自室を小改造してみんなでカーペット敷きの床に座れるようにする。
小改造に合わせて用意したクッションに座った佐藤先生が、膝をポンポン叩く。
……えっ? ひざ枕? ……いいの?
先生の顔を見ると、にこりと笑った。
…………無言で。
あ、はい。
「…………えっと、じゃあ、失礼します?」
「どうぞ」
おそるおそる、先生の足に頭を乗せる。
うわなんかやわらかくていいにおいする。
頬に手を添えられると、なんだかすごく、心が安らぐ。
このまま眠ってしまいそうになるが、それでは睡眠代替薬を飲んだ意味がないので、外に出れない代わりに眷属たちにE-フォンで指示を出す。
アイテムボックスを共有している眷属たちに、スーパーやコンビニ、飲食店などの、肉や魚や野菜などの生鮮食品と各種ゴミを回収してもらう。
それと同時に、眷属数人に《解錠》のスキルを渡して取得させ、現金を回収させる。
あと、床や地面に散乱した壊れた物や潰れた食品なども回収していくよう指示。
それらが終わったら《洗浄》スキルでその場を綺麗にして終了。
夏の暑さで生ものは腐ってしまうだろうし、日持ちするものだって開封されたらやはり腐るだろう。
そういったものを回収するのは、悪臭や病気対策だけではなく、理由がある。
アイテムボックスを操作して、回収した傷んだ食品や壊れた物に《修繕》スキルを使用。
一度のMP消費である程度まとめて修繕できるので、次々と修理していく。
もうゴミといっても差し支えないモノが、販売時の状態を取り戻していったり、魔物がドロップした粗末な武器防具が立派な物になったりしている。
それらを、売却していく。
売却された品は、ショップの中古品の項目で確認できる。
魚の切り身や刺身、生の肉、鉄製の剣や鎧などなど。
それらは、どれもショップで販売されている値段の半額で購入できるほか、セール品としてショップに並ぶようだ。
……元が地面に落ちたり傷んだ食品なので、買いたいとは思わないが……。
また、鉄筋コンクリートのがれきや鉄の鎧とかはそこそこ量があるので、ショップの素材化を試してみる。
すると、重さや量が正確に表示され、少し目減りした量の素材を得ることができた。
鉄の鎧を《修繕》スキルで直して売却するのと、素材にして売却するとだと、どちらがポイント高いかというと、修繕する方だった。
では、素材化のメリットは?
ゴブリンゾンビなどの、一度死んで復活した魔物を素材化すると、ポイントとドロップアイテムが手に入った。
といっても、ゴブリンゾンビは10ポイントと小鬼の角だ。
小鬼の角を売却しても、1個1ポイントにしかならない。
屍鬼の眷属はもう3000以上いるので、ゴブリンやコボルト、スパイダーモンキーなどの魔物の死骸は眷属にする必要性を見出せない。
眷属たちが魔物を倒すと、ネクロマンサーの特性で入手ポイントと経験値の半分が倒した眷属のものになって、残り半分がおれに入るが、スキル《広域育成》の特性でほかの眷属たちにも分配される。
最低値は1。
ドロップは出ずに死骸が残り、時間が経つとゾンビとして復活する。
対して、おれが魔物を倒すと、入手ポイントと経験値の半分がおれに入り、残り半分は《広域育成》の特性で眷属たちと仲間の女性陣全員と連絡先を交換した高校生カップル組や市役所職員の父娘たちにも分配される。
最低値は1。
魔物の死骸がドロップアイテムの1種類に変化する。
ポイントだけで考えると、眷属が倒して死骸をアイテムボックスに入れて、後に素材化する方がより多くのポイントをもらえる。
ただ、ドロップアイテムの方が、死骸から得られるポイントよりも価値が高い場合は、
…………あ、えーと、寝るとこだった。
「武くん、眠いなら寝てもいいのよ? 危ないお薬飲んで寝ないようにしていたから、一度寝ると長い時間眠り続けないといけないのでしょう?」
