第75話 邪神たちの戦い
キョウのところに合流する前日、ワタシとアオ、ビゼンが率いるチームは偶然出会った魔族商人ジークの部隊を護衛しながら、官軍のヒュドラ討伐隊に物資を輸送していた。
地平線に煙が見える。
「何者かが戦闘をしているな……」
ジークがつぶやく。
「ヒュドラと官軍?」
「いや、官軍の魔力も感じるが、官軍は戦っていない。」
「妙ね。」
ワタシも気になって双眼鏡を見てみるが見えない。魔族のジークのほうがはるかに魔力感知は高い。こいつはアオの霊力すら感じることができる。
「おそらく片方はヒュドラなんだろうが、もう片方はおそらく魔獣だな。」
「魔獣?魔獣がヒュドラと戦っているの?じゃあ、官軍は漁夫の利を待ってるの?」
「わからない。先行して様子を見にいくか。」
「それしかないわね。」
ワタシとジーク、それにアオとビゼンが先行することになった。
「あー、またあいつらだよ。」
アオがつぶやく。
「あいつら?」
「まあ、行けばわかるよ。あいつらはろくなことをしないね。」
(行けばわかるというなら行くしかないか。)
◇
現地につくと、何者かと戦っているヒュドラを遠巻きに見ている官軍百名ほどと合流できた。
ヒュドラは首が七つある、かなり巨大なタイプだ。
「おお、これはジーク殿!」
官軍の隊長がワタシたちに気がつき迎えてくれた。
「これはどういう状況なんだ?」
ジークが隊長に確認する。
「見ての通り、何者かがヒュドラと戦っているのです。どうも魔人のようですが。」
「魔人?」
ワタシはそう言われて双眼鏡をのぞいてみる。
「あ。」
思わず、声が出た。
四本の腕に牛の角をもつ、青黒い魔人。
「あいつ、モスじゃないか。」
リョーカになついていた、ベヒーモスの魔人。どこかに行ったなと思っていたのだが、こんなところで何をやっているんだ。
さらに周りを見ると、ショートカットの少女の姿が見える。
(あれは凍子か。)
こちらに気がついて、手を振っている。
(ということは……)
さらに辺りを見回すと、金髪の女が宙に浮いて、なにやらヒュドラを応援している。
あれは究姫……。
(なにをやっているんだ。あいつらは……)
「究姫と凍子がいる。アオが言ってたのはこういうことね。」
「き、究姫と凍子?あの邪神がですか!?」
あからさまに隊長の顔色が変わる。
「す、すぐに戻って対策を考えないと!?」
「いや、まあ、そんな大げさなことにはならないと思うから。ちょっと待ってて。ワタシが話をしてくるから。」
「話ですか?あの邪神に!?」
「まあ、とにかく任せていて。」
ワタシはそういうと仲間たちとともに、魔獣たちの元に向かった。
◇
戦闘はすさまじかった。
ベヒーモスが魔人化したモスは四本の剛腕でヒュドラを切り刻む。一撃ごとに大地が揺れ、鱗が飛び散り、肉が抉れる。
しかしヒュドラは、モスの攻撃力を上回る速度で再生を見せる。切れば塞がる。砕けば戻る。七つの首がそれぞれ意思を持つように動き回り、モスを四方から追い詰めていく。
「フハハハハハ!どうだ凍子!私のギドラの強さを見たか!」
「なにやってんだよモス!しっかりしろ!」
なるほど、究姫がヒュドラを応援して、凍子がモスを応援しているわけか。
って感心している場合じゃないな。
「あんたらああ!なにをやってんのよ!」
ワタシは大声を上げる。こちらに気がついてはいるようだが、凍子も究姫も手を振って返すだけだ。
「ほんとにこいつら、災害だな……」
ワタシは思わず頭を抱えた。
「どうする?ワタシがあのベヒーモスとヒュドラを消し飛ばそうか。」
アオが提案してくれるが、あとがうるさそうだ。
「いっそ、あの二人を攻撃するのはどうだろう?あいつらなら少々のことでは大丈夫でしょ?」
「あー、なるほど、それがいいね。」
アオはそういうと両手を究姫と凍子に向けた。
空気が変わった。
風が止まる。鳥が一斉に飛び立つ。ヒュドラですら動きを止め、本能的に何かを感じ取ったように首をすくめた。
アオの両掌に、静かに魔法陣が描かれていく。重なり、回転し、立体の幾何学模様が光を帯びる。それは美しかった。美しすぎて、見てはいけないものを見ているような気がした。
「――蒼竜核閃線」
アオの唇から漏れたのは、祈りのような、あるいは無機質な宣告のような呟きだった。
直後、放たれたのは極細の青い閃光。 それは雷霆と呼ぶにはあまりに静謐で、あまりに細く、針の如く鋭い。音すらも置き去りにするその光が虚空を駆け抜けた瞬間、世界には一条の「蒼い線」が刻印された。究姫と凍子を繋ぐ運命の糸を断ち切るように、その線は一点へと収束し――。
刹那。 コンマ数秒遅れて、書き換えられた「理」が現実へと追いついた。
天地を圧する轟音が、爆縮と共に世界を揺らした。 上空の雲は一瞬で根こそぎ消滅し、地平の彼方まで、天そのものが引き裂かれたかのような光の奔流が吹き荒れる。遠く、数里先にある山の稜線が白銀に染まり、その輪郭を光の中に溶かしていく。
遅れてやってきた衝撃波が猛り狂い、草原を紙細工のように薙ぎ払った。ワタシたちの足元では、逃げ場を失った魔力が土を抉り、世界のバグを埋めるように激しい放電が大地を焼き焦がしていった。
ワタシとビゼンとジーク、それにモス、ヒュドラまでが全員、口を開けてその光を見ていた。
もはや、モスもヒュドラも戦闘どころではなかった。
全てが消し飛んだかと思いきや、遠くの空に二つの光の珠が見えた。
光の珠はこちらへ猛スピードでやってきた。
「「なにすんだよ!(のよ!)」」
究姫と凍子が怒りをあらわにする。
「やっと聞く気になったか。」
アオが呆れたようにいう。
「今の魔法、地上に向けて撃ってたら、この国が吹っ飛んでたぞ。」
凍子が恐ろしいことを言う。
「君たちは強いからね。直撃しても死にはしないでしょ。死んでもいいけど。」
「そんなことより、あんたらここでなにしてんのよ?」
「見てわかるだろ?モンスターバトルだよ、モンスターバトル。」
究姫が見てわからないから聞いているのによくわからないことを言い始めた。
ワタシはまたこいつらのアホな話につき合うことになった。
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