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潜入作戦会議

「野宿か……。私は騎士団任務で野営には慣れているが……フィリアは大丈夫なのか?」


「大丈夫だよー。祝勝会でいっぱい食べたし、お昼にお風呂入ったからねー」


 フィリアはへらっと笑いながら答えた。


「ならいいが……。考えてみれば、もう夜も遅い。睡眠は取るべきだ。野宿が妥当だろう」


「……なるほど」


 俺は少し感心したようにセレスティナを見る。


「セレスティナさんでも冷静なところはあるんですね」


「どういう意味だそれは!?」


 即座に睨まれた。まあ、そうでなければ副団長なんて務まらないだろう。


「決まりですね。では、作戦を立てたら睡眠を取って――ニルキス国へ潜入するとしましょう」


 俺はアンナへ視線を向けた。


「アンナ。森の中で野営できる場所を作成したい。魔法でできるか?」


「おやすい御用です」


 アンナは一礼する。


 俺たちは森の中を少しだけ奥へ進んだ。

 魔物の気配はほとんどなく、周囲には静けさが漂っている。


 やがて少し開けた場所へ到着した。


「ソック様。このあたりがいいですかね?」


「そうだな」


「では――《アース・クラフト》」


 アンナが詠唱した瞬間、地面が大きく揺れた。

 土が盛り上がり、削られ、瞬く間に巨大な穴蔵が形成されていく。


「うん、いい感じだ」


「……すごい土魔法の精度と技術だ。お前の専属メイド、ほんとに何者なんだ?」


 セレスティナが若干引いた顔で聞いてくる。


「土の大精霊です」


「…………」


「…………」


 セレスティナとフィリアは口をあんぐり開けた。


「ですよね。辺境伯家にいていい存在じゃないと思います」


「ソック様。中にはベッドを4つ。そして簡易的なテーブルを用意してあります。ベッドは寮にあるものと同じです」


「ありがとう、助かる」


 さて、俺も一仕事しないとな。

 そう言って、俺は手を掲げる。

 淡い光の線が空間へ走り、複数の結界術式が展開された。


「すごいよソック! ミズル結界並みの強度あるんじゃない?」


「範囲が狭いから、その分強度を強くできるんだよ」


 実際は薄く3層構造にしているし、次元結界も仕込んでいるのだが、説明が面倒なので省略しておく。


「ついでに隠ぺい魔法もかけておきます」


 アンナが指を鳴らす。

 周囲の景色がわずかに揺らぎ、穴蔵の存在感がふっと薄れた。


 そのまま俺たち4人は中へ入る。

 内部は思った以上に快適だった。


 全員でテーブルに座ると、俺は土魔法でコップを生成し、水魔法で水を満たした。

 それを全員へ配っていく。


「きれいな水だー!」


 フィリアが嬉しそうに目を輝かせる。


「話し合いするんだし、飲み物は重要でしょ?じゃあ、作戦会議を始めよう」


「ソック。お前は最低限って言ったぞ。さっさと終わらせろ」


 セレスティナがすでに眠そうである。


「できるだけ、です。で、セレスティナさん。まず侵入ですが、こっからルグニカ大森林を越えて、旧パトリック領――今は父上の支配下だからブライド領ですね。そこから侵入しようと思っています。王都は近いですか?」


