第17話:16:00、3本目の蘇生薬
16:00
要第一中学校に帰還し、西園姉妹の再会を見守ったあと、全員を集める。
全員といっても50人ほどなので、それほど広い場所は必要ない。1階の適当な場所を会議室に設定して、全員が座れるイスを配置する。
全員が座ったのを確認してからこれからの方針というかおれの考えを伝えていく。
レベルアップの義務は全員果たしたので、今後は外で魔物と戦わなくても少しずつ経験値とポイントを得られること。
おれを中心としたメインメンバーが街を探索し魔物を倒す最中は、サブメンバーが中学校周辺を巡ら警戒して魔物の掃討をする。
メインメンバーは指定するがサブメンバーは志願制にする。チーム数と編成人数は未定。サブメンバーには眷属の護衛を複数配置すること。
戦いたい者には積極的に武器防具を支給し、戦いたくない者は料理や掃除や洗濯、テイムした魔物の世話など、身の回りのことを担当してもらうこと。
必要な設備や道具は必ず申請すること。自分のポイントで購入したものは、私物・私的利用以外はおれが補填するすること。
みんなは家族や友人知人などを連れてくることは禁止するが、おれは連れてくること。
朝昼晩3食しっかり食べて、夜はちゃんと寝ること。
体調が悪いときは遠慮なく伝えること。その際は、医務室で治療を受けること。
朝か夜の食事の際は、できるだけ全員で食べること。これには、全員の無事を確認する意味も含まれていること。
どうしてもポイントが足りないときは、誰かから借りたりせずおれに申請すること。
など、など。
既に話したことも含めて、改めて説明する。
みんな真剣な表情で聞いている。
いったん話し終えてから、メインメンバーを指名していく。
御剣一華さん、双葉さん、三樹の三姉妹、東舞さん、西園美麗さんの高校生組、思井佳奈美、田力瑠衣、相沢蘭、篠原歩の中学生生徒会メンバー、西園美鈴は篠原の補助で。
拒否はされず、むしろやる気に満ちていたようで、心の中でホッとした。
続いてサブメンバーへの志願を募ると、八割がたが勢いよく手を挙げている。
その様子を見て、仕方なしに挙手しようとした女子たちに待ったをかけ、いち早く挙手した女子たちだけを選出する。
ポンコツもとい乙骨優と残りの2割の女子たちは、居残り組。
居残り組は安全かもしれないが、要塞建物内および敷地内の整備点検、清掃、食事の準備にテイムした魔物の世話など、やることはたくさんあるので外回りばかりやってもらっても困る。
要塞化した施設の設備として、各部屋・廊下などにブロック分けされた範囲を清掃する機能なんてのもある。
ただ、これを利用すると毎月の維持費に反映されるので、手作業で掃除したりMPを消費してスキル《洗浄》を使用する方が結果的に得と判断したことも説明して、居残り組の数人にスキル《洗浄》を取得させる。
数人限定でスキルを与えたことで、サブメンバーたちがそわそわしだした。
クラスチェンジできるレベル5になるまでは外出禁止を言い渡したこともあり、戦う意思があっても役に立てないと不安になっているようだった。
とはいえ、30人ほどのサブメンバーが1箇所に固まって巡回するよりは、3〜5チームくらいに分けた方が動きやすいだろうし、チーム分けはできるだけ前衛後衛バランスよく配置したい。それに、チームの仲の良さも連係に響いてくるだろうから、焦りは禁物と言い含める。
他あれこれ言っていると、今度は居残り組がそわそわしだす。
どうやら、全員分の食事を作るために、時間的にそろそろ始めたいようで。
8人ほどの居残り組から乙骨優だけ残して夕食作りを始めてもらう。
サブメンバーたちも手伝うとやる気を出してくれているので、ケガはしないようにと注意して乙骨優を連れ出す。
今はまだ使われていない部屋に、乙骨優と二人きり。
なぜ連れてこられたのかまるで分からないようで、きょとんと首をかしげている。
E-フォンを操作して座布団を2枚床に置く。
座って待てと指示をして、E-フォンを操作して今度は布団を敷く。
ここまでしても、まだきょとんとしている。
二人きりの部屋で布団まで敷いて、それでもこれから何されるかとか想像もできないらしい。
まあ、彼女に対しては何もする気はないが。
E-フォンを操作して、アイテムボックス内のファームで待機していた道着姿の流鏑馬婦警を召喚する。
ここで一つ、選択を迫る。
乙骨優は、本人の気質はどうであれ、学生ではなく社会人で、この拠点内で数少ない大人だ。
ほかの、女子たちと同じように扱うのはちょっと違う気もしている。
その彼女に、小瓶を見せる。
「これがなにか分かるか?」
