魔剣大会開幕!
魔剣大会当日、学園は朝から異様な熱気に包まれていた。
年に一度開催される、ミッドライト学園最大規模の実戦競技。
貴族たちも観戦に訪れるため、学園全体が浮き足立っていた。
俺はアンナ、エレーナとともに、告知された集合場所――学園西塔付近の中庭へ向かっていた。
「すごい人ですね……」
隣を歩くエレーナが、少し驚いたように周囲を見回す。
既に多くの生徒たちが行き交っていた。
「今年の優勝候補って誰だ?」
「1年だとグリムベル殿下だろ」
「今年の2年はすごいらしいぞ」
あちこちから興奮混じりの声が飛び交い、普段は静かな学園とは別世界のような騒がしさだった。
時刻は午前9時。
既に大量の生徒が集まっていた。
中庭の先の森を指差してエレーナは言う。
「あの先って、立ち入り禁止区域ですよね?」
「らしいな。僕も入るのは初めてだ」
周囲では1年生たちが落ち着かない様子でざわついている。
一方で2、3年生は経験しているからか比較的落ち着いていた。
「本当に闘技場なんてあるのか?」
「理事長が隠してるみたいよ」
その時だった。
空中に巨大な光魔法陣が展開される。
次の瞬間、上空へ浮かび上がったのはラースだった。
純白のローブを翻しながら、ラースは笑う。
「はいはーい!みんな注目ー!!!」
拡声魔法によって響く軽い声に、生徒たちの視線が一斉に集まった。
「待ちに待った魔剣大会当日よ!今年も怪我しない程度に頑張って!」
相変わらずだな。
「本大会は学年別開催!1年生は今日、2年生は明日、3年生は明後日の最終日!」
ラースは指を立てながら続ける。
「今回の参加人数は1年生16名、2年生と3年生は12名ずつでした!」
そして、ふと思い出したように手を叩いた。
「あ、そうそう。参加者はこれつけてねー」
参加者の手元に銀色のバッジが浮かび上がる。
中心には淡く光る術式が組み込まれていた。
「各人の魔力と紐づけた認証バッジよ!闘技場の結界と連動してるから、関係者以外は出入りできません!出入りする時は必ずバッジをつけてね!」
ラースはそう言いながら、こちらへちらりと視線を向けた。
そして――ウィンク。
(ドヤ顔やめろ)
思わず突っ込むと、ラースは満足そうに笑った。
ラースはさらに続ける。
「それと、この先にある闘技場だけど――実は隠してます!」
にやり、と悪戯っぽく笑う。
直後、空中へ幾重もの光術式が展開された。
「王立学園秘匿術式――解除」
空間へ溶け込んでいた不可視の魔法壁が剥がれ落ち、その奥から巨大円形闘技場が姿を現す。
光の屈折を応用した隠蔽術式。
周囲の景色を映し込み、存在そのものを歪めている。
「うおおおおおっ!?」
1年生たちから歓声が上がった。
白い石壁に幾重にも重なる観客席。
中央には巨大な戦闘舞台。
まるでコロシアムをそのまま切り取ってきたかのような迫力だった。
「中々凝ってるな……」
思わず声が漏れる。
エレーナも目を見開いていた。
「見るのは初めてです。こんな場所が学園に……」
「ふふーん。頑張って維持してるのよ、これ」
ラースが得意げに胸を張る。
そして咳払いすると、再び光魔法を展開した。
空中へ巨大な光の掲示板が浮かび上がる。
「ではでは!本日の対戦表よ!!」
生徒たちが一斉にざわついた。
「あった!」
「グリムベル殿下、反対側ブロックか……!」
俺も掲示板へ視線を向ける。
……エントリー、ちゃんとされてるよな?
少し不安になりながら、自分の名前を探す。
そして――見つけた。
『ソック・ブライド』
その隣に書かれていた名前は――
『デュラン・ベラル』
「まさかの一番最初、初戦からか」
俺が呟くと、ラースが楽しそうに笑う。
「ちなみに優勝賞品の魔道具は表彰式まで秘密です!」
「秘密なのかよ!」
「当然!私の自信作なんだから、最後に盛大にお披露目したいのよ!」
胸を張るラース。
そして、闘技場全体へ拡声魔法が響き渡った。
『では、生徒と先生は入場してください!!』
巨大な門が次々と開いていく。
『参加者は参加控え室へ集合!学園関係者来客枠は10時より入場開始となります!』
生徒たちが一斉に動き始めた。
「いよいよですね……!」
エレーナが少し緊張した顔で呟く。
アンナはそんな俺たちを見て、小さく頭を下げた。
「では、私は一度寮へ戻ります」
「ん?観戦しないのか?」
「残念ながら『従者』にはバッジは渡されません。ただし――」
アンナはそこで口元をわずかに吊り上げた。
「『遠視』の魔法で“無理やり”観戦させていただきます」
「絶対怒られるやつだろ、それ」
「バレなければ問題ありません」
さらっと言い切る。
……妙に慣れてるな。
「応援してます、ソック様」
そう言って背を向けかけたアンナだったが、ふと思い出したように足を止めた。
「あと、こちらを」
差し出されたのは、小さな包みだった。
「お昼ご飯です」
「もう用意してたのか」
「試合の合間に食べてください」
受け取ると、思ったよりずっしり重い。
