第83話 ロフの過去
「殿下でいらっしゃいますか。」
独房から声がした。
のぞいてみると、一人の初老の男が鎖に繋がれていた。両手を上げた状態で壁に固定され、足には重い鉄球が繋がれている。
「イーゲン殿か!」
キョウ王女が声をかける。
「知ってる人?」
「ああ、幼い頃はよく遊んでもらった。なぜ、あなたがこんなところに。」
「チュウエイのやつに逆らい、叛意ありということで、ロフのやつに捕らえられました。」
「妲姫、せめて鎖をはずしてやってくれ。」
「わかった。」
妲姫はそういうといとも簡単に独房の鍵を破壊した。中に入り、イーゲンを繋いでいた両手の鎖も砕く。
「おじさま!」
キョウはイーゲンに駆け寄った。
「おのれ、チュウエイ!おじさまが叛意など起こすはずがないだろう。」
「殿下。私はもう終わりです。」
「何をいう!私がチュウエイに言って、すぐに自由にしてやる。」
キョウはイーゲンの肩に手をやる。
イーゲンは首を振った。
「同じことです。」
「なぜだ!」
「仮に殿下のお力で罪を免責されたとしても、今や霊教の大司教であるチュウエイに逆らったことで、私は霊教より異端者の烙印を押されました。」
「だからなんだというんだ。」
「霊教は異端を許しません。ここに捕らえられるまでも、何度も刺客に命を狙われました。」
「なんだと。」
「実は、ロフは私を討伐するふりをして、命を助けてくれたのです。結果として、チュウエイに独房に入れられましたが。」
イーゲンは驚くべき告白をした。
「どういうことだ?」
「実は、ロフは私と同郷なのです。」
そして、イーゲンは驚くべき真実を語り始めた。
「ロフはもともと私と同じく西方の辺境で魔獣や魔族などと戦う冒険者でした。」
(やつは只者じゃないとは思っていたが。)
「やつの強さの秘密はご存知かもしれませんが、ロフは不死身なのです。」
「そうらしいね。自分でいってたよ。チュウエイと同時に倒さないと死なないと。」
「もともとあれはチュウエイのスキルではありません。やつがロフの弟を殺して奪ったスキルです。」
「どういうこと?」
ワタシも思わず声に出た。
「ロフは三人兄弟の長男で、もともと双子の弟と妹と三人で冒険者をしていました。弟もロフには及びませんでしたが、強い戦士でした。あるとき、ロフが魔獣との戦いで重傷を負い、死んだように見えたのです。しかし傷はみるみるふさがり、完全に回復した。そして徐々に気がついたのです。二人のうちどちらかが死なない限り、互いに不死身であるということに。」
「ちょっと待て。なぜそんなことがわかるんだ。同時に死んだことがないのに。」
キョウが当然の疑問を口にする。
「表現が難しいんだけどね、スキルってはじめはぼんやりしたイメージから始まるのよ。私の【翻訳者】もはじめは解析スキルの一種だったんだけど、自分の中で言語化できて、理解できるようになっていくうちに固定化するイメージなの。」
「そういうものなのか?」
キョウは妲姫のほうを向く。
「さあ、どうだろうね。私は悪魔だからな。人間が能力といっているものは最初から当たり前にできるんだよ。」
(アオなんて、人間レベルのスキルはほぼ再現できるといってたな。)
「というわけで、二人は西方で無敵でした。あの男が現れるまでは。」
「それがチュウエイか。」
「ええ。とある理由から、ロフとチュウエイは争い、ロフの弟とチュウエイが決闘をすることになりました。」
「ロフは弟が負けるはずがないと思っていたわけね。」
ワタシは確認する。
「ええ、なにせ不死身ですから。しかし、チュウエイが弟を討ったあと、弟が蘇生することはありませんでした。」
「なるほど、弟が蘇生する前にチュウエイが【強奪者】で弟のスキルを奪ったわけか。」
イーゲンは黙って頷く。
「それで、なんでロフはチュウエイに従っているの?」
「実はロフには妹がいました。殿下、アビ殿、ちょうどあなた方と同じくらいの年頃の。」
「その妹を殺害したのも、おそらくチュウエイなのです。」
「なんだって!」
キョウが声を上げる。
「真相はわかりません。ロフの妹がチュウエイのパーティーに入り、そのまま戦死しています。」
(やつは冒険者狩りをしていた。十分ありえることだ。なによりワタシもやられたのだから。)
思わずワタシはやつに刺されたお腹に手を当てた。
「不審に思ったロフとその弟がチュウエイに詰め寄り、いよいよ決闘を挑んだのです。」
イーゲンは続けた。
「それで返り討ちにあったと。」
「ええ。」
「それで、チュウエイが不死身になったせいで倒すこともできなくなったというわけか。」
ワタシは考察を口にした。
「もしかして、チュウエイがワタシを刺してやつが怒ったことや、今回のキョウの件は……妹さんとワタシたちを重ねたのかな。」
「かもしれません。」
イーゲンは頷く。
「殿下、少なくともロフはやつなりにあなたを支持しているのは間違いありません。」
一呼吸置いてキョウが口を開いた。
「なるほど。ロフの件はともかく、イーゲン殿、あなたの件は必ず私がなんとかする。」
そういうとキョウは立ち上がった。
◇
チュウエイは鏡を見ながら、ロフに殴られた跡を確認していた。
回復魔法で傷も痛みもないはずだ。
しかし、苛立ちは収まらなかった。
(あの野郎、どうしてくれよう。)
(……弟と妹のことをまだ引きずってやがるのか。 )
(しかし、やつは殺せん。)
(どうせ殺せないなら、オレのそばに置いておいたほうがましだが、今回の件でやつの本心はよくわかった。)
「チュウエイ様。お怒りはわかりますが、ここは落ち着いてください。」
声をかけてきた男にチュウエイは目をやる。
首から霊教の紋章の首飾りを下げた、肌の白い西方風の男だった。十字に四つの星。その目は笑っていない。
「では、リジュエル、どうしろというんだ。」
「やつは単純な男です。あなたが頭を下げ、金と女でも与え、自尊心を満たしてやればいいでしょう。」
「オレが奴に頭を下げるだと?」
チュウエイは拳を握りしめ、怒りをあらわにした。
「あのアビとかいう小娘にも頭を下げ、金を出したではありませんか。」
「あれは青竜がいたからだ。やつがいなければあんな小娘とっくに殺している。おまけに究姫のやつもなぜかあの小娘を気に入っていたからな。」
(まったく腹立たしい。あの邪神どもをなんとかできないかと霊教に近づいた理由の一つだが。)
「イーゲンのやつはどうします?」
「やつはオレに逆らったやつがどうなるか、十分見せしめにさせてもらう。ロフとはわけが違う。」
「あなたに逆らうということは、我々霊教に逆らうものと同じですからね。」
リジュエルは口の端を上げ、冷たく笑った。
「神罰を与えてやりましょう。」
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