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ブライド領襲撃戦④

 ミランダの号令と同時に、魔術師部隊が一斉に前へ躍り出た。先頭へ並んだ魔術師たちは、間髪入れずに魔法陣を展開する。


《ダーク・ブラッド・ショット》

《エア・インパクト》

《ファイアー・グレード・スピア》


 様々な属性の中級魔法が連続して放たれ、轟音が森全体へ響き渡った。

 漆黒の弾丸が大気を裂き、暴風が木々をなぎ倒し、灼熱の槍が一直線に突き進む。

 進路上にあった木々は次々と吹き飛び、炎に包まれて辺りは一瞬で焼け野原へと変わっていく。

 そして、無数の魔法は、そのままルグニカ結界へと激突した。


 ドォォォォォンッ!!


 耳をつんざく轟音。衝撃で大地が大きく揺れ、舞い上がった土煙が周囲一帯を覆い尽くした。


「見晴らしがよくなりましたね……」


 ミランダは土煙の向こうを見据え、不敵な笑みを浮かべる。


「さて、結果はどうでしょうか――?」


 ◇ ◇ ◇


 同時刻――ルグニカ結界管制塔。

 施設内には、次々と警報音が鳴り響いていた。


《多数の攻撃魔法を感知。一部損傷を確認》

《ルグニカ大森林にて多数の転移魔法陣を確認。敵戦力を解析中》

《自動修復開始》


 浮かび上がった魔方陣には、結界全域の状況が次々と映し出されていく。


「……だ、大丈夫かなぁ? かなり警報が鳴ってるけど……」


 リズが不安そうに画面を見つめる。その横で、シバルは落ち着いた表情のまま答えた。


「『この程度』の攻撃なら問題ありません。今やルグニカ結界は――最強の結界です」


 自信に満ちた声で続ける。


「5つの核による定常運用。状況に応じた切り替え運用。そして10個の予備魔石。さらに、アンナ様の協力のもと、あらゆる属性魔法による攻撃シミュレーションを終えています。死角はありません」


 そして、小さく笑った。


「さあ――敵には味わっていただきましょう。このルグニカ結界の()()()を」


 ◇ ◇ ◇


 やがて土煙がゆっくりと晴れていく。

 その先にあったのは――。


「……無傷?」


 兵士の誰かが思わず声を漏らした。結界には傷一つ見当たらない。

 わずかに生じた亀裂ですら、淡い光とともに瞬く間に修復されていく。


「……中級魔法でも上位クラスの一斉攻撃だったと思うのですが」


 ミランダは静かに呟く。


「中々やりますね」


 その瞬間、ルグニカ結界が淡く輝いた。


 ドドドドドドッ!!


 無数の魔法が結界側から一斉に放たれた。


「なっ……!」


 前衛の魔術師が慌てて叫ぶ。


「《アース・ウォール》!!」


 他の魔術師たちも次々と防御魔法を展開する。


「《ウォーター・シールド》!」

「《ウィンド・バリア》!」


 土壁や水膜が辛うじて攻撃を防ぐ。しかし、防ぎ切れなかった魔法が兵士たちへ次々と直撃した。


「ぐああぁっ!!」

「ぎゃあああっ!!」


 前線の至る所で悲鳴が響き渡る。


「ミ……ミランダ様!!」


 1人の魔術師が顔を青ざめさせながら叫んだ。


「これは……ただの自動防護ではありません!!『属性』を反転させています!!」


「何だと!?」


 ミランダの眉が僅かに動く。

 そして、森の奥から甲高い笛の音が響き渡る。


 ピィィィィィィ――。


 笛の音を皮切りに、大地が震え始めた。


「ミランダ様!!」


 後衛から悲鳴が飛ぶ。


「森の奥から魔獣です!!ストーン・ボア、オーク!!その他多数の魔物を確認!!応戦しておりますが、数が増え続けています!!」


 ――森の深部。

 1人の男が岩陰へ身を潜めながら、1つの笛を吹いていた。

 それは、かつてニルキス国のためにルグニカ結界を襲撃した際にも使用された魔道具。

 しかし今、その笛はブライド領を守るために鳴り響いていた。


「昔はストーン・ボアしか操れなかったが――アンナ様が強化してくれたおかげで、今じゃ複数種類の魔物を操れる」


 男の瞳には怒りが宿っていた。

 殺されたマラース族の同胞たちの仇を討つために、男は力強く笛を吹く。


「借りは返すぜ――ソック・ブライド」


 笛の音がさらに森へ響き渡り、魔獣が押し寄せる。


「前からは結界による反撃……!後ろからは魔獣の群れ!!これは――挟み撃ちですか!」


「ミ、ミランダ様!!」


 混乱する戦場の中、別の兵士が血相を変えて駆け寄ってきた。


「魔獣だけではありません!!『ゴーレム』も確認しました!!」


「何?」


「おそらく土魔法で生成されたものです!!しかも、かなり巨大です!!」


 兵士の報告を聞き、ミランダの表情がさらに険しくなる。


「……っ!!それは土の大精霊が作ったもので間違いありませんね!」


 前方では、木々を押し倒しながら巨大な人型の土塊がゆっくりと姿を現していた。

 その一歩ごとに、大地が大きく揺れる。

 魔獣の群れに加え、大精霊が生み出したゴーレム。


 ミランダは冷静に戦場全体を見渡した。


(どう動けば、この状況を打開できる……?)


 その時だった。耳に装着した小型の魔道具から、聞き慣れた少女の声が響く。


『苦戦しているようじゃない――ミランダ♡』


「ルカ様……!!」


 ミランダはすぐに姿勢を正した。


「お見苦しいところをお見せしてしまい、申し訳ございません。必ずや、この状況を打開してみせます」


『私が作った魔道具は使ったの?』


 ルカは愉快そうに問い掛ける。


『私の魔力と同質化させれば――結界を通れるかどうか、試した?』


「はい。先行隊を送り、裏で試しております。しかし、『認証』に弾かれました」


 ミランダは淡々と報告を続ける。


「指紋だけではありません。網膜、魔力、体格まで照合しているようです。さらに、魔力を偽装・コーティングして侵入する方法も試しましたが……すべて失敗しております」


『同じ手は食わないってわけね』


 ルカは楽しそうに笑う。


『ふふふ……あはははは♡中々愉快で素敵な結界になっているじゃない♡』


「……必ず攻略してみせますので、今しばらくお時間を」


 一拍置いて、ルカは優しく囁いた。


『んーとね、もう使っちゃっていいわよ。あなたの――“スキル”♡』


 ミランダの瞳が僅かに見開かれる。


「……よろしいのですか?」


『ええ』


 ルカは迷いなく答えた。


『敵はいろいろ()()()をしているみたいだけど――思い知らせてあげなさい♡』


『圧倒的な”力”の前では、何もかも無力だってことをね♡』


 ミランダの口元がゆっくりと歪む。


「ふふ……ありがとうございます、ルカ様」


「さすがです。『切り札』は大胆に使うべき――ということですね」


『ええ。敵も味方も関係ないわ』


 ルカは妖しく笑った。


『――まとめて蹂躙しなさい♡』


「かしこまりました」


 ルカとの通信が途切れる。


 その直後――。


 ドクン。ミランダの身体から、凄まじい魔力が噴き上がった。

 空気が震え、大地が軋む。兵士たちは思わず息を呑み、その場で足を止める。


「な……何だ、この魔力は……」


 災厄の七席の第三席、ミランダ・ハートン。

 その真の力が解き放たれ――ブライド領へと牙をむく。

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