第十四話「森の少年(前編)」
お読みいただきありがとうございます!
前回、村での窃盗事件を調査中、
エドガーとリリアは森へ逃げる犯人を目撃しました。
森の調査、謎の少年、そして隠された過去——
複雑に絡み合う伏線、予想外の真実が待っています。
第十四話、どうぞお楽しみください。
翌朝、俺とリリア、そしてバーナード隊長の三人は森へ向かった。
前夜発見した布の切れ端を手がかりに、犯人の居場所を探す。
「この森、かなり広いですね」
リリアが周囲に視線を向ける。
木々が密集し、日光がほとんど届かない。
「古い小屋が、いくつかあるはずです」
バーナード隊長が説明する。
「昔、狩人たちが使っていました。今は廃墟ですが」
「その小屋に、犯人が隠れている可能性があるわけですね」
俺は頷く。
三人で、森の奥へと進んでいく。
*
しばらく歩くと、最初の小屋が見えてきた。
古い木造の建物。屋根は一部崩れている。
「ここですか?」
「ええ。まず、ここを調べましょう」
俺たちは小屋に近づく。
扉は半開きになっている。
中を確認する——
埃だらけ。床には落ち葉が積もっている。
だが——
「エドガー様、ここ」
リリアが床を指差す。
落ち葉の一部が、不自然に掃かれている。
誰かが、最近ここを通った——
「使われていますね」
俺は小屋の中をさらに調べる。
壁際に、古い毛布。
隅には、木の実の殻。
「ここで寝泊まりしていた形跡があります」
バーナード隊長が頷く。
「ですが、今はいないようですね」
「別の小屋にいるのかもしれません」
俺たちは、次の小屋へ向かった。
*
二つ目の小屋。
ここも廃墟だが、扉がしっかり閉まっている。
「誰かいるかもしれません」
俺は扉をノックする。
返事はない。
ゆっくりと扉を開ける——
その瞬間、中から人影が飛び出してきた!
小柄な体。素早い動き——
少年だ!
「待て!」
バーナード隊長が叫ぶ。
だが、少年は走り去る。
俺たちは追いかける——
少年は木々の間を巧みにすり抜けていく。
俺たちは必死に追うが、距離が開いていく。
「速い——!」
リリアが息を切らす。
やがて、少年の姿が木々の向こうに消えた。
俺たちは、立ち止まる。
「逃げられました……」
バーナード隊長が悔しそうに言う。
「ですが、確認できました」
俺は言う。
「犯人は、やはり子供です」
「痩せていて、素早い。前夜に目撃した人物と一致します」
*
俺たちは、二つ目の小屋に戻った。
中を調べる。
ここにも、生活の痕跡。
毛布、食器、そして——
「これは?」
リリアが、棚の上の物を手に取る。
小さな木彫りの人形。
丁寧に作られている。
「手作りですね」
「ええ。誰かが、あの少年のために作った——」
その時、扉が開いた。
俺たちは振り向く——
そこに、老人が立っていた。
白髪、深い皺。だが、目には力がある。
「……何の用だ」
老人が低い声で言う。
「失礼します。私はエドガー・クロウ。こちらはリリア、そしてバーナード隊長です」
「村の窃盗事件を調査しています」
老人は、俺たちを注視する。
しばらく沈黙——
そして、溜息をつく。
「……入れ」
*
小屋の中。
老人は、簡素な椅子に腰を下ろす。
俺たちも、床に座る。
「私はオズワルド」
老人が名乗る。
「元は、村の薬師だった」
「薬師——」
バーナード隊長が驚く。
「オズワルド殿! 五年前に村を出られた——」
「ああ」
オズワルドは頷く。
「もう、村には戻らない」
「なぜですか?」
俺は尋ねる。
オズワルドは、しばらく黙っている。
そして——
「……理由は、話さない」
「分かりました。では、あの少年について教えてください」
「ケイン——あの子の名前だ」
オズワルドが答える。
「十二歳。私が、面倒を見ている」
