第73話 対談
革命軍と官軍が睨み合う中、革命軍のリーダー、ヨウトと王女キョウが相まみえた。
ヨウトは手押し車に座り、キョウは馬上から下りる。
草原の風が、両軍の旗をはためかせた。どちらの陣も、息を呑んで見守っている。
革命軍から官軍に向けて、ひとりの男が近づいてくる。
武装はしていない。
「私は革命軍の副将ビエムというものです。キョウ王女との対談、同志ヨウトも心から楽しみにしていました。」
ビエムはよく通る声でキョウ王女ならびにコウ将軍に伝える。
「残念ながら、ヨウトは高齢なため、耳も遠く、大きな声を出すこともできません。ささやかではありますが、対談の席を設けています。ご足労ではありますが、お願いできませんか。」
「いいだろう。望むところだ。」
キョウは静かに答えた。
並ぶ群臣たちは油断なくその様子を見ている。おかしなことをすれば、すぐにでもビエムの首を飛ばせるよう準備もできていた。
「ありがとうございます。それでは早速参りましょうか。」
群臣たちの殺気を受け流すかのように、ビエムは微笑み、背中を向け、キョウを案内する。
(不審なことがあればいつでも殺せということか。)
コウ将軍はそのように解釈しながらも、決して油断しなかった。
◇
会談の場は開けていた。
天幕の中央に卓が置かれ、ヨウトとキョウが対面に座るようになっている。その後ろに、それぞれの群臣が控える。外からは風の音だけが聞こえた。
(あれがヨウトか。)
キョウが対面に座るヨウトを観察する。
顔は覆面に覆われ、表情はうかがえない。周りの部下への指示はビエムが行い、ヨウトは一言も発することはなかった。
係の者が毒見をする。そしてその上で、飲み物を注ぐ。
ごく自然な様子で。
誰も、なぜか警戒すらしなかった。
キョウの後ろに控える妲姫ですら、気がつかなかった。
誰も、動かなかった。
いや――動こうという発想すら、なかった。
ごく自然に、係の者がピタリとキョウの喉元に短刀を突きつける。
突きつけられたキョウですら、その自然な動きに違和感すら覚えなかった。
その瞬間。
光の速さで刺客に雷が落ちた。
轟音とともに刺客は刃を落とし、倒れる。
「なんだ!?何が起こった!」
「殿下、ご無事ですか!?」
正気に戻った群臣がとっさにキョウをかばい、そのまま後ろに連れていく。
「ビエム!ヨウト!これはどういうことだ!」
コウ将軍はビエムを睨みつける。
睨みつけられたビエムは、上空を見上げた。
キョウも思わず上空を見上げる。
そこにいたのは——
「アビ!」
◇
ワタシとアオは宙から降りた。
草原に着地する。足元の草が、風圧で揺れた。
その場の全員が、一瞬だけ動きを止めた。
「平和的な会談になったなら、黙って見ているつもりだったけどね。」
ワタシは剣を構えながらいう。
そんなワタシを無視するようにビエムが叫ぶ。
「おのれ!民を惑わす邪神とその使徒め!ようやく正体を現したか! 我々とキョウ殿下の平和的な会談を台無しにするとは!」
「なにいってるの、こいつ?」
そういう筋書きでいくつもりか。
「これが神使というものだよ。話が通じないでしょ。」
アオが静かにつぶやく。
「見たか、同志たちよ!これが王家の手先、邪神の使徒たちだ!対話など不可能だ!今こそ我らの絆を見せるときだ!」
その声を合図に、革命軍が官軍に一斉に襲いかかった。
その瞬間、とんでもないことが起こった。
官軍の兵たちが全員、キョウの姿になった。
「どれが本物だ!?」
一瞬で革命軍の統制がくずれる
(これは妲姫の幻影か!?)
思わず吹きそうになる。しかし、妲姫と右目でつながっているワタシには妲姫の位置がわかった。もうすでにかなり遠くに逃されている。あれでは追いつけない。
「これは前もって用意していたね。」
感心するようにアオがいう。
しかし——
「悪魔め!こんなまやかしが我々に通じるか!」
ビエムがそう叫ぶと、凄まじいスピードで兵たちをかいくぐり、キョウに迫る。革命軍の兵士たちもビエムをかばうように壁になった。
「あいつ!」
ワタシもビエムを追おうとするが、革命軍の兵士たちに阻まれる。
(しかも、こいつら強い!本当に民兵か。)
しかしワタシは、よく知った魔力を感知していた。心配はいらない。
遠くでは、革命軍の兵士たちがヨウトを奥へ連れていくのが見える。
「私はちょっとヨウトと話をしてみるよ。」
そういうとアオはヨウトの前に瞬間移動した。
その瞬間、周りの兵がバタバタと倒れるのだけが見えた。
◇
ビエムは凄まじい速度で、キョウに迫った。
しかしビエムの前に、一人の槍使いの戦士が立ちふさがった。
「おっと、ここは通さねえよ!」
ヨクトはそういうとビエムに向けて槍を突き出す。
ビエムはそれを剣で受け止めた。
「やはり君は裏切りますか。」
ビエムは微笑みながらヨクトに対峙する。
「ヨウトさんはやっぱり変わっちまったのかな。」
ヨクトは構え直しながら答える。
「何も変わっていませんよ。しかし、これまでですね。」
それだけいうと、ビエムは再び自陣に向かって引き返した。
◇
「久しぶりだね、ヨウト。」
アオはヨウトに向かってつぶやいた。
ワタシはアオに向かって近づく。アオとヨウトを中心に結界が張られているのか、革命軍も官軍も、近づいただけで気を失っていた。
ワタシはアオとヨウトの様子を伺う。
「アビ、やっぱりだよ。」
アオはヨウトの肩に手を置きながら、寂しそうに呟いた。
「ヨウトはもう、死んでいるよ。」
草原の風だけが、静かに吹いていた。
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