先生、言い方。
「あ、待って待って、寝ちゃう前に、話聞いてくれる?」
「んぁ、んん」
先輩らしき女子が声をかけてきて、なんか変な声が出た。
「……あー、先生、ありがとうございます。大変だったでしょう?」
起き上がって、頭を振って眠気を飛ばし、佐藤先生に礼を言うと、平気よ。と微笑んでいた。
「で、えーと、ごめん、どちらさま?」
「自分で助けて連れてきておいて、そういうこと言うの? まあ、いいけどさ。2年の原田裕子。あのさ、平坂くん、でいいでしょ? あたしは折原沙弥の友人……というか、幼馴染」
・原田裕子。 レベル11 タイプ:人・戦士
クラス:騎士
要市立要第一高校2年、サイズはC。
折原沙弥の幼馴染で親友。
根取によって引き離されていたが、幼い頃から折原沙弥とは親しかった。
根取に絡め取られる沙弥を案じていたが、根取の陰湿で卑怯な手管に躊躇して沙弥を助けることができなかった自分を恥じている。
屍鬼となって根取を始末した沙弥を見て、大いに後悔していた。
好感度はC。(後輩くん)
素質:土
適性:騎士、剣士、戦士、重戦士
折原って誰だっけ? と一瞬思って、回復薬よこせ野郎に引きずられてきた女子の人か。
「あの頭おかしい奴に引きずられてきた先輩女子か。で、その人の友人が、なに?」
「……お願いします。沙弥を、生き返らせてください」
正座して、手をついて頭を下げた。
「必要なことがあれば、なんでもします。あのクズから助けられなかったあたしができる、唯一のことだと思うから。だから、どうか」
原田先輩の悲痛な訴えに、渋い顔になる。
「先輩、頭上げて。で、ちょっと待って」
確認してみたら、その折原先輩、眷属としての出動を拒否してる人だった。
レベルが上がったせいか、呪いが強くなっているようで、呪いを制御できる自信がないと拒否されている。
いやその、今再度要請したら、人生に疲れたから眠らせて。と返事が来ているのだが。
今度は命令したら、自主規制しなきゃならんような返事が来た。
思い切りソフトな表現をすると、きみがわたしをめちゃくちゃにしてくれるならいいよ。という。
そんなひどいことしたくない。と返せば、ごめんなさい。と。
鑑定スキル先生から人外扱いされていたあのクソ野郎、折原先輩になにしてきたんだよ。
どうすれば破滅願望的なことを望む人になるんだよ。
頭を抱えた。
「…………むうう…………。話は、分かったんだけど…………。ちょっと、条件を出してきてて…………」
「沙弥が?」
「うん」
「なんで?」
「知らない」
「なんでよぉ……」
「むしろおれが知りたいんだけど……。その、死にたかったんじゃ、ないかな。分からないけど」
「だから、なんで!」
なんでってそれこそおれが知りたいけれども、少なくとも原田先輩はちょっと興奮してて、理由を知れないと退くに退けないだろう。
なので、眷属になってアイテムボックス内のファームにいる折原先輩とのついさっきのやり取りを見せてみる。
「…………ウソ…………なんで、こんな…………」
「おれが言わせたわけじゃないってことは、やり取りを見たら分かるよね?」
「分かるけど! 分かるけど!」
「折原先輩に、ちょっと、落ち着く時間をあげることは、できない?」
今にも泣き出しそうな原田先輩の肩に手を置いて、ゆっくりと伝える。
「なんでよ……。生きてよ、沙弥……」
涙をこぼす原田先輩を見て、苦しくはなる。
でも、折原先輩も今まで苦しんで、生きていくのに疲れたのだという。
折原先輩からは、ほっといて、死なせて、みたいな突き放した言葉が出てこないあたり、だいぶ気を使っているんだろうけれど。
あ、でも、命令拒否されたの初めてだわ。
眷属って、意外と自由なんだな。
セール品の刺身や切り身は飛ぶように売れた。
大量にあったにも関わらず完売御礼。




