表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
56/67

ブライド領襲撃戦③

 ブライド領マルタ村の広場には、多くの領民たちが集まっていた。広場の中央へ立つのは、アーノルドとナザリー。

 アーノルドは拡声魔法を使用し、集まった人々を見渡しながら話し出す。


「皆の者!!」


 その重厚な声は、広場全体へ響き渡る。


「かねてより書状でも通達していた通り――ブライド領は今、最大の危機に瀕している!おそらく明日――大規模な戦いが始まるだろう」


 村人たちは固唾を呑んで耳を傾ける。


「戦いが始まった暁には、兵士でない者は新設した避難所へ避難してほしい。兵士たちは、それぞれ所定の持ち場につき、我らと共にブライド領を守ってもらう」


 広場は静まり返っていた。誰一人として口を開かない。

 アーノルドは王都での状況をいち早く察知し、領民との対話を重ねてきた。各村へ何度も書状を送った。

 だからこそ、この場にいる誰もが理解していた。

 この戦いは、決して避けられない。仮に逃げ延びたとしても、待っているのは安息ではないと。

 彼らはすでに、ブライド家と一蓮托生になる覚悟を決めていた。だが、それでも納得できない者はいた。


「領主様!!」


 1人の男が声を張り上げる。


「信じていいんだよな!? 鉱山を不当に独占してたなんて話は全部嘘なんだよな!? 王都で流れてる噂は全部!!」


「ああ、嘘だ」


 アーノルドは迷いなく答えた。


「では、誰なんです!? そんな嘘を流しているのは!!」


「……分からない」


 一瞬だけ間を置き、続ける。


「ただ1つだけ言えることがある。このような噂を国中へ広められる者など限られている。少なくとも――『最高権力者』が関与していることだけは間違いない」


 広場がざわつく。


「じゃあ……ルカ姫殿下が……?」


「でも、どうして私たちがこんな目に遭わなきゃいけないんだ!!」


 怒号にも似た叫びが飛ぶ。しかし、アーノルドは静かに首を横へ振った。


「その理由は……まだ闇の中だ。私が今ここで語れることは、あくまで推測に過ぎない。憶測で皆を惑わせたくはない」


「だが――王都との交渉に失敗したことは事実だ。責任の一端は、領主である私にある」


 重い沈黙が流れる。


「だからこそ、私は最後までここで戦う。そして、逃げたい者を止めるつもりもない」


「……くそっ!!」


 男は地面を強く蹴り、悔しそうに拳を握った。

 広場には、やり場のない怒りだけが残る。それでもアーノルドは表情を崩さなかった。


「では、これより避難経路と備蓄食糧について説明する」


 そう言って羊皮紙を広げると、避難所の位置や搬送手順、各村ごとの集合場所について、一つ一つ丁寧に説明を始めた。

 誰一人として途中で離れる者はいなかった。全員が、自分たちの運命を受け止めようとしていたのだ。


 ◇ ◇ ◇


 一方その頃――ルグニカ結界管制塔。

 マラース族との打ち合わせを終えたシバルの前には、アンナと2人のメイドが立っていた。

 1人は、鮮やかなオレンジ色の髪を後ろで束ね、黄金色の瞳を持つ少女だった。アメリヤ家の長女、コレット・アメリヤ。

 そしてもう1人は、肩口で揃えたショートヘアに、少し怯えたような表情を浮かべる少女――アメリヤ家の次女、リズ・アメリヤだった。


 シバルは2人へ視線を向ける。


「そのお二人が、アンナ様以外のメイドの方々ですね。実は、お会いするのは初めてなのです」


「まあ、私以外は屋敷の外へ出ることがありませんので。屋敷の中でも、お客様の対応をするのは基本的に私ですから」


 アンナは2人を見ながら続ける。


「ですが、この2人は非常に優秀なメイドです。我が師、サラ・アメリヤが誇る娘たちですから」


