第16話:15:00、すくいの手
15:00
雪狼たちをテイムしたあと、北区の自宅へと移動する。
北区旧市街地と新市街地を隔てる三途川に架けられた橋を越えるまでに、幾度かの戦闘を行う。
戦闘となれば雪狼たちも出動し活躍してくれた。
ただ、夏場の暑さは堪えるようなので、《水霊の首輪》という暑さ対策ができる首輪を着けた。
・水霊の首輪 5000ポイント
:最大HP+10、物理防御+10、魔法防御+10、火属性半減、環境適応、水上歩行、水中呼吸
防具としてはそれほどでもないが、火属性攻撃を半減、暑さ寒さ湿気乾燥などの悪環境の影響を無効化、水上移動、水中でも呼吸可能という、高性能な首輪だ。
同じ効果の指輪や腕輪もあるが……。
……うん。まだ誰にもあげてない。
自宅に着いたところで、東舞、西園美麗、乙骨優の三人にメールを送り、移動する準備をしてもらう。
待っている間にアイテムボックスからもう1台車を出し、運転できる眷属を召喚して雪狼たちに食事を与える。
成体は生肉でいいだろうけれど、幼体には少し気を使う。
思井佳奈美と相沢蘭の意見で、一手間加えることにする。
幼体には、犬用のカリカリに、人肌くらいに温めたヤギのミルクを注いでふやかし、調理済みのササミをちぎって加える。
成体にも犬用のカリカリを与えるのがいいと言われて、皿にカリカリを入れて生肉を上に盛り付ける。
水も別の皿に用意して、いいぞと言うと一斉に食べ始めた。
果たして、狼は犬用のエサを食べてくれるのか……?
そんな心配をよそに、皿に盛り付けたエサを平らげた雪狼たちは満足げ。
「お待たせ。……あ、会長……」
「……えっと……?」
東さんと西園さんは、生き返った双葉さんの姿を見て、戸惑っている様子。
……そりゃあな。死んでたはずなのにって、本人に言えないだろう。
ただ、無言で、双葉さんや三樹たちを順番に抱きしめていた。
「ごめんねー。お待たせー」
お気楽な声を上げるのは、ポンコツもとい乙骨優。
これで成人済みの社会人というのだから、なんか頭痛がしてくる気分だ。
こいつはそういう性格なんだろう。
9人乗りの車両2台で中学校まで移動する。
その際も、北区では魔物の群れに遭遇することはなく、橋を渡って西区に入ると途端に遭遇する。
流鏑馬婦警とガンマン眷属に任せてもよかったが、考えがあったので遭遇のたびに車を降りて殲滅するを数度繰り返し、要第一中学校に。
「先輩! なんかレベルが上ってるんですけど!? あ、歩お帰り!」
戻るなり、興奮しながらしゃべりかけてくる女子が。
……たしか、篠原と一緒に分厚いハンバーグ食べた女子だっけか。
「誰だっけ? って顔してますね。1年A組篠原歩の自称親友、西園美鈴です! よろしくどーぞ!」
「…………えっと、美鈴ちゃん。自称はなくてもいいよ…………?」
・西園美鈴 レベル3 タイプ:人
市立要第一中学校1年。サイズはA。
明るく元気で騒がしい西園美麗の妹。
足が不自由でおとなしい篠原歩とは、性格は真逆だがなぜか相性が良いと感じている。
篠原歩の歩行サポートをしているうちに、親友を自称するようになった。
好感度はD。(あまり興味ない人)
素質:風・雷
適性:軽戦士、軽業師、忍者
おとなしい篠原と騒がしい西園。真逆なようで、どこか馬が合うんだろうな。
「そうか。レベルが上がったのなら、実験は成功だな」
召喚した魔物でレベル0から1に上がることはできたが、そこからは別の手段が必要になっていた。
スキルに《経験譲渡》や《広域育成》というものがある。
それらの対象に選ぶためには、まずレベル1になる必要があるために、召喚した死霊を倒してレベルが上がるかの実験を行った。
