ブライド領襲撃戦⑩
「ふふ♡ 最高のお土産、受け取ってくれましたぁ??変なことされるのも嫌なんでぇ♡ さっさと殺しちゃいました♡」
ミレアは無邪気な笑みを浮かべながら、首を傾げる。
アンナは何も答えない。涙だけが、静かに頬を伝っていく。
「大精霊アーセラ」
ミレアはゆっくりと一歩踏み出した。
「お前は『力』はあっても『心』が揺れていた。 だからこうなるんですよぉ♡」
その笑みは、どこまでも残酷だった。
「私たちは、ルカ様のためなら『全て』を捨てられます。 命も、誇りも、自分自身も」
「でも、お前は捨てきれなかった。 その『在り方』が勝敗を分けましたねぇ♡」
ミレアは楽しそうに笑う。
しばらく沈黙が続いた。やがてアンナは、涙を拭うこともなく静かに口を開く。
「……そのようですね」
声は驚くほど穏やかだった。そして、ゆっくりと視線をミレアへ向ける。
「ですが――コレットは最後まで、メイドとしての『在り方』を貫けたようです」
ミレアの笑みが僅かに止まる。
「どうやら、あなた達はナザリー様とリズの居場所までは掴めなかったようですね」
「……何故、それを?」
初めてミレアの表情に動揺が走った。
「っ……確かに、あの女は私が記憶を読む前に、自ら命を絶ちましたけどぉ……」
アンナは静かに目を閉じた。
「今の私は……『心』も読める状態になりましたから」
その一言だけだった。
(コレット――あなたは最後まで、本当に優秀なメイドでした)
(私のせいで、死んでしまいましたが)
(だから、私は――)
アンナはゆっくりと立ち上がり、魔力を収束させる。
砕けた地面は重力に逆らうように浮き始めた。
その瞬間、耳元の通信魔道具からラースの冷たい声が響く。
『アーセラ。ゲームオーバーよ。この場を見捨てて、今すぐ精霊神殿へ戻りなさい』
「……ぜっったいに、嫌です」
アンナは俯いたまま答える。
『バカ過ぎて呆れるわね!!』
ラースの声が震える。
『あなたの”主人”はもういない!! メイドとしての”アンナ”は、もう死んだのよ!!』
「……それでも。それでも私は、最後の責務を果たします」
『絶対にダメ!! 強制転移を開始する!!』
ラースが叫ぶと同時に、魔道具が激しく輝いた。眩い光がアンナを包み込む。
「……!」
ミランダとミレアも思わず目を覆った。
だが――次の瞬間。それ以上の『黄金色の光』が、アンナ自身から溢れ出した。
轟ッ――!!
暴風が周囲を吹き飛ばし、地面が音を立てて隆起していく。
転移魔法すら押し返すほどの圧倒的な魔力。
『……まさか!? アーセラ!! やめなさい!!』
ラースの悲鳴が響く。
『その力だけは!! ぜっったいにダメぇぇぇっっ!!!』
アンナは静かに微笑んだ。
「ラース。本当に申し訳ございません。私は――『人』として死ぬことを選びました」
『やめろ!!!』
ラースの絶叫が響き渡る。
「『一生理解し合えるとは思ってない』って言いましたけど。本当は、あなたのこと……結構好きでした」
アンナは涙を浮かべならーー少し照れ臭そうに笑う。
『考え直しなさい!! 大精霊アーセラ!!!』
『お前は!! 全人類にとって!! 必要な存在なのよ!!』
アンナは首を横に振る。
「それでも、私はブライド家のメイドです。最後の『仕事』を果たすことの方が、私には大切なのです」
『バカ!! アホ!! マヌケ!! っっっ――......。本当に、なんなの!? 人間ってそんなに凄い存在なの!?』
ラースの声が涙で掠れる。
ラースの問いに対し、アンナは迷わず頷いた。
「はい。凄い存在です」
優しく、誇らしげに笑う。そして最後に、小さく小さく囁いた。
「だから、ラース……ソック様のこと、頼みましたよ?」
長い沈黙が流れ、ラースは呟く。
『……さよなら。アンナ』
「ありがとう……ございます」
アンナはゆっくりと振り返る。
その黄金に染まった瞳が、ミレアとミランダを真っすぐに射抜く!!
「では、最後の役目です」
その声には、もう迷いはなかった。
「そこにいる外道を、完膚なきまでにブチ殺してきます」
その瞬間、黄金の魔力が天へと噴き上がる。
大精霊アーセラの『本気』が、世界へと解き放たれた。
それは本来、この世界にあってはならない力ーー。
最後までお読みいただき、ありがとうございました。
ブライド領襲撃戦、クライマックス回です。
アンナについての『閑話』を投稿する予定ですが、この話の後に読んでいただけると嬉しいです。
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