「ほら、2人とも挨拶なさい」


 コレットが一歩前へ出た。


「シバル殿初めまして。ブライド家に仕えておりますメイド、コレット・アメリヤと申します」


 綺麗な所作で一礼する。


 続いてリズも前へ出ようとしたが、緊張した様子でコレットのスカートの裾をぎゅっと掴んだ。


「お……お姉ちゃん……じゃなかった」


 慌てて言い直す。


「コレットの妹、リズ・アメリヤです……」


 ぺこりと小さく頭を下げた。


 シバルも微笑み返す。


「初めまして。ルグニカ結界の管理を任されております、シバルです。よろしくお願いいたします」


 アンナは2人へ向き直る。


「コレット、リズ。あなたたちはこれからシバル殿と行動を共にし、ルグニカ結界の前線で領地を守りなさい」


 真剣な眼差しだった。


「あなたたちは、ブライド領でも数少ない魔術師なのですから」


 2人は同時に頷く。


「はい!」

「は、はい……!」


「私はこの後、少し『作業』を終わらせてから、ブライド家の仮設本部へ向かいます。旦那様をお守りしなければなりませんので」


「えぇぇ~~っ!?」


 リズが目を丸くした。


「アンナ様と離れちゃうの!? やだやだやだ!!」


「リズ!」


 ゴツン。コレットの拳骨が頭へ落ちる。


「痛ぁぁい!」


「泣き言を言わないの」


 コレットは呆れたようにため息をついた。シバルは微笑みながらアンナを見る。


「アンナ様。その『作業』というのは?」


「ルグニカ結界の最後の『脆弱性検証』です。闇属性魔法による攻撃パターンFと、光属性魔法による攻撃パターンYに対する検証がまだ終わっていません」


「ソック様は『ぺねとれーしょんてすと』とよんでいました。学園で教わった手法です」


 シバルは首を傾げる。


「なんだかよく分かりませんが……重要なことなのですね」


「はい。非常に重要です」


 アンナは迷いなく頷いた。

 そして、シバルは静かに一礼する。


「……では、ご武運を」


「ありがとうございます」


 アンナも小さく頭を下げ、その場を後にした。

 リズは去っていく背中を、どこか寂しそうな瞳で見つめ続ける。


 そして、それぞれが自らの持ち場へ向かっていった。

 ブライド領全体が、迫り来る戦いへ向けて慌ただしく動き続ける。


 時間は容赦なく過ぎ、夜が明ける――。

 そして、『視察』開始時刻の10分前。


 ルグニカ大森林。ルグニカ結界の近くにある場所で、突如として無数の魔法陣が地面いっぱいに展開された。

 青白い光が幾重にも重なり、森の大地を覆い尽くす。


 ブゥン――。


 空気が震え、膨大な魔力が周囲へと放たれる。

 1つ、また1つと魔法陣が起動し、その中から武装した兵士たちが姿を現した。

 槍兵、剣士、魔術師。

 統率の取れた部隊が次々と転移し、瞬く間に大森林の中を埋め尽くしていく。


 やがて、その数は数千にも及んだ。森にいる魔物たちはいっせいに逃げ始める。

 兵士たちは一切の私語もなく整列し、武器を構える。

 張り詰めた空気の中、誰もが号令一つで動き出せる臨戦態勢を整えていた。


 その軍勢の中央に漆黒の軍服に身を包む1人の少女が静かに立っていた。

 腰まで届く漆黒の長髪、金糸で縁取られた肩章。

 深紅のマントが風になびき、その姿は1人の少女というより、軍を率いる将軍そのものだった。

 ミランダ・ハートン。その瞳には、一切の迷いはない。

 ミランダは、静かに右手を上げる。


「――では」


 兵士たちの空気が一変し、全員が武器を握り直す。


「作戦開始」


 その一言とともに、ブライド領襲撃戦の狼煙が上がった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