第81話 キョウ王女と宰相チュウエイ
ワタシとキョウが都に帰ったとき、驚くべき知らせを聞いた。
あのアマンがチュウエイを暗殺しようとしたというのだ。
ワタシはキョウ王女の私室に呼び出されて、その話を聞いた。
しかし、王女様のベッドだけあって、ここのベッドは非常に寝心地が良い。
ワタシは護衛の服装を脱ぎ、王女様のベッドに寝っ転がる。
「だんだん図々しくなるな、お前。」
妲姫がテーブルでおやつをつまみながら呆れる。
「まあ、そういうな。私は一向に構わんぞ。ゆっくりしていってくれ。」
そういうキョウは相変わらず忙しそうだ。書類を広げ、ペンを走らせている。
「じゃあ、アマン殿は逃亡の身ってこと?」
ワタシは寝転がったままキョウに聞いた。
「そのようだな。しかし、暗殺しようとしたのは本当らしいし、かばいようがない。」
彼女は肩をすくめる。
キョウはそういいながらペンを置いた。そして、おもむろに上着を脱ぎ始める。
「ちょっと、なにしてんの。」
「仕事が終わった。これからはお楽しみだ。」
そういうと、キョウはベッドに上のワタシに絡みつく。
「ちょっと眠いんだけど。」
「命令だ。付き合え。」
そんな風にじゃれ合っていると部屋の外からノックの音がした。
「チッ、誰だ。いいところで。」
キョウが舌打ちをする。
「殿下、チュウエイだ。」
妲姫が意外な名前を告げる。
「アビ、お前、ちょっとまずい。あそこに隠れていろ!」
(ワタシは不倫相手かよ。)
そう思いながら、ワタシは衣服を抱えてクローゼットの中に滑り込んだ。
◇
「これから殿下に重要な話がある。下がってくれるか。」
チュウエイは妲姫に命じる。
キョウが妲姫に目配せをし、妲姫がこちらをちらりと見てから部屋の外に出ていく。
(大丈夫。何かしそうならすぐ出ていってやる。)
クローゼットの隙間から、ワタシは二人の様子を伺った。
◇
「殿下、突然の訪問、申し訳ありません。」
扉は開けたままだ。チュウエイは椅子にも座らず、立ったままキョウと向き合っていた。
「ああ、私からもお前にいいたいことがあった。」
「では、殿下の方からお先にどうぞ。」
「私がいない間に、先祖の墓を暴き、国庫から禁書を解放し、さらに自身は霊教の大司教にまで勝手になるとはどういうことだ?」
キョウはチュウエイを真っ直ぐに見据えた。
「死者が財宝を持っていても使えないでしょう。それをするなら殿下がされているように貧民街の民衆にばらまいたほうが有益ですよ。」
チュウエイは笑いながらいう。
「お前、知ってたのか。」
キョウは驚きを隠さなかった。
「私は今やこの国の宰相ですよ。貧民街の聖女、ですか。まさか正体が殿下だったと知ったときは流石に驚きましたが。」
「国庫の禁書の件は?」
「なにも危険なものではない。私のいた世界では子供でも知っていたことですよ。学術の研究は進めるべきです。」
「では霊教の件は何だ?」
「私もこの宰相の身になっていろいろ過去の過ちを反省し、霊神の教えに帰依したのですよ。あくまで個人的な心情です。他意はありません。」
「その割には、西方の出身者を多数重要な職に採用しているようだが。」
「こちらの世界での私の故郷の人間に協力してもらっているだけですよ。あちらの地域には霊教の信者が多くてね。なぜかおわかりですか、殿下。王家の庇護を受けることができない者たちが、霊教の庇護を頼ったのですよ。」
キョウは言葉を返せなかった。
「次は私からの相談を受けていただいてよろしいですか、殿下。」
「お前が私に相談だと?」
「はい。」
チュウエイは一歩、前に出た。
「殿下、私はあなたこそ王にふさわしいと思っています。今のカイ王を廃位して、あなたが王になっていただけませんか?」
(なにをいってるんだ、あいつ?)
ワタシはチュウエイの真意を測りかねて息を潜めた。
「ふざけるな。貴様は仮にもカイの、陛下の家臣、宰相だろう!」
キョウは怒りを表した。
「たしかに私は陛下の家臣です。しかし、今の陛下は幼く、国民が慕っているのはあなたです、殿下。」
「先日も、反乱軍の主力と戦ってこられ、あの逆賊ヨウト率いる反乱軍にとどめをさした。コウ将軍なきあとも、軍が乱れなかったのもあなたの力だ。」
「そんなことはない。あれは皆のサポートあってのことだ。私はなにもしていない。」
「それですよ、殿下。あなたは謙虚だ。」
チュウエイの声が、静かになった。
「今、国は倒れかかっている。私も全力をもって国をまとめようとしているが、旗頭は私ではだめだ。あなたの元なら人は集まる。」
「かもしれんが、今の陛下、カイが何か悪いことをしたわけではないのに廃位などできぬ。」
「悪いことをしていない。」
チュウエイは一拍置いた。
「はっきり申し上げましょう。今のカイ陛下は、存在そのものが悪ですよ。」
「ふざけるな!」
「ふざけていませんよ。反乱軍で国は割れ、宰相の私ですら先日殺されかけた。しかし今の国庫には、あのアマンを追撃する部隊すら十分に揃えることができない。それが現実です。平和な世ならともかく、そんな中で無能な王など、罪ですよ。」
キョウは言葉を失った。
「あくまで、もしも、だが……私が王位につけばカイはどうなる。」
「私としては、余生を過ごしていただきたいと思っています。しかし、おそらくは殺されるでしょう。」
「ふざけるな!」
「繰り返しですが、ふざけていませんよ。それにカイ陛下が存命のうちは、群臣は二つに分かれます。あなたを支持する者と、カイ陛下を支持する者です。なお、カイ陛下を支持する者の筆頭こそが、あのコウロであることもお忘れか?」
室内に、静寂が落ちた。
「あのコウロが何をやりましたかな。刻印、官職の売買、金を払えば重罪も無罪という免罪金。あの賊は南方に逃げましたが、国庫が苦しく討伐もできていません。そんな男に支持されているのがカイ陛下ですよ。」
(今すぐ出ていきたい。でも——)
ワタシはクローゼットの中で、息を詰めた。
「殿下、あなたはご自身の立場を考え、責任を取るべきだ。父君を反面教師としてね。」
「父を侮辱するな!」
「こちらをお読みください。」
チュウエイが一冊の本を卓の上に置いた。
「それは禁書か。」
「ええ。勇者が魔王を倒したにもかかわらず、この国がおかしくなった原因が書いてありました。」
キョウの頬に、一筋の涙が流れた。
「今回の話、できるだけ早く決断されることですな。殿下が決めなければ、私が決めるだけです」
チュウエイはそれだけいうと、静かに部屋から出ていった。
怒りと悔しさで涙を流すキョウと、卓の上の一冊の本だけが残された。
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