それは成功したので、次はE-フォンを操作して同行したメンバーをチームに登録、チーム内の女子たちに《経験譲渡》を、それ以外の居残り組に《広域育成》でおれが稼いだ経験値の一部を分け与えることでレベルが上がるかの実験。それも成功のようだ。
スキル《広域育成》は、離れていてもチーム内にいなくても味方だと判断すれば勝手に経験値を分け与えるようだ。
そして、最低値は1。
これは、経験値10しか入手できないゴブリンを倒した場合でも、味方全員が最低値の1を入手できるということ。
味方が100人いても1000人いても、そこはまったく関係ない。
これは朗報だった。
というのも、テイマーやネクロマンサーなどのテイムした魔物や召喚した魔物は、入手する経験値が半減し、一部が主人に譲渡される。
経験値半減は、魔物の主人や召喚主であるおれも例外ではなく、そこからさらに《経験譲渡》で自分の取り分を減らしてしまうと、入手経験値は雀の涙を通り越してタダ働きになってしまう。
レベルを上げたい者に経験値を譲渡するのであれば都合が良いスキルではあるが、《広域育成》は自分の取り分を減らすことなく、最大入手経験値を無視して、たくさんの味方に最低値を保証してくれる。
実に有意義な結果だった。
「おねーちゃーん!」
「美鈴!?」
元気娘が泣き笑いながら走っていったと思えば、西園さんの妹だったか。
こんな、地獄みたいな状況での姉妹再会は実に感動的で、みんな微笑みながら涙を浮かべていた。
(……東さん、大丈夫?)
そんな中で、苦笑というか微笑みたいけど笑えないといった苦味を見せる東さんに、そっと問いかける。
(……ごめんなさい。弟が、美鈴ちゃんと同級生で……)
…………救出した中学生組に、男子はいなかった。
…………つまりは、そういうことらしい。
…………吐き気がした。
可愛い後輩たちを救出して、いい気になっていた。
取捨選択から漏れた人のことを、ろくに考えてなかった。
目につくバケモノどもを、殺して殺して殺して、その果てに修羅道へ堕ちるよりも、千手観音になりたかった。
両の手ですくえるのは、ほんの一握り。
かの御仏のように千も手があれば、この街くらいなら、すべてを救えたかもしれないのに。
この胸を斬り裂き抉り焼き焦がすような、激しい後悔を悟らせないように、黙る。
希望的観測も、慰めも、言葉にできなかった。
する資格もなかった。
救えたのに、切り捨てたのは、おれだから。
もっとたくさん、救えたのに。
けれどそうすれば、もっとたくさん見捨てていた。
後輩たちをもっとたくさん救えたかもしれない。
けれどそうすれば、知らない誰かはもっとたくさん死んでいた。
その人たちは、おれが知らないだけで、誰かにとって大切な人たちなのはまちがいなく。
背筋が、心が、冷えていく。
一人でも多く助かり、一人でも多くの再会を目にできたなら、それは喜ばしいことなのに。誇るべきなのに。
救い出した人の顔が曇るのを見て、胸が締め付けられる。
誇れるわけがなかった。
そんな資格もなかった。
救えたのに、切り捨てたのは、おれだから。
「……よかった。みーが、親友が、家族と再会できて、よかった」
弱々しく微笑み、一言一言、かみしめるようにつぶやく東さん。
抱きしめて、手を握って、励ましの言葉をかけてやればいいのだろうけれども。
今のおれに、そんな資格があるとは思えなかった。
微笑みながら、涙をこぼす恩人の、涙を拭ってあげることも、できなかった。
ただ一つ、希望があるとすれば。
アイテムボックスに収納した屍鬼の中に、東という姓の男子がいないという点のみ。
それは、今もどこかで生き延びているという確証にはつながらない。
そんな不確かな情報で、ぬか喜びさせる気にはなれなかった。




