第22話:14:00、要市役所避難所
14:00
要市役所避難所に、要第一高校から救助した男女カップル組を移送する。
移動中も魔物や屍鬼と遭遇するが、魔物は倒し屍鬼はスキル《死霊操術》で眷属にして収納する。
路上に落ちているがれきなど移動の邪魔になりそうなものはアイテムボックスに収納し、倒れた街灯などはスキル《修繕》で元通りにしておく。
高校生組は1日目に戦い続けたため、中学生組よりレベルが高いから護衛は要らないかもしれないと思いつつ、男子7人女子10人のカップル(男子1人女子2人が3組)たちだけでは対応できない数や強力な魔物の出現を警戒するとどうしても、となる。
できたてカップルたちのイチャつきはともかくとして。
「せーんぱい?」
「うん?」
田力瑠衣が、首をかしげながらひっついてくる。
瑠衣もよく分かっていない様子なので、おれも首をかしげる。
「先輩」
相沢蘭も、瑠衣の反対側からひっついてくる。
口が三日月のように開かれているのを見て引きそうになるが、緊張してか口元が引きつっているだけなので、こちらもよく分からない。
「相沢、何かあったか? シックスセンス的な何かを感じたか?」
「…………くひっ、我がシャドウが、先輩の脇を固めろと囁いておるわ……。……きひひっ」
「うん、分からん」
「……左側って、心臓に近いから、守護りますって意味になるそうですよ……」
「そうなんだ。相沢は物知りだな」
「……きひっ、先輩からほめられた……」
知識は幅広いようだが、あいかわらず相沢のことはよく分からない。
急に変な笑い声したり、知識を披露したりと、退屈しないのは確かだけど、ビビるというかびっくりする時がある。
ほかのみんなはにこにこしているので、悪いことではないんだろうけどさ。
「せんぱいせんぱい、あたしもほめてー」
瑠衣もよく分からないタイミングでひっついてくるよなーと思う。
人懐っこい犬がなでてーと体を寄せてくる印象だ。
なでようにも、両手ふさがってるから無理だけど。
そんな、戦闘はあっても心穏やかに移動し、要第一小学校の前に着く。
先に行っててとみんなに断りを入れてから小学校の敷地に入ると、太い鉄パイプを組み合わせて物見櫓が組み立てられていた。
「誰ー?」
ちょっと間延びした声に視線を上げれば、初日に来た際に礼を言っていた女子だった。
「物資は足りているか? 援助できるぞ?」
「ほんとですかー!? お菓子欲しいです!」
素直な要求にほっこりしていると、無線で連絡をしたようで、少し待つと先日の男性教師が姿を現した。
「おお、きみか。元気そうで良かったよ」
明るく雄々しく笑う男性教師は、どこか精悍な顔つきになっていたし、精神的な余裕もある程度はありそうだった。
これまでの情報を交換し、足りていない物資と要望のあったお菓子を支給、衛生環境が悪化してきたようなので、《洗浄》のスキルを5個購入して男性教師にメールで送る。
ショップで購入する場合は、1000ポイント必要な《洗浄》スキルは、10万円相当。
気軽に購入できる額ではなく、避難民の多くが小学生で購入・取得するにはハードルが高いようだった。
「すまないなあ」
「まあ、なんでもかんでもよこせと強請る様子もないので、いいかなと。おれが勝手にやってることだし」
「助かるよ」
「そういえば、現金というか日本円、E-フォンのカメラで撮るとポイントに変換できますよ。要らないドロップ品とか売却してもポイントになるし」
「中古品とか解放されてたなあ」
情報を交換しつつ、支援物資を渡し終えれば、そわそわしてしまう。
「すみません。仲間を待たせてるんで、この辺で」
「また助けられたな。なにかあったら協力するよ。避難民の受け入れは、在校生とその家族に限定させてもらってるけどなあ」
「物資の都合上、それは仕方ないでしょう」
「すまないと思っているんだよ」
手短にやり取りを済ませ、みんなと合流する。
小学校から少し離れた日陰で休憩していたようだ。
その中でも、特に気になっていた篠原歩に声をかけてみる。
「篠原、体調は問題ないか? MPは大丈夫か?」
「はい。今は問題ないです。MPは少し回復して7割ちょっとあります」
クラスを人形師にした篠原は、人形師のスキル《人形操作》でMPを消費して車イスを動かすことでほかの人からの支援が不要になっている。
その代わり、動かしているのは普通の車イスなので、攻撃力や防御力は皆無で、段差も越えられない。
いずれ、多脚型のゴーレムを造ったりすれば前衛すら可能になるだろう。
……そのゴーレムは、錬金術師とかの生産職が造るんだろうけどな……。
現時点では、皆目見当がつかない。
人形師、自分が乗れるサイズの人形とか造れるかな?
ホーネット素材でアリやクモみたいな多脚型のゴーレムや、虫の翅使って羽ばたいて浮かぶドローンみたいなゴーレム造れないかな?
翅を回転させてヘリコプターみたいなのもアリか?
「創るのはちょっと、できそうにありません」
既存のものを動かすのが人形師か。なるほど。
レベルが上がれば、その認識も変わるかもしれないけれど、そこら辺は黙っておく。
プレッシャーをかけたいわけではないから。
市役所避難所に着く。
周辺は様変わりしており、車やがれきを積み上げてバリケードを作っていて、等間隔に太い鉄パイプで組み上げた物見櫓が立っていた。
スライド式のゲートが設置されている1箇所だけはバリケードが薄くなっていて、侵入口を限定することで守りやすくしているように感じた。
「そこで止まってくれ! 避難者か?」
ゲート両脇の物見櫓から、男性の声が響いてくる。
「避難者と、その護衛だ。ここの責任者と話がしたい。可能か?」
「子ども……学生か? 責任者を呼ぶから、少し待っていてくれ!」
こちらでも、物見櫓の上からは降りてこず、無線で連絡を取っているようだった。
「武装してるね」
「物見櫓1箇所につき、2人体制か。堅実だな」
「まだ下手に動かない方がいいよな」
カップル組が素直な感想を言い合っている。
物々しいとはいえ、警戒態勢がしっかりしているのは、安心材料になるだろう。
よくがんばった。元気そうだな。暑くて大変だったろう。魔物に襲われなかったか。
物見櫓の上からではあるが、見張りの男性たちから口々に声がかけられる。
よかったと、本当にそう思っている口調でかけられる言葉は、カップル組の表情を明るいものにしている。
中には、涙ぐむ者もいたくらいだ。
「おっと、世間話はこの辺で。責任者が到着した。ゲートを開けるぞ」
リモコン操作なのだろう。見張りの男性が声をかけると、スライド式のゲートが開いていく。
「要市役所・仮設避難所にようこそ。私はここの責任者の1人、市役所職員の沢村といいます。こっちは、娘の」
「同じく、市役所職員の沢村九九理といいます。よろしくどうぞ」
姿を現したのは、作業服姿の男女で、人の良さそうな白髪交じりの男性と、同じく作業服姿で眼鏡をかけた若い女性だった。




