表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
冒険者ギルドで死亡扱いされた私が、神と邪神に愛され最強で最高のダークヒロインになる。  作者: 黒木菫
幻教操国編

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

89/102

第89話 管理職の憂鬱

「どうも、私が監察官のティーユです。よろしくお願いしますよ。」


「こちらこそ。」


私たち傭兵団に1人の役人が監察官として同行することになった。


いわゆるお目付け役ということらしい。


義勇団や傭兵団が野盗化しないようにとの制度らしい。


チュウエイのやつは自分でやってた気がするし、いい制度だと思う。


しかし‥‥‥


「アビ殿、あなたは殿下のお気に入りだと聞いていますが、容赦はしませんぞ!」


そんなことをいいながら、陣中をうろうろしては兵たちの仕事にいろいろ口出しをしている。


「おはよう!」


仕事に集中している兵に急に声をかけ…


「そこの君、挨拶はどうした!」


「え、ええ、おはようございます。」


仕事の手をとめてしぶしぶ返事をかえす仲間。


「ここの兵は挨拶もできないのか…全く。」


こんなことをやって現場の仕事の手をとめてくれる。


監察官を相手するなかで、うちの傭兵団の弱点がわかった。


役所の文化を知っている人間がいないので、こういうお役人への対応の仕方がわからないのだ。


(これはワタシの課題でもあるわね。)


人の上に立つというのは、外側の敵だけを相手にすればいいわけじゃない。


こういう「味方のふりをした面倒な存在」をどうあしらうかも、仕事のうちなのだと最近つくづく思う。


私たちが反乱軍討伐にいくということで、また兵が50人ほどに増えていた。


母体となっているのはヨクトとリョーカの革命軍のメンバー、そこに義勇兵が加わった。


その全員が民兵で、役所の文化には疎かった。


あの監察官をどう接待したものかと頭を悩ませながら、ビゼンとヨクトの模擬戦を眺めていた。


2人はスキルなし、模擬戦用の武器だけで戦っている。


その二人の攻防に兵たちがかたずをのんで見ている。


凄まじい攻防だが、徐々にヨクトの一撃をビゼンがさばき切れなくなってきた。


単純な肉体の強さではヨクトに分があるらしい。


ヨクトが渾身の一撃でビゼンの剣を薙ぎ払う。


ガキ!


ヨクトの一撃がビゼンの剣を飛ばした。


「まいった!」


ビゼンが負けを認める。


その瞬間に歓声があがる!


「ヨクト、腕をあげたな。」


ビゼンがヨクトに握手を求める。


「いや、武器だけでこれなら、実戦では姉貴には勝てねえよ。」


そんなことをいいながら、握手をうけるヨクト。


「よっしゃあああ!かったあああ!」


「まけたかああ!」


その横で兵たちも喜んだり、悔しがったりしている。


「この勝負!ヨクト兄貴の勝利いい!」


ソウが胴元をしてどっちが勝つかみんなで賭けていたらしい。


そこへ‥‥


「アビ殿!いいのですか!こんな訓練を賭け事にして!ここの規律はどうなっているのですか!」


監察官のティーユがこごとをいいにやってきた。


「まあ、みんな楽しんでいるんだし……」


ワタシは言葉に詰まるが……


「そもそもここは軍規すらろくにないじゃないですか!」


まあそれはそうだ。


実際のところ、ここにはルールらしいルールがない。


どうしたものかと悩んでいるとリョーカがやってきてワタシに耳打ちする。


「この人、ひょっとして賄賂をねだってるのでは?」と。


(ああ、なるほど。そういうことか。)


これが「役所の文化」というやつか。


正論をふりかざしながら、実際には金を求めている。


腐敗しているのか、それともこれがこの国の当たり前なのか。


「いえ、ティーユ殿、あなたのおっしゃることはごもっとも。これからもいろいろ教えてください。」


そういって、ワタシは銀貨のつまった袋を握らせる。


すると‥‥


「う、まあ、アビ殿もいろいろ大変でしょう。なにかあればいつでもご相談ください!」


そういうとティーユは背中をむけて去っていった。


(こういうのは、このひとだけじゃないんだろうな。)


