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魔石生成

昨夜の結界騒動から一夜が明けた。

おもむろに俺はベッドで目を覚ます。

時間にして朝10時くらいだろうか。ん?10時!?


「やばい!朝食!!」


前世の頃から朝は苦手だ。夜勤も多かったせいだろう。

寝坊癖はつけたくない。


「やっと起きられましたか。ソック様」


「起こして欲しかったんだけど!」


「旦那様から昨日夜遅くまで頑張ったのだから寝かしてあげてくれと言われていたので」

――優しい目つきでアンナは言った。


この5年でアンナはだいぶ俺に甘くなったと思う。自堕落だった生活から変わったからなのだろうか。


俺は急いで食堂に入った。


「父上!申し訳ございません。寝坊しました......」


「もっと寝ててもよかったのだぞ。昨夜は頑張ったのだから」


「いえ、父上。食べたらすぐ向かいましょう。不安要素は早急に解消すべきです」


前世での嫌な記憶を思い出す。とにかく素早い対処が大事なのだ。


「そうか。わかったが、無理はするなよ。外でシバルが待機してるからすぐに向かえるぞ」


食べ終わったあと、すぐに支度して俺は玄関に向かった。シバルも父も準備は整っているようだ。


「アーノルド、ソック。気をつけてね。光の精霊の加護があらんことを」


母さんが見送りに来てくれた。

俺と父、そしてシバルは馬に乗って、昨晩と同じルートを辿ってルグニカ結界へと向かった。


到着後、結界の様子を再確認する。

核は変わらず光り輝いており、安定稼働をしていることにほっと胸を撫で下ろした。


「シバルさん、『例のもの』は?」


「ご用意してあります。ソック様」


そう言ってシバルは複数の丸太を持ってきた。

実は昨晩の帰り際にシバルに丸太の用意を依頼していた。


俺は目の前の魔石を見上げた。

紫に光る巨大な結晶。

だが、その輝きは不安定だ。術式で保護しているものの魔力の漏れを抑えられているわけではない。

このままでは、いずれ必ず魔力切れを起こす。


(器が弱いから、流した魔力が逃げる)


魔力を流し込むだけでは意味がない。

保持できなければ、発散していき、また補充が必要になる。

俺は視線を落とし、地面に転がっていた丸太に手を置いた。


(この樹脂――粘性のあるこの成分は、本来"流れを止める”性質を持つ。)


森の木材。内部にはまだ水分と樹脂が残っている。


次に、足元の土へと意識を向けて手をかざした。

土属性の魔力を流し込む。


(ただ固めるんじゃない)


必要なのは――選別と再構成だ。


「――《アース・リファイン》」


静かに呟く。


次の瞬間、足元の土がわずかに震えた。

砂粒の中から、不純物が弾かれるように分離していく。

水分、空気、有機物――不要なものが次々と削ぎ落とされ、純度の高い鉱質だけ残った。

それらを圧縮し、結合させる。

掌の上に現れたのは、均質で歪みのない石。


「素晴らしい魔法だ。その歳で中級レベルの土精錬の魔法を使えるとは」


通常、土精錬の魔法は土から『純粋な石』を作り出す魔法だ。しかし、今作成したのはただの石ではない。

魔力の通りを計算して構造を整えた、“流すための石”だ。


そして――樹脂。


丸太の内部から、ゆっくりと樹脂を滲み出させる。

魔力で温度と圧を操作し、粘度を調整する。


とろり、と黄金色の液体が流れ出た。


「ソック様……何を!?」


シバルが叫ぶが答える余裕はない。


(石だけじゃダメだ。流れるだけで、留まらない)


(樹脂だけでもダメだ。閉じ込めるだけで、循環しない)


必要なのは――両方だ。


「流れ」と「保持」。


俺は石の内部に、細かい溝を刻む。

魔力の通路となる構造を形成する。


そこへ、樹脂を流し込んだ。


石の隙間を満たし、内側から固定していく。

まるで血管と肉のように、構造が一体化していく。


(これで……流れは制御できる)


最後に、俺は自分の魔力をゆっくりと流し込んだ。


一気にではない。

循環を確認しながら、少しずつ。

石の中を通り、樹脂に包まれ、また石へ戻る。


――回る。


魔力が、内部で循環を始めた。


(よし……成立した)


