第95話 天災
「しまったあああ!バイトの時間に焦って衣装の端が焦げちゃったじゃないの!」
全てを消し去った荒野でスカーレットは焦げたメイドの服の心配をしていた。
「お前な……いきなりやりやがって。私の知ってるやつがいたらどうする気だったんだよ。」
クロが文句をいう。
「一応、全部解析したけど、私の知ってる人はいなかったわよ。」
スカーレットは全てが消えた地平線を見ながらいう。
全てを消し去ったあと、残存エネルギーすらも異空間にとばしてしまったので、文字通り荒野となった。
草も木も全てが消え去った。
「でも、これで終わりじゃないわよ。」
スカーレットとクロは荒野に降り立った。
「どういうことだ?」
クロがスカーレットに聞く。
「私にこれをさせたやつに落とし前をつけてもらわないと。」
「誰だそれは?」
「知らないけど、たぶん一番得をするやつよ。」
「とすると、コウロとかいうやつか。」
「たぶんね。ただ、喧嘩両成敗にさせてもらうわ。原因はどうでもいいわ。まとめて燃やすから。 」
スカーレットはそういうと、再び空中高く舞い上がり、コウロの領地に向かって飛び去った。
「じゃあ、私は帰るか。」
クロもそういうと、再びオアシスに向かって飛翔した。
◇
コウロの屋敷の上空につくと、スカーレットは全身を炎で包み、その炎を火の鳥の姿へと変えていった。
翼を広げるたびに、空気が燃えた。
コウロは屋敷の窓から空を見上げた。
火の鳥がいた。
太陽のように輝き、その翼が一振りするごとに炎の球が降り注いだ。
「な、なんだあれは!?」
「逃げろ!」
兵士たちが逃げ惑う。
しかし、炎は逃げる者も、留まる者も、等しく焼いた。
何重にも張られていた魔法の結界が、まるで紙のように燃え尽きた。
一瞬だった。
「魔術師部隊、反撃——」
隊長の声が途切れた。
炎の球が、その場所ごと消し飛ばしたからだ。
(なんだ、なんだあれは!?なんなのだ!?)
コウロは動けなかった。
足が震えていた。
逃げなければならない。
しかし、体が言うことを聞かなかった。
これは戦いではない。
天災だ。
嵐でも、洪水でも、地震でもない。
ただ、燃やす意志を持った天災が、そこにいた。
すぐに理解した。
あれが噂に聞く朱雀竜だ、と。
(オアシスでの何らかの悪事が朱雀竜の怒りを買ったに違いない。)
そう思うしかなかった。
神の前では人間が神の意思を察して、祈り、捧げるしかないのだ。
たとえそれが的はずれなものだとしても。
しかしこれも、スカーレットにとっては警告程度のものだった。
その気になれば、コウロなど領地ごと消してしまえるのだ。
(このくらいにしといてやるか。)
(じゃあ、次は喧嘩両成敗ということで。)
コウロが「もうだめだ!」と観念したその瞬間、スカーレットはすでに王都の上空にいた。
◇
アビの陣営——
「あ、やばい。」
行軍中にアビの馬の後ろに乗るアオが急につぶやいた。
「何がやばいの?」
「キョウが殺される。」
「は?!」
アビが質問するより早く、アオはスカーレットを止めるため空間を転移した。
◇
王宮上空に火の鳥が現れるのを、王都の人間はみな目撃した。
スカーレットは瞬時に王宮の人間を解析する。
(もっとも魔力が高いもの——そいつが怪しい。)
(怪しきは罰する。)
そのとき王宮にいたのはチュウエイ、それに妲姫だった。
(なぜ王宮に悪魔がいるのか。まあいい。)
スカーレットからみれば妲姫もただの人間も大した違いはなかった。
念のためこいつらは殺しておこう。
その程度の気持ちで魔力を溜める。
王宮もろとも吹き飛ばすつもりだった。
「殿下、あぶない!」
キョウの私室にいた妲姫はスカーレットの存在に気づき、とっさにキョウを抱きしめた。
防げないのはわかっていた。
それでも、とっさにそうした。
轟音がした。
しかし、無事だった。
「妲姫……一体何が?」
キョウはわけがわからず、妲姫の顔を見る。
そして、窓の外の風景が視界に入ってきた。
いつも見慣れた山が、大きく消し飛んでいた。
城の一角も崩れていた。
その崩れた一角から、メイド姿の女性がゆっくりと立ち上がり、上空へと浮かんでいく。
「なんなのあれ?」
「朱雀竜様だ。」
キョウの問いに妲姫が答える。
「え?あれが!?でもなんで朱雀竜様が城を?」
「わからん。」
妲姫もそういうしかなかった。
その朱雀竜の前に、どこからともなくもう一人の人影が現れた。
アオだった。
二人は短く何かを言い合い——次の瞬間、二人とも上空から消えていた。
「なんだったの?今の?」
「さあ?」
妲姫とキョウは二人が消えた空をしばらく見上げていた。
王都の民も、崩れた城壁も、消し飛んだ山も、全てがそこにあった。
しかし、何が起きたのかを正確に理解できた者は、この場には一人もいなかった。
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