勝てない理由
「ああっ、もう!」
最近は何もかも上手く行かない。
現実は言うまでもなく、現実逃避に使っているオンラインゲームも上手く進めずにいる。
何でこうなったのかを考えてもわからない。
一度、自殺しようとする所まで追い詰められている。
そこから立ち上がれないままズルズルと這い回っている。あの時に死ねていたらこんなに何かに迷う事も外の恐怖に怯える事もなかったのかもしれない。
目の前のゲームもチャット機能があったり、双方が許可すれば音声での会話もできる。まだ誰ともした事はないが。最近は同じ人と戦う事が多いがずっと負け続けている。特にゲームが得意とかでもないし、課金して最強のキャラやアイテムを持っているわけでもないけど、プレイ時間に応じて経験値がたまりレベルも上がるゲームだから、一日中プレイしている引きこもりの俺にレベルで勝てる人は少ない。
そのはずなのにことごとく負けている。
このゲームは相手または自分から勝負を挑み、それが了承されたら対戦が成立する。
だから、俺が相手からの申し込みを無視したり拒否すれば良いのになぜかそれもできない。
逃げたら終わり…そんな気持ちになるからかもしれない。あるいは俺にはもう逃げられる場所がないと心の奥から悲鳴が聞こえているのかもしれない。そんな事を考えていると同じ人から再戦の申し込みがきた。
それと同時にチャット機能でメッセージがきた。
『こんにちは。会話しながら対戦しませんか?
あなたが私に勝てない理由を教えてあげますよ?』
俺は机を思いっきり殴った。ドンッと今までで一番大きな音を出したんじゃないかと思うほどの音。
そして手の痛みが襲う。
その痛みも気にならないほどの怒りを感じた。
ここまで言われたら応じてやる!俺は申し込みを受け入れた。その操作をして少し冷静になると人と話すのがかなり久しぶりな事に気づく。
どうしようと考えていると相手の方から
『こちらの要求を受けていただきありがとうございます。負けず嫌いなあなたなら応えてくれると信じてましたよ。』
「あんたに俺の何がわかる?知ったような口をく聞くな!」
「う~ん、色々知ってますよ。就職に失敗し続けて自殺しようとしたけどそれも失敗して今は引きこもりでしょ?あなたが思ってる以上に私はあなたを知ってますよ。』
「な、なん、なんだ?」
「ああ私は引きこもり支援を行ってる引田と申します。
あなたの部屋に行っても会ってすら貰えないと思ったのであなたの逃避先のこのゲームで接触する事にしたんですよ。』
「ふ、ふざけんな、もう切るぞ!」
『ああ、待ってください。あなたが知りたがってたあなたが勝てない理由は聞かなくて良いんですか?』
「勝てない理由………」
俺はそう呟いて画面をみた。話ながらも続いていた戦いは圧倒的に俺が負けている。
「……なんだよ…」
『なんです、聞き取れませんでしたけど?』
「良いから教えろよ!俺は何であんたに勝てないんだよ!?」
『あなたが逃げてるからですよ。
大事な局面であなたは押しきれない。負けるのが嫌いなのに負ける事を恐れて逃げようとするからチャンスの方も逃げていくんです。あなたのキャラがどれだけレベルが高くても実力を発揮させる舞台に立てなければ意味がないんですよ。そしてその舞台を奪ってるのはあなたの親でも友人でも他の誰かでもなくあなた自身なんですよ。あなたが逃げるから勝てない。
私があなたを勝てるようにしてあげますよ。
ゲームだけの話ではなく人生そのものをね。
まぁ、断られても毎日のようにゲームで対戦を求めてイエスというまで絡み続けてあげますよ。』
「……俺は勝てるように……なりますか?」
『あなたがそう望むなら可能性はゼロじゃない。
変われるかはあなた次第ですけどね。』
俺の目には涙が浮かんでいた。俺は逃げていた。
親からも社会からも自分自身からも。
そんな俺を見守るという形で周囲も俺から逃げていたのかもしれない。結局逃げる人間の周りからは人はいなくなっていく。そんな逃げ続ける俺を無理やりでも引っ張ってくれる人を俺は待っていたのかもしれない。
そしてこの対戦はまたしても俺の敗北で幕を閉じた。




