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魔獣混成地帯に潜むもの

しばらくすると、魔法陣の光がおさまり始めた。


「書き終わったか……?」


 俺は下にある紙を見下ろし――安堵する。

 よかった。想定通りに書かれていた。

 報告書には魔物種別ごとの出現数、その平均値や最大値が書き記された表等、複数の要素に基づく『統計情報』が記録されていた。


 そして、メリドは紙の下の方へ目を向ける。


「ソック殿。なにやら横に棒のようなものが描かれていますが……。何かの図形でしょうか?」


「『棒グラフ』というものです。この棒が長ければ長いほど、出現数等が多いことを示しています」


「ぐらふ……、初めて聞きました。なるほど!たしかにこれは見やすい!!」


「縦に書かれているものは……時間か」


 グリムベルが口を挟む。


「はい。1時間ごとの魔物の出現数を示しています。他にも魔物種別、脅威度、損傷ダメージ量ごとのグラフも用意しております」


「魔力量の減りはだいぶ少なくなったな……。補充の頻度は下がりそうだ」


「はい。自動防護で使用する魔力が減りましたから。ただ、少しずつ減っていっているのは変わりません。やはり魔物の数が多い」


 グリムベルは腕を組みながら、紙へ目を落とす。


「夜の魔物出現数がやけに多いな。昼間は数体に対し、夜中は数百体は常に出現している感じだぞ」


「夜行性の魔物が多いってことじゃないっすかね~、グリムベル殿下。私はそんなに不思議に思わないっす」


 レイナも横から覗き込みながら言う。


「まあ、そうかもしれんが……。ソック卿。何か気づいたか?」


 俺は紙に書かれた記録を注意深く見る。そして、ある強烈な違和感を覚えた。


「そうですね……。グリムベル殿下、夜行性の魔物が多いというのを踏まえても、魔物の数が多くなりすぎです」


 俺は棒グラフを指差す。


「17時台は8体に対して18時台は230体。急激に増えすぎです。まるで日が沈むと同時に増えるみたいな」


 会議室が静まり返る中、俺は続けた。


「最大の違和感は――()()()()()()()です」


「どういうことだ?」


「魔物はたとえ同じ種類であっても、個体ごとの体格や能力によって攻撃力にばらつきが出るはずです。ですが、日が沈んでから夜にかけての時間帯の損傷ダメージ量が、驚くほど均一なんです」


 続々と兵士たちが身を乗り出しながら覗き込む。


「しかも脅威度Cランク以下の()()()()()()()()で同じ傾向になっています」


「たしかに……」


 メリドが眉をひそめた。


「昼間は棒の長さがバラバラですが、夜中は似たような長さですな」


「もしかすると、これは――」


 俺は息を飲む。


「自然発生した魔物ではなく、『作られた魔物』……?」


 その瞬間だった。

 会議室の中央に、水面のように揺らめく小さな球体が突然現れる。


「そーなのーーー! ()()()が、悪さしてるのーー!」


「なんだなんだ!?」


 兵士たちが一斉に武器へ手を伸ばした。

 しかし光球はくるりと回転すると、幼い少女の姿へ変わる。

 淡い水色の髪に透き通るような身体。その姿には見覚えがあった。

 学園の庭でエレーナと話していたーー


「みーちゃん!!」


 俺は思わず叫ぶ。


「誰なんだ?」


 グリムベルが怪訝(けげん)そうな表情をした。


「みーちゃん! なんかかわいい~~!」


 フィリアはなぜか目を輝かせている。


「エレーナ姫殿下の契約精霊です」


「ほう。確かにニルキス国の王女には契約精霊がいるという噂が流れていたな」


 俺はみーちゃんへ目を向けた。


「今までどこに行ってたんだ?」


「エレーナのところには行けなかったから精霊神殿に――」


 みーちゃんは慌てて口を押さえた。


「ご……ごめんなのー! 詳しくは言えない! ただ、ソック達がここにいるってラース様から聞いたから、急いできたの! 私もエレーナを助けたい!!」


「それは心強いが……。危険な旅だぞ?」


「それでもなの!!」


 みーちゃんはぶんぶんと首を振る。


「でね、さっきの話なんだけど――『セイレーン』が悪さしているの!!」


「セイレーン?」


 するとメリドが口を挟んだ。


「上半身が女性の姿をしていますが、下半身が魚の姿をした高度な知能を持つ魔物です。そして伝承では、水中の魔力を利用してあらゆる生物の『分身』を作り出すと言われています」


「魔獣混成地帯のミレム湖にセイレーンはいるの!」


 みーちゃんは力強く頷いた。


「そしてその先に――水の大精霊アリア様の住処があるの!!」


 3人目の大精霊――水の大精霊アリア。ずいぶん話が大きくなってきたな。


「なるほど……。損傷ダメージ量が均一なのは『複製体の魔物』が攻撃していたからか」


 点と点が繋がっていく。


「セイレーンは最近、ミレム湖の魔力を大量に使っているの」


 みーちゃんの表情が曇る。


「だから住む魚がどんどん死んじゃって――アリア様は悲しんでおられるみたいなの」


「決まりだな、ソック卿」


 グリムベルが立ち上がった。


「これでこのマリアル結界を脅かす敵がはっきりした。改めて礼を言うよ。見やすい記録の重要性がよく分かった」


「ここまで整理できたのも、今までの記録があったからです」


 俺は静かに答える。


「情報の積み重ねが、さらなる進化を生むと僕は思います」


「ま、話はここまでとして。さっさと倒さないと――問題は解決しませんね」


 グリムベルは剣の柄へ手を添えた。そして、大きく息を吸い込む。


「皆の者!! 明日の早朝、我々は魔獣混成地帯へ向かう!!」


 兵士たちが姿勢を正した。


「向かう者はこの僕、グリムベルと! ソック・ブライド卿、フィリア・ミズル卿、レイナ・フラクトス、そして――みーちゃん!」


 最後にグリムベルはメリドへ視線を向ける。


「メリド公爵は、待機してマリアル結界を死守せよ」


「承知しました」


 グリムベルの力強い声が、再び会議室へ響き渡る。


「当面の目標は――セイレーンの討伐だ!!」

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