同意の誘拐
僕は今日もふとんを被り目を閉じていた。良い夢を見る事はないけど現実の方が辛いから夢の世界へと逃げ続けていた。
ふっと目を覚まして時計を見ようとすると僕の部屋に知らない男の人が座っていた。
「だっ、誰?」
僕が驚いて声をあげると男の人は僕をじっと見て、
「現実から逃げて何かを学んだか?
夢を見るだけで目標は持てたか?」
いきなり訳のわからない話をされて僕はパニックになった。
なんで見ず知らずの人にこんな事を言われないといけない?
僕が答えられないのを見ると男は
「座ってても前には進めないぞ?
寝てても何かに覚醒する事もないぞ?
声を出さなければ誰にも何も伝わらないぞ?
声を出すだけで君がそこにいる事はアピールできる。
君が生きていると伝えられる。
君はそんな簡単な事すらできていない。
このまま閉ざした世界の中で誰にも気づいて貰えずに消えていくつもりか?」
「そ、そんな事を言われても僕もどうして良いのかわからないんだよ!このままじゃいけないけど外に出たらあいつらに何かされるかも知れないから怖くて外にも出れないんだよ!」
「君の言う『何か』とはなんだ?君の言う『あいつら』は君をいじめた事なんて忘れて『普通』に暮らしてるぞ。
なんでそうなったかを考えた事はあるか?」
「わからないよ!あいつらがカスだからだろ!」
「そうだな『あいつら』はカスだよ。人をいじめて楽しそうにするやつなんてゴミだし生きてる価値もない。
でも、『あいつら』は最初からカスだったわけでもゴミだったわけでも生きてる価値もない人間だったわけでもない。
君が『何も』しなかったから彼らはカスになったしゴミになったし生きてる価値もない人間になったんだ。
もちろん、いじめられた側が悪いなんて話をしてるんじゃない。
怯えて抵抗しないでいじめられたままだった事に問題がある。
いじめられた時に相手の顔面にパンチいれてたらどうなった?
椅子でも机でも放り投げてやればどうなった?
君はいじめられた時に何をした?
怯えてされるがままになったんじゃないか?
それが『あいつら』をいじめる人間にしたんだ。」
「そんな事できないよ!できてたら僕はいじめられてないんだから。」
「社会はいつでも表裏一体だ。
『いじめる者』がいるから『いじめられる者』がいる。
『お金持ち』がいるから『貧乏人』がいる。
『正義』があるから『悪』がある。
全ては程度の違いがあるだけで、すべてのモノはどちらかに区別できる。」
「じゃあ、僕に『いじめる者』になれって言いたいんですか?」
「否だ。
コインを投げたら表か裏のどちらかが出る。
表と裏の出る確率は二分の一だ。だが、本当にそうか?
コインには表と裏以外にもうひとつ側面がある。細い面だし円形だからその面でピタッと止まるなんて事はあり得ない。
起こり得るとするなら、それは奇跡か人為的に工夫されたものだろう。普通の人にはできない芸当もマジシャンならタネを仕込み奇跡が起きたように見せることができる。」
「じゃあ、僕は手品の練習をしたらいいの?」
「的を得た質問だな。君は表でも裏でもない『どちらでもない者』にならなければいけない。今の君はその『どちらでもない者』になる奇跡をただ待ってるだけだ。
だから、君は前に進めていない!
そう君は自分で奇跡を起こせるマジシャンになるべきだ。
だからと言って職業としてのマジシャンになる必要はない。
君が成功者になるために必要な知識や技術を身につければ、君は奇跡を起こす事ができるだろう。
ここにいたままでは学べない事を学ばせてあげよう!
私と一緒に来るかい?」
男は僕に手をさしのべてきた。僕は一瞬ためらったが、その手をつかんだ。




