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報告書

「ソック卿。僕も現場へ行った方がいいか?」


 グリムベルが尋ねた。


「いえ、グリムベル殿下とメリド公爵殿はここで待機していてください。お二人に何かあったら困りますから。僕とフィリアで向かいますよ」


「え~~!? 私も行くの~!?」


 フィリアが露骨に嫌そうな顔をした。


「当たり前だ。フィリアの転移は本当に重要なんだぞ」


「まあ、そう言われると~~」


 フィリアは少し頬を赤らめながら髪を弄る。

 ……正直言ってちょろい。


 そうして俺たちが図書室を後にしようとした時だった。


 バンッ!!

 図書室の扉が勢いよく開かれる。


「戻ったっすよ~」


 ひょっこりと顔を出したのはレイナだった。

 しかし、その姿を見た瞬間。


「ひゃっ!? レ、レイナちゃん!?」


 フィリアが小さく悲鳴を上げる。

 レイナの頬や服には赤黒い血が飛び散っていた。肩から提げた短刀にもまだ血痕が残っている。


「ああ、これっすか?」


 レイナは自分の頬を指でなぞると、どこか他人事のように笑った。


「第2魔石のストーン・ボア100体を討伐したので。範囲魔法はなんか苦手なんすよね~」


 俺は思わず目を見開く。第2魔石からここまで戻ってきた時間を考えても異常だ。

 しかも範囲魔法なしで100体を素早く処理したということになる。

 さすがは隠密部隊の体調。純粋な戦闘能力なら、騎士団長レベルかもしれない。


「ちょうどいいな、レイナ。各魔石の場所まで案内してやれ。そして、お前も情報収集を手伝え」


 グリムベルが口を開く。


「情報収集は得意っすけど~、どんな情報でしょうか?」


「僕があとで説明しますよ。案内の方、頼みます」


 そして俺は2人へ向き直った。


「では、グリムベル殿下、メリド公爵殿。行ってまいります」


「お気を付けください。ソック殿。このマリアル結界の問題が解決しないと軍事力強化事業を進められません。ラウナホール国にも――」


「言い過ぎだ、メリド公爵殿」


 グリムベルが静かに制した。

 俺はそれを聞き流しながら思う。今や世界中が軍事力強化へ舵を切り始めている。

 その中心にいるのは間違いなくルカ・ラウナホール。あいつは――パンドラの箱を開けたのかもしれない。


 それから俺たちは3日間、情報収集に(いそ)しんだ。

 俺とフィリアは《《フライ》》で上空へ飛び、時には木々の上へ転移して見晴らしの良い場所を確保する。

 そして迫りくる魔物をひたすら観察した。持参した魔物図鑑と照らし合わせながら、魔物名と魔力パターンを書き留めていく。


 レイナは相変わらず魔物を討伐していた。その動きは鮮やかという言葉では足りない。

 気付けば魔物が倒れているーーそんなレベルだった。

 しかも、討伐の合間には小さな手帳へ何やら書き込んでいる。

 情報収集が得意という言葉も伊達ではないらしい。


 一方で兵士たちは忙しなく走り回り、魔石への魔力補充や巡回を続けており、俺たちもたまに手伝った。


 そして、マリアル結界へ到着してから4日目の昼。

 俺たちは再び図書室へ集まっていた。机の上には紙が広げられている。


 開口一番、フィリアがげっそりした顔で机へ突っ伏した。


「ソック。私、ちょー疲れた。パン食べたい。なんかデザート食べたい。というか自由になりたい」


「……まあ、フィリアには頑張ってもらったし、休んでいいよ。報告は僕がするから」


「フィリア嬢、私が案内するっすよ~。もふもふパンとハノンの街に伝わる特製アイスがあるっすよ~」


「ほんと!? 食べる!! スイパラ!!」


 こうしてフィリアとレイナは2人して騒ぎながら図書室を出ていった。

 コホン、とメリドが咳払いをする。


「では早速ですが、ソック殿。情報収集の結果はいかがだったでしょうか?」


「いい結果が取れました」


 俺は紙を手に取った。


「魔物名、魔物種別についての定義情報が作れました。全部で102種類になります。また、魔物の脅威度と損傷ダメージ量についても整理しました」


「脅威度と損傷ダメージ量とは? 今までの記録にはないものですが」


「脅威度はその名の通り、各魔物に対するランクです。A~Eの5段階評価で僕が分類しました。損傷ダメージ量は結界に与えたダメージ量です」


 そして俺は続ける。


「マリアル結界で魔力量が枯渇する最大の原因は、全ての魔物に対して反応していることです。いちいち自動防護魔術も発動している」


「君が作った学園結界を参考に取り入れたんだが……考えが甘かったか」


「恐れながら、その通りです。だからこそ、脅威度の情報を取り入れることで、自動防護で使用する魔力量を脅威度ごとに自動判定させます」


「す……素晴らしいですな。では損傷ダメージ量の方は?」


「今までの記録だと『突進攻撃』といった攻撃方法が記録されていますが、これは特に意味のない情報だと思います」


 俺は肩を(すく)める。


「突進攻撃だから何?って感じなんですよね。なので分かりやすく比較できる損傷ダメージ量を採用したいと考えています」


「君の頭の中は一体どうなっているんだ……」


 グリムベルが呆れたように言った。


「では、記録する名称は時刻、魔物名、損傷ダメージ量、魔力残量になるということか」


「そうですね。ただ、魔力残量は攻撃のたびに記録する必要はありません。1時間に1回の頻度で()()()()させます」


 俺は口元を吊り上げた。


「そして、この情報に脅威度と種別の定義情報を掛け合わせれば――」


 2人が息を呑む。


「素晴らしい報告書を()()()作れるでしょう」


 それからの2日間。俺たちは第1から第5魔石全てへ定義情報を組み込み、新しい記録術式を構築した。

 確認役はフィリアへ任せたが、彼女は終始パンを頬張りながら適当に作業していた。

 エレーナとは大違いだ。......悪い意味で。


 ーーマリアル結界到着から一週間後の夜、俺たちは管制塔の会議室へ集まっていた。

 グリムベル、メリド、レイナ、フィリア。

 そしてドルゲン隊とマリス隊の兵士たち。

 20人ほどの視線が部屋の中央へ集まる。


 誰も言葉を発しない。全員がただ固唾(かたず)を呑んで見守っていた。

 その瞬間を。


 やがて――。

 会議室の中央に描かれた魔法陣が淡く輝き始める。


「きた!!」


 兵士の1人が叫んだ次の瞬間、


 ガガガガガッ!!


 まるで印刷機のような音を立てながら、魔法陣の下へ置かれた紙へ文字が刻まれていく。

 完成したのだ、新たな報告書が。


 そして――その報告書は、魔獣混成地帯に潜むものの正体を浮かび上がらせるものだった。

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