課外活動 工事現場②
「ヤスさんはこのお仕事長いんですか?」
ナカは移動の合間に聞いた。
「あーそうですね。
自分中卒なんで、先代の親方に拾って貰ったんで…」
ヤスはそう言いながら考えて
「…35年くらいですかね。
現場を任せて貰ったりするくらいにはベテランです。
ナカさんはどんなお仕事でした?」
「営業マンですね。
一日中歩き回ったり電話をかけたりの毎日でした。」
「体力使いそうですね。
重い物を持つとかはどうですか?」
「あまり自信はないですが頑張ります。」
「まぁ、きつかったらすぐに言ってください。
狭いとことか高いとこももしかしたら通るんで、無理そうなら先に言ってください。
うちの会社のモットーは『安全に自分のできる事を全力でやれ!』なんで。
自分ができなくても誰かができたら任せて自分のできる事を必死にやれば良いって感じなんですよ。」
ヤスは楽しそうに言った。
「良い職場なんですね。」
ヤスは照れ臭そうに笑った。
「こんな事を聞くの失礼だとは思うんですけど引田さんが連れてきたって事はノブさんも引きこもりなんですか?」
「そう……ですね。」
ノブは年下のリョウに対してどう接すれば良いのかに迷っていた。大学生から『おっさんバイト』と言われた過去が年下に苦手意識を与えていた。
「あっ、自分の方が年下なんでタメ口またはちょっと偉そうくらいで話して貰って良いですか?
うちの会社って結構、年功序列…は言い過ぎですけど役職に関わらず年上の人はリーダーやる感じなんですよ。
現場監督よりさっき居たヤスさんの方が年上なら細かい作業の指示はヤスさんがして全体の管理を現場監督が頑張るなんて事が普通にあるんです。
もちろん現場監督をたてた上でベテランの人達の経験とかを最大限利用していく感じです。」
「そうなんだ。それは何でその感じになったの?」
「聞いた話ですけど、身体が資本の仕事なんで動けなくなると仕事ができなくなる訳じゃないですか。
長年頑張ってきた人が動けなくなったからって切られたりするのは残酷だなって話になったんですよ。
だから動かなくても仕事できる事を作るための仕組みらしいですよ。」
「なるほど。ふう、さっきの質問だけど俺は引きこもりだよ。大学出て就職がうまく行かなくてバイトしてたら色々とあってさ。生きてくのが辛くなって……自殺未遂とかしちゃってさ。そこから引きこもってたんだよ。」
「なんかすみません。軽く聞く事でもなかったですよね。」
リョウは本当に申し訳なさそうに言った。ノブは
「まぁ、気にしなくていいよ。
俺は社会から求められてないんだとか考えて勝手に落ち込んでただけだから。」
「ああ、求められてなくて落ち込む気持ちは何となくわかります。自分、生まれてすぐに施設に捨てられてたんですよ。小学校とかの参観日にじいさんの施設長が毎回来るんですけどそれがめっちゃ嫌で。
お母さんとかお父さんに混ざっておじいさん立ってるのとか嫌だなって思ってました。なんで親は自分の事を捨てたんだろうとかめっちゃ考えてました。
でも、5年生くらいの時にじいさんが死んじゃったんですよ。その年から参観日に誰も来なくなって始めて『誰かが来てくれる』事のありがたさみたいなのを感じました。素行も悪かった自分に最後まで優しくしてくれたのはじいさんだけでした。
施設を出てこの会社で働いたら怖い親父と兄貴がたくさんできました。自分がした悪さの話にそれ以上の話をしてくる人がたくさん居ました。
悪さ自慢とかじゃなくて、お前はまだまだやり直せるとかその程度でひねくれてんじゃねぇみたいな叱咤激励でした。自分が今まともに生きれてるのは親父と兄貴達のおかげなんで早く一人前になれるように頑張ってるんですよ。……って、大丈夫ですか?」
リョウが振り返るとノブは涙を流して泣いていた。
「悪い、この手の話は苦手みたいだ。
今日はよろしく頼むな。」
「なんか…ありがとうございます。
あっ、でも仕事は厳しくいきますから気合い入れてくださいね。」
「おう、何でも言ってこい。」
ノブはいつの間にか年下のリョウと話す事になんの抵抗もなくなっていた。




