課外活動 工事現場③
「親方はどうしてこの仕事を選んだんですか?」
「うん?理由か~、親父がやってたからかな。
子供の頃から机に座って勉強するより外で遊んだり物を作ったりするのが好きで勉強してこなかったからテストは全然点数とれないし、授業は外国語かってくらい何を言ってんのかもわかんなくて荒れちゃったんだよ。
そんで遊び歩いてたら親父が『遊んでるなら一緒に来い!』って現場に連れてこられて一日中親父のあれしろこれしろって指示に従って重い物運んだりきつい作業したりしてた。学校でわからない勉強してるより現場で働いてる方が何倍も楽しかった。
親父からは『やりたいこと見つかったらやれば良いけど何もないならここで働いてろ』って言われたよ。
現場の人は俺と同じように荒れてた人とか刑務所に入ってた事がある人とかもいて、皆が昔話をするんだよ。
『あの時これしなければ』とか『もっとしっかり勉強しとけば良かった』とか言う話がほとんどでさ。
後から知った話だけど親父はそういう他の所で働きにくい人を雇いまくってたらしい。
怖そうな人とかも居たけど親父の前では頭を下げまくってたな。そんで気づいたんだよ、この中で一番怖いのが親父なんだってな。」
「お父さんもやんちゃな人だったんですか?」
「いや、親父は普通のやつだよ。
見た感じは…ナカさんみたいな大人しそうなおっさんだった。」
「怖い見た目のイメージをしてました。」
「まぁ、そうだろうな。
見た目に反して怒ったらめちゃくちゃ怖いタイプだったよ。親父からこの仕事を継いだ時に親父が俺に言ったのは『どんな人間も過去は変えられない。だから人を見る時は未来を一緒に見てやれ』って言われたよ。
ヤスもリョウも育ってきた環境が良いとは言えないけど一生懸命に『いま』を生きてる。
それを側で見てられるだけでこの仕事を選んで良かったと思うんだよ。別にご高説をたれる訳じゃないし俺が人様の生き方にとやかく言えるほど人徳がある人間でもないけど進む道が危なくないかくらい見てやろうと思ってるよ。」
「すごいですね。」
ユキにまっすぐに誉められたのが照れくさかったようで親方は頬を掻いた。
「ユキ君は何で引きこもりに?」
「いじめられて。」
「ああ、よくある理由だな。
ユキ君は大人になるってどういう事だと思う?」
「よく…わからないです。」
「まぁ、そうだろうな。
俺が思うに『大人になる』って言うのは歳をとるとか成人するとかじゃなくて『責任を取る』って事だと思うんだよ。子供のうちは間違って失敗して、正解して成功して学んで行けば良い。
でも、大人になったら自分がした事の責任は自分でとらないといけない。それができてない大人が多すぎるんだよ。歩きタバコがダメだって言われてるのにしたり、法律で禁止されてる危ない行為なのに未だにスマホいじりながら車を運転してる奴がいたりする。
そういう奴らが事故で誰かを死なせてしまったら刑務所に入る。でも、それって本当に責任とれてるのか?
死んだ人がこれから出会ったはずの楽しいこと、悲しいこと、嬉しいこと、悔しいこと全部がなくなるんだぞ?
世界から事故の瞬間にその人がいなくなってしまうんだぞ。何年か刑務所に入っても償いきれないんだよ。
そいつが後悔してようがしていまいが関係なく死んだ人は戻ってこないんだから。
親父は過去は変えられないって言ってた。
その通りだよ。過去が変わらないとするなら取り返しの付かない怪我をしないように気を付けないといけない。
ユキ君をいじめてた奴らが既に取り返しの付かない怪我をしてしまったんだよ。
これからどんな夢を見ても足かせになってしまうような怪我だ。ユキ君が今この瞬間に悔しいと思ってるなら、それをバネにしてそいつ等が悔しくてたまらないくらいの人間に今からなれば良い。
ユキ君にはまだ何も取り返しの付かない怪我はないんだからね。」
親方は優しく微笑みかけてくれた。
『ひきこもり』は悪いことだと思っていた。でも、親方からすれば何でもない事のようだ。
ひきこもりという『怪我』をしたと思い込んでいた僕の中で何かが変わったような気がした。




