表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
62/67

ブライド領襲撃戦⑨

「……!? これ程の魔力に――この私が気づかなかった!?」


 アンナは歯を食いしばる。

 魔力感知には絶対の自信があった。にもかかわらず、この少女が目の前へ現れるまで一切感知できなかった。


「ふふ♡ よくできているでしょう?」


 ミレアは胸元から小さな魔道具を取り出し、くるりと指先で回す。


「ルカ様特製の魔道具です♡ こっちにだって、すごぉい魔道具くらい作れちゃうんですよぉ」


 アンナは目を細める。


「あなたは……!! まさか、『災厄の七席』!」


「御名答♡ 初めましてですねぇ」


 ミレアはスカートの裾を摘み、優雅に一礼する。


「あたしは第一席、ミレア・カートノット♡ ミランダちゃんの助太刀に来ましたぁ♡」


「来るのが遅いぞ……!」


 ミランダが苛立ったように吐き捨てる。


「あれあれぇ?」


 ミレアは肩を震わせて笑った。


「『絶対正義』とかいう薄っぺらぁいもの掲げちゃって、1人で倒すとか豪語してませんでした?♡」


「……貴様!!」


「ま、いがみ合うのは後にしましょ♡ さっさと、そこの大精霊を倒しちゃいましょうか」


 アンナは静かに2人を見据え、睨みつける。


「ふ。何か勘違いしているようですが――」


 アンナの放つ重力が再び空間を支配する。


「私は2人まとめて倒せますよ?」


「そうかもしれませんねぇ♡」


 ミレアが満面の笑みを浮かべる。


「だからぁ――お土産を持ってきちゃいました♡」


 その瞬間だった。

 ミレアの背後に漆黒の空間がゆらりと開き、そこから2人の人影が力なく放り出された。


 ドサッ。


 地面へ転がったその姿を見て、アンナの顔から一気に血の気が引いた。


「旦那様!!! コレット!!」


(まずい――!!)


 引力と重力がぶつかり合う余波が、2人へ一直線に襲いかかる。

 アンナは考えるより先に動き、スキルを2人に向けて展開していた。

 重力の膜が2人を包み込み、衝撃を受け止める。


 だが、その代償はあまりにも大きかった。自らを守っていた重力障壁が、一瞬だけ薄れてしまったのだ。


「「――『そこ』、がら空きですよ?」」


 ミランダとミレアが同時に笑う。


「《ダーク・インパクト》!!」

「《ダーク・ストーム》♡」


 2つの黒い奔流が一直線にアンナへ襲い掛かった。

 重力障壁を容易く突き破り、アンナの身体に激突する。


 ズガァァァァァァァァン!!!


「がはっっっっ!!」


 アンナの身体が弾丸のように吹き飛ぶ。

 地面を何度も跳ね、岩盤を砕きながら数百メートル先まで叩き飛ばされた。


「ぐっ……!!」


 アンナは血を吐きながら身体を起こす。


(もう1人の『災厄の七席』……)


 震える指先を握り締める。


(まさしく最悪のパターンですね……しかも、私でも感知できない程のステルス性能……!!)


 アンナは肩を揺らしながら、ゆっくりと息を整える。


(皆さんには悪いですが……ゴーレムへ回している魔力を、一旦こちらへ――)


 その時だった。


 ――ゴロン。


 乾いた音が響く。何かが地面を転がる音だった。


(……?)


 嫌な予感がする。本能が、魂が、警鐘を鳴らす。


(見るな)


 胸が締め付けられる。


(見るな)


 呼吸が止まる。


(見るな)


 全身が震える。


(見るな。見るな。見るな。見るな。見るな――!!)


 だが、ゆっくりと転がってきた”それ”から、どうしても視線を逸らすことができなかった。

 アンナの瞳は、視界の端に残酷な現実を捉えてしまう。

 無残にも首から下を切り裂かれた――


 アーノルド・ブライドとコレット・アメリヤ。


 2人の頭部だった。


「……あ」


 声にならない。理解したくない。けど、理解してしまった。


「あ……あ、あああああああああああああああっっっ!!!」


 世界が崩れ落ちる。決めていた。私は決めていた。

 旦那様を。アーノルド様を。

 ――最後までお守りすると。


 ブライド家を、みんなを。幸せにすると。

 それが――病によって早すぎる死を迎えたサラ・アメリヤと交わした、小さな誓いだった。


 なのに、私は守れなかった。ラースの言う通りだったのだろうか。

 結局、メイドなんて()()()()()だったのだろうか。


 精霊の使命なんて、忘れてしまえばよかったのだろうか。

 分からない、分からない、分からない。


 アンナの頬を、大粒の涙が止めどなく流れ落ちる。

 こんなに泣いたのは、何百年ぶりだろう。もう思い出せない。

 サラが亡くなった時でさえ、ここまで涙は流れなかった。

 彼女との誓いは、今でもアンナの中で生き続けていたのだから。


 でも――もう何も残っていない。


「はは……」


 乾いた笑みが漏れる。


「ソック様に……顔向けできませんね」


 (ソック様は悲しむ。全部、私のせいだ。私が、中途半端だったから)

 (『人』も『精霊』も。どちらも捨てられなかった。ただの我が儘だった)


 だから。私は最後の覚悟を決めよう。

 『人』になる道を、私は選ぶ。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