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踊る喋る猫と男の秋旅行計画  作者: みなと劉


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11/12

手紙とゲンとタンゴ

 記者さんへ。

 この前は島まで来てくれて、ありがとうございました。

 ゲンのことを連載に書くかどうか迷っていると、谷口さんから聞きました。

 書くなら間違えないでほしいので、順番に書きます。

 ゲンが死んだのは八月の終わりです。

 前の晩、赤い帽子を被せたら、あいつは目も開けないで、坊主、帽子を海に捨てるんじゃねえぞ、と言いました。

 それが最後です。

 朝になったら縁側で冷たくなっていました。

 九月になって、ぼくは帽子を魚屋の猫に被せてみました。

 引っかかれました。

 ニワトリは逃げました。

 学校の山羊に被せたら、山羊が顔をしかめて、なんでえこりゃ、角が邪魔だ、と言いました。

 ゲンと同じ声でした。

 記者さんには笑い話として話しましたが、本当はあのとき、ぼくはすごく腹が立ちました。

 帽子をひったくって、ゲンの声で喋るなと怒鳴りました。

 それからずっと、帽子は押し入れに入れていました。

 十月に記者さんたちが来て、夕方、ぼくは防波堤でひとりで座っていました。

 そうしたらタンゴが来ました。

 記者さんは谷口さんと宿にいたので、ここからは知らないと思います。

 タンゴはとなりに座って、海を見たまま、押し入れの帽子はどうした、と言いました。

 ぼくは、あんなのゲンじゃないと答えました。

「そうだ。あれは犬ではない」

 タンゴはあっさり言いました。

 ぼくは、なぐさめてくれるのかと思っていたので、びっくりしました。

 それからタンゴは、自分も下の者を二度見送ったと言いました。

 下の者というのは、帽子の下の動物のことだそうです。

「君に訊く。あの犬は、夜どこで寝ていた」

 ぼくの布団の足もとです、と答えました。

「雨の日は」

 玄関です。

 雷が鳴ると押し入れに入ろうとして、ふすまを鼻で開けるのが上手でした。

 ぼくがそう言うと、タンゴは少し黙っていました。

「帽子はそれを知らない。被っていたあいだのことしか知らないのだ。あの犬の一生のほとんどは、帽子の外にあった。それを全部知っているのは、君だけだ」

 ぼくは何も言えませんでした。

 タンゴは立ち上がって、帽子の角度を直しました。

「あの山羊が喋っても、君の犬は減らない」

 そう言って、帰っていきました。

 記者さんがよく書いているとおり、えらそうな猫だと思いました。

 でも、ぼくはその晩、ひさしぶりに泣きました。

 次の日、ぼくが山羊を連れて防波堤に行ったのを見て、記者さんは驚いていましたよね。

 理由はそういうことです。

 山羊は帽子が気に入らないらしくて、ずっと文句を言っていました。

 歌はゲンより下手でした。

 谷口さんの杖と記者さんの足は、去年より少し合っていたと思います。

 これはお世辞ではありません。

 連載に書いてもいいです。

 ただ、ひとつだけ入れてください。

 ゲンの右の耳は、先が少し折れていました。

 帽子の穴に通すとき、いつもぼくが指で伸ばしてやっていました。

 これは帽子も知らないことなので、書いておいてください。

 小寺陽太

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