「……何入ってるんだ?」
「開けてからのお楽しみです」
にこり、と微笑むアンナ。
嫌な予感しかしない。
「……完全に世話焼きだな」
「専属メイドなので」
どこか誇らしげに胸を張る。
そしてアンナは一礼すると、そのまま寮の方へ戻っていった。
午前11時、王立学園闘技場。
観客席は開始前にもかかわらず、既に熱気に包まれていた。
来客席には貴族たちの姿も多い。
「初戦から注目カードだな」
「最近評判のブライド領の立役者か……」
ざわめきが広がる。
観客席上段で、エレーナは両手を握りしめながら舞台を見つめていた。
隣には腕を組んだグリムベル。
さらに理事長席付近。
ラースの近くには、ルカが静かに座っていた。
無表情のまま、じっと闘技場を見つめている。
そして寮の一室。
窓際に腰掛けたアンナが、魔法陣を展開していた。
「『遠視』」
空中へ映し出された闘技場の映像。
アンナは小さく息を吐き――
「頑張ってください、ソック様」
『それでは開幕戦――ソック・ブライド対デュラン・ベラル!!』
実況席から元気な声が響き渡る。
『実況はわたくし、ミッドライト学園2年のリリナ・フォルがお送りしまーっす!!』
ピンクの髪を揺らした女子生徒が、拡声魔法を通して叫ぶ。
『開幕戦から大注目です!結界魔法の使い手ソック・ブライド!対するは火属性魔法を得意とする実力派デュラン・ベラル!!』
歓声が上がる。
俺は舞台中央へ歩き出した。
対面ではデュランが静かに立っている。
以前小競り合いした時のような感情的な雰囲気はない。
むしろ妙に落ち着いていた。
「随分冷静だな」
俺が言うと、デュランは鼻を鳴らす。
「……あれからお前を倒すために色々調べた」
「何を?」
「結界魔法だ」
「ほう」
その瞬間、少しだけ興味が湧いた。
開始の鐘が鳴る。
――同時。
「《ファイアー・スピア》!!」
凄まじい速度で火属性の槍が放たれる。
その瞬間、俺も結界を展開していた。
半透明の障壁が空中へ浮かび上がる。
すると、デュランの魔法槍が軌道を変えた。
まるで吸い寄せられるように、結界内部のある一点へ突き進む。
「結界魔法の弱点は――『1つの核』だ!!」
轟音が響く。
激突した瞬間、結界全体が激しく振動した。
衝撃で土煙が舞い上がり、闘技場が揺れる。
観客席がどよめいた。
『速いーーーっ!!デュラン選手、初動から結界核を狙ったぁぁ!!』
結界そのものではない。
術式維持のための核だけを識別し、破壊するための一点突破型の魔法だった。
明らかに結界魔法を研究している。
やがて土煙が晴れる。
そこには――無傷の俺が立っていた。
「……何だと」
デュランの表情が凍る。
俺は少し感心しながら口を開いた。
「よく調べているな」
そして、周囲へ複数の光点を浮かび上がらせる。
「だが、僕の結界は核1つじゃない」
ざわり、と観客席が揺れた。
「複数核……馬鹿な!?結界魔法の常識が覆るぞ!」
グリムベルが目を細める。
「単に核を複数個用意しているだけじゃない」
「囮……?」
エレーナが息を呑む。
「高度な魔力制御だ。魔力配分を操作して、『核は1つ』であることをあえて強調した。狡猾な奴め」
「くそっ!!」
デュランが歯を食いしばる。
再び魔法を詠唱しようとするが、もう遅かった。
「拘束結界」
デュランの動きが封じられる。
次の瞬間、俺の剣先がデュランの喉元へ突きつけられていた。
静寂、そして――
『しょ、勝負ありぃぃっ!!』
闘技場が歓声に包まれた。
『開幕戦から圧倒的!!ソック・ブライド選手、勝負を決めましたぁぁぁ!』
デュランは悔しそうに顔を歪めながらも、小さく笑った。
「……今度、お前の結界魔法教えろ」
俺は肩をすくめる。
「気が向いたらな」
その返答に、デュランはふっと笑った。
お昼過ぎ、デュラン戦を終えて俺は観客席へ腰を下ろす。
闘技場ではグリムベルの戦いが始まっていた。
「ふぅ……」
思った以上に観客の熱気が凄かった。
そこでふと、アンナから渡された包みを思い出して蓋を開けた。
「…………」
中に入っていたのは、渦巻き状の殻付き料理だった。
どう見ても屋敷で食べてたエスカルゴっぽいもの。
思わず苦笑いが漏れる。
「このタイミングで食べるものじゃないだろこれ……方向性が独特すぎる」
その様子を見ていたエレーナが、くすっと笑った。
「ふふ……アンナさんらしいかもね」
そしてエレーナは少し迷ったあと、小さな包みを差し出してきた。
「よければ、こちらもどうぞ」
中には綺麗に切り分けられたサンドウィッチが入っている。
「朝に作ったの」
「……すごく助かる」
「試合前ですし、軽いほうが食べやすいと思って」
「気遣いが完璧だな……」
俺がそう言うと、エレーナは少し照れたように笑った。
一方、籠の中の殻付き料理は相変わらず強烈な存在感を放っていた。
『グリムベル選手、華麗に勝利!!』
グリムベルも相手を圧倒していた。
決勝進出するだろう――俺はそう確信した。




