第84話 神罰
チュウエイ暗殺に失敗したアマンは仲間のカギとともに故郷を目指して荷馬車を走らせ、とある集落にたどりついた。
「この集落には私の親友のロハクというものがいる。そこで一旦世話になる。」
アマンは馬の手綱をとり、横に座るカギに話しかける。カギは冒険者風の衣服に着替えている。アマンはマスクを被り、顔を隠していた。
「その方は信用できるのですか。」
「ああ、家族ぐるみで付き合いのある男だ。間違いない。」
アマンがロハクの屋敷の近くまで近づいたとき、異変を感じた。
「これはどういうことだ?」
ロハクの屋敷は全焼していた。
焼け落ちた梁が黒く残り、煙の匂いがまだ漂っている。昨日か今日の話だ。
「アマン様、これは……」
「わからん。ただの火事かもしれん。近隣の者に聞いてみよう。カギ、お前はここで待っていろ。」
「わかりました。」
アマンは荷馬車を降り、近隣の住民にたずねた。
「すいません。私はロハク様と取引がある商人ですが、屋敷に何があったのでしょうか。ご家族はどちらにいかれましたでしょう。」
「いや、詳しいことはわかりません。」
周りの家をいくつか訪問したが、近隣の人間はなぜか口を閉じた。目を合わせようとしない。
「これではらちがあかんな。」
アマンが気がつくと、数名の男たちがアマンを取り囲んでいた。
「お前たち、何者だ?」
「我々は霊教会のものだ。ロハクには神罰が下った。大人しくされ。」
「なんだと?どういうことだ?」
アマンは剣に手をかけながら周囲を警戒する。
「アマンという男が霊教会の大司教を暗殺しようとした。」
(もうすでに情報が伝わっているのか。)
「それとロハク殿に何の関わりがある?」
「ロハクは何かの間違いだろうとアマンを庇った。だから異端者として神罰が下された。」
「では、ロハク殿、いや、ご家族は?」
「全員に神罰が下ったようだ。」
「なに?」
アマンは耳を疑った。
「馬鹿な、ロハク殿は何も関係ないではないか!?」
「問題はそこではない。啓示を疑い、あまつさえ霊教を邪教などと侮辱したため、神罰が下ったのだ。」
「馬鹿な、それでご家族全員をか!」
「安心しろ。ロハクの家の罪は聖なる炎で清められたのだ。」
アマンの頭が白くなった。
怒りではない。
怒りの向こう側だった。
アマンはゆっくりと仮面を外した。
炎のように赤い瞳が、男たちを静かに見据える。
「私がお前たちの探していた男だ。」
「そうか、お前がアマンか。ならばお前も聖なる炎で魂を清めてやる。」
『四霊法術・鳳凰式・霊炎剣』
男が術式を展開する。男たちの剣が次々に炎に包まれた。
「殺せ!」
男たちが一斉にアマンに向かって駆け出した。
アマンも術式を展開する。
『四霊法術・霊亀式・霊盾』
アマンの周囲に魔力の盾が展開され、炎の剣を弾き飛ばす。
「なに!貴様も霊法術を使うのか!」
男が驚きの声を上げる。
「一緒にするな。お前のような手品を霊法術などとは言わん。」
その瞬間。
【絶影】
誰も、何も、見えなかった。
アマンが動いたのかどうかすら、わからなかった。
ただ、気がついたら男たちは立っていなかった。
一人が膝をついた。何が起きたか理解できない顔で、自分の胴を見下ろしていた。隣の男は剣を握ったまま、そのまま前に倒れた。別の男は一歩踏み出した姿勢のまま、動かなくなっていた。
誰一人、斬られた瞬間を認識できなかった。
アマンが魔力を込めた。
神剣・北斗の効果が発動する。
ドン、という音がした。
男たちの肉体が、内側から弾け飛んだ。
「……馬鹿な。」
リーダーの男だけが、かろうじて立っていた。声が震えている。仲間が何人いたか、もう数えられなかった。
「ここに霊教会はあるのか?昔はそんなものなかったが。」
アマンはリーダーの男に剣を突きつける。
「ひいいいいい!」
男は叫び声を上げて逃げ出した。
アマンは剣を収めた。
「いいんですか。追わなくても。」
カギも荷馬車から降りてきた。
「それよりすぐこの場を離れなければ。おそらく追手が来る。ロハクには悪いことをしたが、今は弔ってやることもできん。」
そういうと、アマンとカギは再び東方に向けて荷馬車を出した。
◇
数日後、アマンは故郷についた。
キスリィ家はこの地方では豪族ではあるが、落ちぶれた貴族である。
アマンの祖父が財をなし、男爵の爵位を実質的には賄賂で買ったというのが実態だ。
屋敷の門をくぐると、こぢんまりとした庭が広がっていた。
豪奢ではない。噴水も彫像もない。ただ、石畳は丁寧に掃き清められ、植木は几帳面に刈り込まれていた。季節の花が、飾りすぎず、しかし確かに手入れされて咲いている。使用人の数は少ないが、すれ違う者はみな姿勢が良く、アマンに対して静かに頭を下げた。
金はない。しかし、乱れはない。
(変わらんな。)
アマンは懐かしさとも寂しさともつかない気持ちで屋敷を見回した。
屋敷の内部も同じだった。調度品は古く、壁の絵画も色あせている。しかし床は磨き上げられ、家具の配置には一分の狂いもない。古いものを大切に使い続けている、そういう空気がある。
帰るなり、父に面会した。
数年ぶりに会う父は痩せたように見える。頬がこけ、以前より白髪が増えていた。
しかし目だけは、アマンが幼い頃から変わらず、鋭く光っていた。
「父上、ただいま戻りました。」
「アマンよ。噂では聞いたが、宰相を暗殺しようとするとはとんでもないな。」
アマンの父、キョコウは笑って答えた。
「だが、中央の力もここまでは及ばない。とにかくゆっくり休め。」
そういって、キョコウは息子の肩に手をやる。
「父上、残念ながら、そうもいっておれません。」
「なぜだ?」
「ロハク殿の家族が霊教に皆殺しにされました。」
「なんだと!あのロハク殿が!?」
キョコウはよろめき、椅子に座った。。
「もしや、アマン、お前、異端の烙印を押されたのか?」
「いえ、まだそうではないようです。おそらくは一部の急進派の連中の仕業かと。」
(もっとも急進派かどうかは関係ない。霊教がやったことに変わりはない。)
アマンは内心を押し殺した。今は父を不必要に心配させるべきではない。
「まずは準備を整え、ロハクの家の周辺の霊教会を調べに向かいます。」
「たしかに、ロハク殿の土地も我が領内だ。しかし、相手は霊教だぞ。大丈夫か。」
「はい。そして、霊教討伐および王命を理由にチュウエイを討伐できる者を探します。」
「なに?お前、そんな勅命を受けたのか?」
「いえ。しかし、例の革命軍を操っていたのも霊教のようでした。チュウエイを恨んでいる連中も多いでしょう。」
「なるほどな。」
キョコウは腕を組んで考え込む。
「で、そこまで考えていて、ここに来たということは、わしに何かをさせようというのだろう?」
「ええ、父上には経済的な援助をお願いしとうございます。」
キョコウはしばらく黙っていた。
部屋の天井の染みを見上げ、それから息子を見た。
「わかった。もともと我が家の財産など、今の王家からもらったようなものだ。お返しするのも忠義というものだろう。」
「ありがとうございます。」
アマンはそう言って父に頭を下げた。
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