「なぜ、森に?」
「……村にいられなくなった」
「どういう意味ですか?」
オズワルドは、再び沈黙する。
そして、ゆっくりと話し始めた。
*
「ケインの父親は、五年前に投獄された」
オズワルドの声は、重い。
「窃盗の罪で、決闘裁判にかけられた」
「決闘裁判——」
リリアが息を呑む。
「父親は、剣が苦手だった。負けた」
「そして、投獄された」
オズワルドは、俯く。
「ケインは、当時七歳。母親はすでに亡くなっていた」
「父親が投獄された後、親戚に引き取られた」
「だが、親戚は冷たかった。ケインを虐げた」
「そして——三年前、父親が獄中で病死した」
俺は、黙って聞く。
リリアも、涙ぐんでいる。
「ケインは、村を飛び出した」
「森に逃げ込んだ」
「私が見つけて、保護した」
「それ以来、ここで暮らしている」
オズワルドは、俺たちに視線を向ける。
「ケインは——村を恨んでいる」
「父を奪われ、家を奪われ、全てを失った」
「窃盗は——生きるためだ」
「食べ物、道具——生きるために必要な物を、盗んだ」
俺は、考える。
ケインの境遇——
確かに、同情すべき点はある。
だが——
「オズワルド殿、一つ伺います」
「何だ?」
「ケインの父親——本当に、窃盗をしたのですか?」
オズワルドの顔が、強ばる。
そして——
「……分からない」
「分からない?」
「私には——確証がない」
「ですが、疑問はあります」
オズワルドが、小さく言う。
「あの事件——不自然な点が、多かった」
「不自然な点?」
「証拠の出所。証言の矛盾。そして——」
オズワルドは、そこで口を閉ざす。
「そして?」
「……これ以上は、話せない」
俺は、オズワルドの目を見る。
彼は、何かを隠している。
恐れている——
何を?
*
小屋を出た後、俺たちは森の入口まで戻った。
「エドガー殿、どう思いますか?」
バーナード隊長が尋ねる。
「ケインの境遇は、確かに気の毒です」
「ですが——」
俺は、森の方を振り返る。
「オズワルドは、全てを話していません」
「五年前の事件に、何か秘密がある」
リリアが、ノートに記録している。
『ケイン:12歳、父を投獄で失う』
『父:窃盗の罪、決闘裁判で敗北、獄中で病死』
『オズワルド:元薬師、五年前に村を出る、何かを隠している』
『疑問:父は本当に窃盗犯だったのか?』
「明日、もう一度ケインに会いに行きます」
俺は言う。
「彼から、直接話を聞く必要があります」
「分かりました。私も同行します」
バーナード隊長が頷く。
俺たちは、村へ戻った。
*
その夜、クロウ家で。
俺は書斎で、今日の出来事を整理していた。
ケイン。
十二歳の少年。
父を失い、全てを失った——
だが、それだけでは説明がつかない。
オズワルドの様子。
何かを恐れている——
五年前の事件に、何があったのか?
本当に、ケインの父は窃盗犯だったのか?
それとも——
リリアの父のように、冤罪だったのか?
俺は、ノートに書き込む。
『五年前の事件を調査する必要がある』
『オズワルドが隠している秘密は?』
『ケインの真意は?』
コンコン。
扉がノックされる。
セバスチャンだ。
「若様、夕食の準備ができました」
「ありがとう。すぐに行く」
俺はノートを閉じ、食堂へ向かった。
お読みいただき、ありがとうございました!
森での調査、ケインとの遭遇、オズワルドとの出会い——
ケインは、父を失い、村を追われた少年。
窃盗は、生きるため——
ですが、オズワルドの様子から、
まだ何か大きな秘密がありそうです。
五年前の事件——
ケインの父は、本当に窃盗犯だったのか?
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次回もお楽しみに!