「……信じられない」


シバルとアーノルドは目を見張る。


次の瞬間、淡い光が内部から滲み出した。

それは徐々に強くなり――

やがて、はっきりとした紫色の輝きへと変わる。


「……できた」


手の中にあるのは、間違いなく――魔石だった。

手の中で、紫の光が静かに脈動している。


――その瞬間。


空気が、止まった。


「…………」


「…………」


誰も、動かない。


ただ、俺の手の中の魔石だけが、確かな存在感を放っている。


「……ソック様」


最初に口を開いたのは、シバルだった。

声が、かすかに震えている。


「それを……こちらに、見せていただけますか」


「いいですよ」


俺が差し出すと、シバルは両手で慎重に受け取った。


次の瞬間――


「っ……!?」


ビクッ、と大きく身体を震わせる。


「どうした、シバル」


アーノルドが怪訝そうに問う。

だが、シバルはすぐに答えられなかった。

魔石を見つめたまま、言葉を探している。


「……おかしい」


ようやく、絞り出すように呟いた。


「何がだ」


「魔力が……減っていません」


「……は?」


アーノルドの眉が寄る。


「どういう意味だ」


「通常、魔石は魔力を蓄え、使えば減ります。だから定期的な補充が必要になる……ですが――」


シバルは、ゆっくりと顔を上げた。


「これは……内部で循環しています」


「循環……?」


「はい。外部から供給しなくとも、内部で魔力が巡り続けている……減衰が、ほとんどありません」


沈黙。


一拍遅れて、アーノルドの表情が変わる。


「……そんなことが、可能なのか」


「あり得ません」


シバルは即答した。


「魔石は“溜める器”です。“回す仕組み”ではない。それが前提のはず……」


そして、再び魔石に視線を落とす。


「ですがこれは……その前提を、覆しています」


言葉にした瞬間。

その場の空気が、明確に変わった。


「……ソック」


アーノルドが、低く俺の名を呼ぶ。


「お前は……何をした?」


「構造を整えて、漏れを減らして、循環させました」


「……」


アーノルドは言葉を失う。

視線は、完全に俺ではなく“魔石”に向いていた。


領主としてではなく――

“理解しようとする者”の目だ。


「シバル」


「は、はい!」


「この魔石……既存のものと比べて、どの程度だ」


「……少なく見積もっても、維持効率は数倍……いえ、桁が違う可能性があります」


「……桁が、違う?」


「はい。この規模であれば......補充なしで、数年単位の運用も視野に入ります」


その言葉の意味を理解するのに、時間はかからなかった。


「……つまり」


アーノルドが、ゆっくりと呟く。


「夜中に叩き起こされることも、なくなる……ということか」


「……その可能性が高いかと」


シバルが頷く。


そして、二人とも同時に俺を見た。


「……」


「……」


言葉はない。


だが、その視線に含まれているものは明確だった。


「父上」


俺は静かに言った。


「この魔石でも完全に魔力を循環できるわけではありません。少しずつですが、減っていきます。」


「それでも、今までよりは遥かにマシだろう」


「ですが、心許ないので自動で魔力を補充する機能をつけます」


「……何?」


「太陽光で魔力を生成するのです」


「……太陽光?」


アーノルドの声が裏返った。


「はい。魔力が一定以上減れば太陽光から魔力を生成する術式を組み込みます」


再びの沈黙。


そして次の瞬間――


「……はは」


アーノルドが、小さく笑った。

だがその笑いは、どこか乾いている。


「とんでもない息子に育ったもんだ。どうやったらそんな発想になるんだ」


前世で、太陽光発電が普及してたからだが、黙っとこう。


俺は生成した魔石に触れ、太陽光生成の術式を組み込んだ。

それから、同じ魔石をもう1つ生成した。今の魔力だと2つ作ることが精一杯だ。


ーーあとは。


「シバルさん、父上。まだやるべきことがあります。というか、これが一番重要かもしれません。普段から魔石に触るのはお二人だけですか?」


「そうですね、ソック様。これ以上、何をなさるのですか?」


シバルが呆れ顔で聞く。目の前の状況でお腹いっぱいのようだ。


「外部からの攻撃もありますが、恐ろしいのは内部からの攻撃です。ブライド領の人間が悪意を持って魔石を破壊するかもしれません」


「はぁ...、それはたしかにあるかもしれませんが」


「ですので、『認証機能』をつけます」


「ニ......ニンショウ??」


「はい。あー、できたら2段階認証がいいですかね。パスワードは大文字小文字特殊記号必ず含めて14文字以上。魔石認証用アプリでシングルサインオンしてもらうとか。あ、あと指紋認証、声紋認証、網膜認証ーー、それからーー」


「ソック!!お前は何を言ってるか全くわからんぞ!!!」

アーノルドが悲鳴をあげる。


「コホン...失礼いたしました。父上。取り乱しました。とにかく、特定の人しか魔石に触れないようにしたいのです」


「なるほど、そういうことか。で、それはどうやってやるのだ?」


「今すぐできるのは指紋認証です。シバルさんと父上、そして僕の指紋を魔石に登録ーー、いや、覚えさせます」


「......指紋?」


「人の指先にはそれぞれ固有の紋様があるのですよ」


それから俺は魔石に指紋登録用の術式を展開。

父上とシバルに対し、左右の人差し指を3秒ほどで3回ずつ触らせた。

そのあと、俺も同じことをする。


「登録作業は終わりました。では父上、人差し指以外の指で触れてみてください」


「......わかった」


父が中指で触れてみる。

するとバチっとして、父の手が弾かれていた。


「っ……!?触れない!?」


「よかった。成功です。では、父上。今度は人差し指で触れてみてください」


アーノルドが人差し指で触れると魔石がほのかに発光した。


「これで認証完了です。どの指でも触れます。あ、一定時間経過するとまた人差し指の認証から必要になるのでお忘れなく」


アーノルドは魔石をぺたぺた触り、驚く。


「......なんということだ。夢でもみているようだ」


「これで少し安心できますね」


「……そうか」


アーノルドは短く息を吐く。

そして、決断するように言った。


「これは……私の一存では扱えん」


空気が張り詰める。


「この画期的な魔石について、王都に報告する」


俺は結界の外の森に視線を向ける。

木々の奥――確かに、何かが動いている。


(結界が安定しても、あれは消えない)


「父上」


俺は静かに言った。


「王都への報告の前にやるべきことがあります」


「今度はなんだ」


「魔獣退治です」

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― 新着の感想 ―
xから来させて頂きました。 題名「結界魔法を運用して崩壊寸前の国境を立て直す」という着眼点がとても面白く、ただ強い力で無双するのではなく、仕組みを理解し改善していく物語として惹き込まれました。主人公の…
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