「まあ、だいぶ近いと思う。旧パトリック領付近は最近のラウナホールの占領政策で多少ピリピリした雰囲気ではあるが」


「どのくらい町を通過する必要がありますかね?」


「ニルキス国の王都は『マチルダ』という町だ。それより前に『ロースベルク』『ソーデリア』という2つの町を通過する必要があるな。町の規模はそこまで広くない」


「なるほど。そしたらざっくりとした計画ではこうなりますかね」


 俺は指を掲げた。空中に淡い光が走り、表のようなものが浮かび上がる。

 空間にメモができるような魔法だ。


「まず、最大目標はエレーナ王女と国王陛下の救出です。処刑までは明日から2週間。なので『バッファ』を持たせて、明日から12日後までに救出とします」


「ばっふぁ?」


「余裕を持たせとくって意味」


「おおー」


 フィリアはよくわかっていない顔で頷いた。


「そして、そのためにリアラさんの救出はさらにその4日前くらいに実施したい」


「どうして?」


「リアラさんの救出で敵の注意を引きつける。エレーナ王女への警戒を少しでも分散させるために、それくらい猶予が欲しいんです」


 そして、俺は空中の表へ項目を追加していく。


『大項目:エレーナ王女、国王陛下の救出』

『中項目:リアラさんの救出』

『小項目①:捕らわれている場所、侵入経路の特定』

『小項目②:活動拠点の確保』


「そして、このリアラさんの救出がクリティカルパスになります」


「ク……クリ……!? 全然わかんない!」


「要するに、ここが遅れると全部の計画が崩れるってことさ」


「あー! それならわかる!」


「救出のためには、捕らわれている場所と周辺の警備体制を把握する必要がある。情報収集のための活動拠点を押さえるのも必要だ。ということでタスクを細分化するとこのようになるな」


 そう言って、俺は空中へ文字列を追加していく。


『ロースベルクとソーデリアでの情報収集:8人日』

『活動拠点の確保:0.5人日』

『リアラさん拘束場所の特定、侵入経路の確定:0.5人日』

『リアラさん救出:2人日』

『エレーナ王女及び国王陛下の拘束場所の特定、侵入経路の確定:0.5人日』

『救出実行:2人日』


 フィリアとセレスティナは、浮かび上がる文字の羅列を見て目を丸くした。


「ねえなに? 8人日って。人が分身でもするの? 0.5人って……え? 体が半分になる?」


「仕事量のことだよフィリア。1人が1日8時間仕事するって考えると、0.5人日は4時間って意味」


「8時間も仕事しないよ?うちにいる兵士だって休憩してるし」


「いや、それはその……。と、とにかくそう考えてる!」


「…………」


 ……そうか、それは盲点だったな。

 前世では8時間労働が当たり前だったが、この世界だと普通じゃないのか。


「何なのだこれは。私は剣でズバっといくものだと思っていたんだが」


 セレスティナは頭を押さえる。


「というか寝ていいか?」


「いいですよ、寝て。あとで紙でも渡します」


「助かる」


 セレスティナは即答した。

 こいつ、本気で寝る気だな。


「……ソック」


 すると今度はフィリアがじとっとした目を向けてくる。


「最低限って言わなかった?」


「最低限だよ」


 俺は即座に返した。


「数字はすっごい適当に設定したし。ほんとはアンナやセレスティナさんは戦闘力が高いから、救出作戦では重みづけを2にして見積もりたいとか、移動速度による工数短縮とか、並列行動時のリスク係数とか、いろいろ――」


「ごめん!」


 フィリアが勢いよく両手を合わせた。


「ほんっとになんか頭痛がしてくるから、このまま進めてこ!?」


「えぇ……」


「私も同感だ」


 いつの間にかベッドへ腰掛けていたセレスティナが真顔で頷く。


「ソック。お前の話は理解しようとすると脳が疲れる」


「そんな感想あります?」


「ありますね」


 アンナまで頷いた。


「大精霊だとしても処理しきれません」


「アンナまでそんなこと言うのか……」


 俺は軽く肩を落とした。

 前世でも散々修正させられた管理表なんだけどな。


「まあいいです。とにかく重要なのは、リアラさんを救出して敵に揺さぶりを与えること」


「つまり、先に暴れて敵を混乱させるんだな?」


 セレスティナが言う。


「まあ、ざっくり言うとそうです」


「それならわかる!」


 途端にセレスティナの理解度が上がった。

 なんか目も輝き始めた。


「取り急ぎ潜入後の動きですね。活動拠点を確保し、情報収集すること。ラウナホール国の動きも気になりますし」


「ああ。場所を特定してさっさと助ける」


 セレスティナが意気込む。

 そして、フィリアがふわぁ……と大きなあくびをした。


「……眠くなってきた」


「フィリアもか」


「ドラゴン退治もあったから……。みんなももう寝よ?」


「私は透明化して消えながら見張っておきますよ」


 アンナの姿がふっと薄れていく。

 その光景を見ながら、俺は浮かんでいた魔法式を消した。


 明日からは潜入だ。失敗すれば、全員まとめて終わる。

 ――処刑まで、残り2週間。

 そうして俺たちは、束の間の睡眠を取るのだった。

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