第96話 ずれていく倫理観
ワタシは行軍を止め、泥だらけのメイド姿のスカーレットとアオから話を聞いた。
ワタシの他、ビゼン、ヨクト、リョーカもいる。
10万の兵を消したという話を聞いてリョーカが外で吐いている。
それがまともな人間の反応かもしれない。
(なぜだろう、こいつらと付き合っていると、普通の感覚がわからなくなる。)
「ひとつ聞いていいかしら?」
ワタシはスカーレットに聞く。
「なんでもどうぞ。」
スカーレットはここのコーヒーが気に入ったのか、泥だらけにされたことへの機嫌もましになっている。
「10万人を殺すときって、どんな気持ちなの?」
「それは聞かないほうがいいと思うよ。人の枠で私たちを考えると、あなたのストレスになる。」
スカーレットはワタシの眼を見てそういった。
(ああ…。アオも、究姫も、こいつと同じなんだろうか。)
ため息が出る。
パン!
ワタシがそんなことを思っていると、アオがスカーレットの頬を叩いた。
すると、
パン!
スカーレットもアオの頬を叩いた。
「これでおあいこね。」
(アオ……)
ワタシがちょっと感動すると、二人は思わぬ行動に出た。
みんなが見ている前で、抱き合ってキスをした。
しかもかなり濃厚なやつを。
美女二人が舌を絡み合わせている光景に、誰からか唾を飲み込む音が聞こえた。
「ごめんね、スカーレット。これで仲直りね。」
「ええ。好きだよ、アオ。」
そういうと、少し頬を赤らめて二人は笑顔で離れた。
「アビ、ごめんね、ちょっとイライラしちゃってね。」
スカーレットが詫びる。
(ああそうか、こいつらは本気で喧嘩したら世界が滅びかねない。だからこれが彼らなりのコミュニケーションなのかもしれない。)
そう思って自分を納得させようとした。
「とりあえず、改めて整理するけど——まず、官軍がコウロを討伐するふりをしてオアシスの近くを通ったから降伏勧告した。しかし彼らは応じず、やむなく全滅させた。そういうこと?」
「まあそうね。」
(全滅させる必要はないと思うんだけど、この人は敵対する人間がいくら死んでもなんとも思わないんだろうし、そこをいってもしかたない。)
「それで、得をしそうな人間——コウロと実際に軍を動かした王都、両方を攻撃したと。」
「そうよ。まあ全滅はさせなかったけど。」
「で、王宮を消し飛ばそうとしたら、アオに吹き飛ばされたと。」
「そういうこと。おかげでこのバイトの衣装もだいなし。弁償してもらわないと。」
衣装に関しては本気で困ったようにいう。
(そういえば究姫も貧乏だったけど、この人も生活力はゼロなのか。)
「わかった。その衣装代はワタシが弁償するよ。アオが汚したのは事実みたいだし。」
「あら、ほんと!?助かるわ!」
「でも、オアシスに噂を流したのって、ほんとにコウロなのかしら。」
ワタシは疑問を口にする。
「普通に考えたらコウロなんだろうけどな。」
ヨクトはこの考えに同意する。
「でも、あいつそんなにリスクのあることやるかなあ。四神を利用なんかしていることがばれたらただじゃすまないでしょ。アオにあんなに震えてたやつが今更スカーレットを利用するかなと。」
「それはそうだな。アオ様に失禁までしていたコウロがスカーレット様を利用するのは疑問だな。」
ビゼンも疑問を口にした。
「まあ、誰でもいいわよ。真犯人がいるならそのツケは倍にさせてもらうから。とりあえず、気分は晴れたし。」
スカーレットはもう興味なさそうにいう。
(もしかしたら、新たな敵が動いているのかもしれない。それもスカーレットを手玉にとるようなやつが。)
ワタシは警戒を強める。
「あと、ひとつスカーレットとアオに聞きたいんだけど……」
「なに?」
「ん?」
二人がこちらを見る。
「あの、さっきの濃厚なキスはなに?」
さっきの理解不明の行動について聞いた。
「私からみれば、こんなくだらないことで同族で殺し合っている人間のほうが、よほど奇妙に見えるけど。確かに私は10万人殺した。でも人間がこの100年ほどの同族殺しの数に比べたら大した数じゃないわ。」
スカーレットは笑みを浮かべながら言う。
「私たちはそんなバカなことはしない。アオは私をぶった。私はアオをぶった。それで終わり。あとは仲直りの儀式よ。あんたもしてみる?」
スカーレットが顔を近づける。
(まけるか、そんなおどしに。)
ワタシは思い切り彼女にキスをした。
スカーレットに抱きつき、体を押しつけ、彼女の舌を味わう。
まわりの仲間たちがどんな顔をしているか気になるが……
ゆっくりと、唇を離す。
「これで、仲直り。ok?」
ワタシはスカーレットに耳元で確認する。
スカーレットは微笑み、ワタシにだけ聞こえるようにささやいた。
「続きはまたあとでね。」
自分の顔が赤くなるのがわかった。
「とりあえず、バイトに戻らないといけないわ。じゃあね!」
そういうと彼女は転移していった。
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