第79話 神剣・北斗
キョウ王女自らが指揮をとり、革命軍の本体を壊滅させた。
その報せがアマンの部隊に届いたとき、誰もがにわかには信じられなかった。しかしコウ将軍は生死不明、帰還せよとの命令は本物に間違いなかった。アマンの部隊は一足先に王都に戻った。
そして帰還したアマンのもとに、すぐさま祝勝会の招待が届いた。
殿下はまだ帰還されていない。コウ将軍の生死も不明だ。そんな状況で祝勝会とは、どういうことか。
しかし断れば角が立つ。今の王都でシシ侯爵の機嫌を損ねることは得策ではない。
そう判断して足を踏み入れたアマンを待っていたのは、酒でも料理でもなかった。
「殿下がおられぬ間に、あの成り上がりものが好き勝手しおって。許せませんな、アマン殿。」
シシは上座に座るアマンに同意を求めた。
(なるほど、そういうことか。)
祝勝会ではなく、チュウエイへの不満をぶつける場だったわけだ。
「特に許せぬのが、王族の墓を勝手にあさり、あの霊教の大司教になったことよ。」
「兵とともに貧民街に押し入り、女どもをさらっていったという噂もあるぞ。」
「許せぬ。」
(私たち討伐軍が命をかけて数万人の反乱軍と戦っていた間、この連中はチュウエイ一人に何もできず、日々悪口大会をしていたわけか。)
アマンは内心苦笑していたが、チュウエイの横暴ぶりが目に余るというところだけは一致していた。
(失敗だったな。)
ここに来たことを後悔していた。戦傷を理由に断るべきだった。
「アマン殿、ここではっきり聞いておきたいことがある。」
シシは座り直し、隣に座るアマンに向き合った。
「どういうことでしょうか、シシ様。」
内心、そらきた、と思いながらも、アマンはシシの目を見た。
六十を超えるシシはアマンにとって父親よりも年上だ。無下にすることはできなかった。
「アマン殿。あなたは勇敢だ。宦官の反乱では、巨大な悪魔に対しても一歩も引かず戦ったと聞く。」
「いやあ、アマン殿ほどの武人はこの国にはおらんでしょう。」
「魔人を相手に引かなかったとは、まさに鬼神の如き戦いぶりだったと聞いておりますぞ。」
参加者たちが口々にアマンを称える。
「あの悪魔に比べれば、チュウエイなどただの人にすぎないでしょう。それに今はあのロフというやつはイーゲン殿討伐に向かっていない。今こそ機会と思われませんか。」
シシはそういって、参加者たちを見回した。
「そうだ、アマン殿ならば必ずやってくださる。」
「この国を救えるのはアマン殿しかおられぬ。」
「どうかお力をお貸しください!」
次々と頭を下げる参加者たちに、アマンは静かに目を細めた。
(ことわったら、私はチュウエイにもこのものたちにも命を狙われるな。)
「つまり、私にチュウエイを討てと、こういうことでしょうか。」
「……そうだ。」
シシは黙って頭を下げた。
「年寄りの自分にできることはこれくらいしかない。」
そういうとシシは右手を上げて合図をする。シシの配下の者が、一振りの剣を持ってきた。
「おお、あれはまさか。」
参加者から声が上がる。
「これは我が家に伝わる伝説の剣、【神剣・北斗】だ。」
「あの……北斗が。」
アマンも思わず声を上げた。シシが所有しているという噂は聞いていたが、半信半疑だった。
シシの配下の者が木偶人形を準備する。
「その【神剣・北斗】の力をみなにお見せしよう。」
シシは自ら剣を抜いた。そして剣を振り、木偶人形を切りつける。
しかしその様子は、まるで素人だった。
木偶人形にわずかに傷がつくばかりだ。
一瞬、沈黙が流れた。
しかし、シシが右手をかざしわずかに魔力を込めた瞬間。
バン!
木偶人形が爆発し、吹き飛んだ。
「おおおお!」
参加者たちが声を上げる。
「これが神剣・北斗の力だ。切りつけられた者が、切りつけた者の魔力を浴びたとき、内側から破壊される。それがこの剣の秘めた力だ。」
シシは剣を鞘に収め、アマンに差し出した。
「アマン殿、貴殿にはこの剣であのチュウエイを討っていただきたい。」
アマンは両手でそれを受け取った。
「私も試し切りをしてみてよろしいですか?」
「どうぞ。」
シシが家来に指示を出し、再び木偶人形が用意される。
アマンが剣を構えた。
「え?」
シシと参加者たちが声を上げた。
アマンの抜刀を、誰も見ることができなかった。
気がついたときには、木偶人形は真っ二つになっていた。
「み、見えなかった……」
「なんという速さだ。」
「さすがアマン殿!」
これがアマンの抜刀術と、彼自身のスキル【絶影】だ。攻撃の瞬間を、誰も認識することができない。
一対一の近接戦闘において、自分に勝てる者はいないとアマンは自負していた。
そして次の瞬間、木偶人形が爆発した。
「おおおお!」
破片が周囲に飛び散り、近くに座っていた参加者が巻き込まれる。
「これはとんでもない。」
「神剣とアマン殿の力が合わされば、チュウエイなど敵ではない!」
「どうかお願いします、アマン殿!」
参加者たちが口々に叫んだ。アマンは自身への破片を結界で防ぎながら、もう一度神剣を見た。
明日、自分はチュウエイに戦勝の報告に行くことになっていた。
(これは天意かもしれん。)
「わかりました。必ずや逆賊を討ってみせましょう。」
アマンがそう言った瞬間、場が沸いた。
「おお!やってくださるか!」
「アマン殿ならば必ずや!」
「この国の未来はアマン殿にかかっております!」
歓声と拍手が館に響き渡った。
アマンは再度、神剣に映る炎のように赤い自分の瞳を見つめた。
もはや、シシたちの声はアマンには届いていなかった。
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