第88話 出陣前
アビ傭兵団の陣――
究姫がチュウエイに殺された。
その話を聞いて、はじめは信じられなかった。
珍しく凍子だけがやってきて、その事実をワタシに伝えた。ビゼンもヨクトも、信じられないという顔をしている。
「あんたに、仇を討ってほしいと言っていたよ。」
凍子は悔しさをにじませる。
「究姫……」
ろくでもない出会い方をした。でも、ワタシを救ってくれたのはあいつだった。憎めないところもあった。友達になるといったら、本当に嬉しそうに笑っていた。
そう思うと、怒りがこみ上げてきた。
(チュウエイ。やはり、あいつとは決着をつけないといけないようね。)
ワタシは拳を握りしめる。
気がついたら、ワタシは泣いていた。
「はいはい。凍子、もう十分でしょ。」
アオが呆れたようにいう。
「どういうこと?」
わけがわからなくて聞く。
「究姫がそんな人間に殺されるわけがない。どうせ、死んだふりをしてろくでもないことを企んでいるんだよ。」
「……死んだよ。あれは、消え方が違った。こんなの冗談でいえないよ。」
アオの発言に凍子が怒る。
「はいはい。怒ったフリ。そんなのを冗談でいえるのがあんたたちだよ。究姫、どうせ見てるんでしょ。出てきなよ。」
アオはあたりに向かって声をかける。
しかし、返事はない。
「いい加減にしなよ、アオ。それより究姫の仇を討ってやってよ!」
凍子は真剣な眼差しでワタシを見る。
これが演技なら、アカデミー賞ものだ。
「だいたい、仇を討てとかいうなら、お前がやればいいじゃないか。お前の力なら簡単だろう。」
アオはあくまで凍子を信じず、突き放す。
その態度にワタシもむっとくるが、感情論でいってもしかたない。
「ところで、チュウエイはなんのために究姫を襲ったのよ。あいつらは味方でしょう。」
ワタシは気持ちを押し殺して二人の間に入る。
「それはわからないけど……痴話喧嘩、とか?」
凍子はさっきの迫力はどこへやら、急にレベルの低い話になった。
「まあ、どうせ誰かにたぶらかされて、神殺しでもしようとしているんじゃないかな。それで、一番心を許していそうな究姫を狙った。そんなところだと思うよ。」
アオは凍子の話を全く信じていないように言う。
しかし、今回の凍子は信じたい。
もし究姫が生きていて、この話を聞いているなんてことになったら、ワタシはあいつを許せないかもしれない。
いや、待てよ。
念のため、実際に口に出してみることにした。
「もし究姫が生きていて、この話を聞いているなら……ワタシはあいつを許せないかもしれない。」
静かに、しかしはっきりと言った。
しかし、返事はない。
「ほら、究姫が生きていたら出てくるに決まってるよ。見たんだよ。消えるところまで、ちゃんと」
凍子がいう。
「お前が嘘をついているということで全部通るよ 」
アオはあくまで凍子を突き放す。
「嘘じゃない…」
凍子の声は震えていた。
「ここにいないだけの可能性もあるし、むちゃくちゃ迷っているだけかもしれないよ。ほら、謝るなら今のうちだよ。」
あくまでアオは信じず、いない究姫に話しかける
ワタシは今回ばかりは凍子を信じたい。
これが演技にはとてもみえない。
「でも、ひょっとしたら……あいつはアオ、あんたを狙っているのかもしれない。気をつけてね。」
ワタシはアオに声をかける。
「あら、私を心配してくれるなんて嬉しい。いえ、アビ、あなたは最初からそうだったね。」
アオはそういって嬉しそうに微笑んだ。
でも、今回はまじに心配しているんだ。
そして——
官軍より、頭の痛い命令が下った。
◇
「傭兵団に告ぐ。ショウ・エン、アマン・キスリィ他、反乱分子が宰相チュウエイが売国を試みているなどと称して反乱を起こした。官軍は討伐軍を派遣するので、これに従軍すべし、か。」
究姫の件はそれはそれとして、ワタシは傭兵団の幹部たちを呼んだ。ビゼン、ヨクト、リョーカほか。
「このタイミングでチュウエイを守るために戦うというのはちょっとね。しかし、アマンやショウの方につくと、ワタシたちは反乱軍になりかねない。そうなるとキョウの敵になる。それも避けたい。」
「では、この依頼、断りますか?」
リョーカが質問する。
「断るってことは反乱しますといっているようなもんだからね。一応は応じるよ。ただし、独自の動きをさせてもらうってことでね。お目付けの役人くらいは来るでしょうけどね。」
「わかった。アビがそういうならオレに異論はねえよ。」
ヨクトが答える。ビゼンも静かに頷いた。
「それじゃあ、出発のスケジュールについて話し合いましょう。」
また戦争か。
しばらくキョウにも会えなくなるな。
ワタシはこのあと、キョウに挨拶に行くことにした。
◇
王女の私室――
「なに?あの究姫がチュウエイに殺された?」
その話をキョウにしたら、案の定驚いていた。
「アオは全く信じてないけどね。妲姫、あんたはどう思う?あんたは究姫の眷属なんでしょ?影響はない?」
ワタシは妲姫にも意見を求めた。
「私もにわかに信じられない。しかし、それなら凍子様が嘘を言っていることになるが。」
妲姫も腕を組んで考え込む。
「そういえば、アビ、こういうことがあった……」
キョウから王宮で悪魔召喚が行われたこと、しかし何者かによってすぐに滅ぼされたことを聞いた。
「おそらくチュウエイね。究姫を殺す前の実験にしたんでしょうね。」
「そうとしか考えられないな。」
「そういうわけで、しばらく戦いに出るから会えなくなるよ。」
ワタシはキョウに伝えた。
「そうか。とにかく気をつけてね。」
キョウはワタシの手を取った。
「…‥帰ってきてね。 」
キョウはそういうとワタシに近づき、腰に手をやる。
このまま彼女と過ごしたい気持ちが湧き上がってくる。しかし、戦争の準備をしている仲間たちの顔が浮かんだ。
ワタシは思いとどまり、彼女をそっと抱きしめて、耳元で伝えた。
「いってくるわ。キョウ。」
「気をつけてね。アビ。」
それだけいうと、ワタシは振り返らずに彼女の部屋を出た。
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