人の命の値段を示す、一口で飲める量の液薬が入った、小瓶。
「………………蘇生薬」
瓶は小さくても、ラベルにそう書いてあるから分かったようだ。
「それ、いくら? 私が何をしたら、それを先輩に使ってくれるの?」
「…………この人に使って、いいんだな?」
暗に、父親はどうする? と問いかける。
「お父さんはなぁ……。きみが嫌がるかなと思ってさ。男女交際に口は挟まないつもりだと言ってたけど、不純異性交遊は、お説教かも。ここ、きみ以外は女の子しかいないし」
「おれのことは別にして、いいのかと聞いている」
「先輩にお願い。……それでね、もし、お母さんがどこかで生きてたら、その時はお父さんにも使ってほしいな。そうしてくれたら、私本当に何でもするから。戦えないと思うけど、外でバケモノと戦うから」
ふにゃ、と、力なく笑う。
その笑みの、口元が引きつっているのを見て、ああ、本当にこの人は、戦うのとか向いてないし、嫌なんだろうなと感じた。
「探すよ。すぐは無理だけど、避難所とか巡りながら探すから」
「うん。お願いね」
流鏑馬婦警改め弓削奈月さんに、布団に座るよう指示して、蘇生薬を飲ませる。
その効果はやはり抜群で、倒れそうになった弓削さんを抱きとめ、そっと布団に寝かせる。
蘇生薬の使用は3回目だけれど、この瞬間はまだ慣れない。急に倒れるのは、本当に心臓に悪い。
・弓削 奈月: レベル14 タイプ:人・戦士
要市警察署所属の警察官。サイズはG。
乙骨優の先輩で、正義感が強く、弓道と流鏑馬の経験があり、馬の世話もできる。
体が大きいことを気にしていて、視線を集め弓を引くにも邪魔な大きな胸を疎ましく思っている。
ただ、平坂武が胸に視線を向けないよう気をつけているところなどは可愛いと思っている。
好感度はS。(甘えてもいいんだよ)
素質:土・木
適性:騎馬武者、弓騎兵、弓術士、スナイパー、巫女
・乙骨 優 レベル4 タイプ:人
新人ポンコツ警官。サイズはB。
争いごとがなにより苦手な平和主義者。
聞き手として、他者の話に根気強く付き合うことは得意としている。
あだ名はポンコツ。恋愛方面もポンコツで、隠れ場所の闇の中から連れ出して保護してくれた平坂武のことを過剰に意識している。
好感度はA。(好きだよ)
素質:光
適性:料理人、保母さん、うたのお姉さん、僧侶、付与術師
「蘇生薬1本目を使用する条件として、やってもらいたいことがある」
「なんでも言ってちょうだいな。できることとできないことはあるけどね」
弓削さんが無事蘇生できたことを鑑定スキルで確認し、乙骨優に話を切り出す。
……好感度の部分からは意識して目をそらしながら。
「ここにいる女子たちは、ほとんどみんなが未成年で、中学生や高校生の、子どもなんだ。一見あなたよりもしっかりしているように見える女子たちでも、あなたより年下の子どもたちなんだ。男のおれでは気がつけないこともあるだろうし、なによりも、大人の女性というアドバンテージを利用して、弓削さんと一緒に精神的支柱になってもらいたいんだ」
座布団の上であぐらをかいている状態から、正座に座り直して、お願いしますと手をついて頭を下げる。
「ちょ、ちょっとちょっと。頭を上げてよやだなーもー」
「真面目な話なんだ。女性同士だからこそ言いやすい話もあるだろうし、年上だから打ち明けやすい話もあると思う。おれにはできないことを頼むのだから、誠意を見せる必要がある」
あくまで軽いノリで話をしようとする乙骨優に、真剣に、頭を下げ続ける。
「大人として、みんなの心を、守ってほしい。お願いします」
「…………もう、分かった。お願いされました。なんか私、話しやすいらしくてさ。年下の子の話を聞くのはちょっと得意なんだよ。だから、分かったから、頭を上げて? ね?」
乙骨優に再度頼まれ、ゆっくりと頭を上げる。
体も小さく線も細い、頼りなさ気なのほほんとした女性。
それでも、彼女は大人の女性で。
きっと彼女は、自分の役割を果たすだろうと思えた。
「もー、責任感つよいなあ。あの子たちのこと、好きすぎでしょー? かわいいなーもー」
おれより背が低い小さい体で、ちびっ子をハグするように抱きしめて体を揺らす乙骨優。
…………うざ。
顔にも声にも態度にも出さないが、ウザ絡みされて面倒に思った。
……頼む相手間違ったかな?
いや、弓削さんもセットでお願いしたから……。
……二人でって意味、通じてないのか?
・好感度
S:限界突破
A:好き、信頼
B:好意、信用
C:友人、仲間
D:知り合い、嫌な人、興味なし
E:知らない他人、憎い人、無関心




