宗教?いいえ教導です
広い部屋でボーッとテレビを眺めている。
仕事もなく共に遊ぶ友人もいない。私は仕事しかしてこなかったと今の状況が嫌でも私に突きつけてくる。
テレビのニュースも見ていて胸くそ悪いものばかり出し、バラエティーと呼ばれるのも面白さがいまいちわからない。ドラマも途中からでは内容が理解できなかったり若者向けすぎて見ていて恥ずかしくなる。
テレビは本当につけているだけになっていた。
そんな暇な私のところに今日は変化があった。
家のチャイムが鳴ったのだ。元妻や子供にもこの場所は教えてないし訪ねてくるような友人もいないから家の場所を誰かに教える事もしていない。通販はしないしご近所さんは回覧板をポストに入れてくれるくらいの付き合いしかないからチャイムを鳴らす事もない。
私はチャイムに応答し、
「どちら様ですか?」と聞いた。
『はじめまして、私は弘道館代表の引田と申します。少しばかりお話を聞いていただきたいのですがいかがでしょうか?』
「宗教か何かの勧誘ですか?それならお断りします。」
『宗教?いいえ教導です。私共は偶像を崇拝するわけでもなく何かを買えば幸せになるなんて事も言いませんしねずみ講のような商品の売買を押し付けるものでもありません。押し付ける事があるとするなら【家で暇してるくらいなら外で活動しろ】くらいの理念ですかね?』
「弘道館って言いましたか?それはなんなんですか?」
『江戸時代の彦根藩であった時の藩校の名前をとったひきこもり支援事業ですよ。
今やひきこもりは子供の問題じゃなく青年も壮年も高齢者も抱える問題ですから。』
「た、確かに私もひきこもりの自覚はありますが、別に誰にも迷惑をかけてないから良いじゃないですか?」
『かけてるじゃないですか、あなた自身に?
自分が何をしたらいいか迷い、何もできない自分に戸惑ってる。あなたがこれから先何年生きるのかは知りませんが、ずっとテレビの前に座り続けるつもりですか?』
「そういう風にいわれるとなんともいえませんが、今日はじめて会ったあなたにとやかく言われる筋合いはありませんよ。」
『その通りです。私はあなたに選択肢を並べる事はできますがあなたが選ばないならどれも意味のないものですから。まぁ、興味が湧いたらご連絡ください。
ポストに名刺とパンフレットを入れておきます。
それでは失礼します。』
久しぶりに人と話した気がする。私は存外人と話す事が好きだったのではないかと思うほど楽しかった。
思えばひとりでテレビを見てるだけでは満たされないのは、会話がなかったからかもしれない。
私は急いでポストに向かって久しぶりに走った。