釈然としないまま、その背中を見送る。


ビゼンたちの笑い声が聞こえてくる。


ワタシは小さくため息をついてから、その輪の中に戻った。






◇ 王都、宰相室--


「およびですか、閣下。」


チュウエイに呼ばれてリジュエルが宰相室に入ってくる。


「うむ。文武官より陳情が入っていてな。各大臣の部屋に霊教の紋章を配置するのはどうなのか、という声がある。」


チュウエイとリジュエルは、自分たちに従う者として霊教の信徒たちを組織の各所に配置していた。


しかしチュウエイにとって霊教とは、あくまで道具に過ぎない。


大司教の名のもとに動く人間が欲しいだけであり、この国を霊教で染め上げるつもりなど毛頭なかった。


組織というのは、旗印が必要だ。


人は「何か正しいことのために動きたい生き物」だからだ。


その欲求を利用しているに過ぎない。


「どう、とは。」


リジュエルが首を傾げる。


「公私混同ではないかということだ。」


「なにをおっしゃいます。部屋に霊教の紋章を置いてはならないというルールなどないでしょう。むしろ、すばらしいことだと思いますが。」


(そういう話をしているのではない。)


政治というのは摩擦の管理だ。


正論が正しくても、摩擦を生めば損をする。


それが理解できない人間は、どれだけ忠実でも扱いに困る。


「だが、私としてもそんなことで余計な摩擦を起こしたくはない。」


「ならば、そのような輩は粛清するか、左遷すればいいでしょう。」


リジュエルは当然のように言う。


(チ、狂信者が。)


粛清。


簡単に言ってくれる。


陳情を上げてきた文武官たちは、腐敗した旧体制の残滓ではあるが、同時に宮廷を実際に動かしている実務の担い手でもある。


そこを無闇に削れば、自分が動かしたい組織そのものが機能不全に陥る。


権力を握ることと、権力を使いこなすことは別の話だ。


独裁者ではあっても組織は必要なのだ。


傭兵上がりのチュウエイには自分の配下がろくにいなかった。


だからこそ霊教に近づいたわけだが、その結果、あらたな悩みが生まれていた。


(かといって、今リジュエルやその背後の霊教国と関係を悪化させるわけにもいかん。)


「……わかった。この件はいい。」


チュウエイは話を切り上げる。


使えない駒の相手に時間を使いすぎるのも下策だ。


「サイヨという人物を招きたいと思っている。まずこの人物について調査してもらいたい。」


そう言ってチュウエイは書類の束をリジュエルに手渡す。


「この人間は宦官と争い、辺境に飛ばされた。しかし今もなお高い人望があるようだ。宮廷の実務は彼に任せようと思う。」


リジュエルの顔が曇る。


「そのような古い人間など必要ないでしょう。なんでしたら、霊教国から優秀な人材を派遣しましょう。」


(お前たち狂信者を増やしてどうする。)


しかしそれを口にすれば、リジュエルを――ひいては霊教国を――刺激する。


チュウエイは一拍置いてから、心にもないことを口にした。


「いや、そうではない。サイヨのような人望ある人間に霊教のすばらしさを説いて広めてもらうことこそ、大事ではないか。外から人を入れるより、中から変えていく方が根が張る。」


「おお、確かに!さすがチュウエイ様。早速手配いたします。」


リジュエルは満足した顔で部屋を出ていった。


一人になった宰相室で、チュウエイは静かに息を吐く。


(使える駒が少ない。)


反乱軍を制圧し、獣剣・蒼月を手に入れ、霊教大司教の座も得た。


傍から見れば盤石に見えるだろう。


だが内側から見れば、使える人間が足りない。忠実だが無能な者、有能だが忠実でない者、そして狂信者。


どの時代の覇者も、同じ悩みを抱えてきたのだろう。


(人材とは、かくも得難いものか。)


チュウエイは机の上の書類に視線を落とした。



ここまで読んでいただき、ありがとうございます!


続きが気になった方は、

ぜひ応援クリック、ブックマークをお願いします!

SNSで拡散お願いします

やる気がでます

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