第72話 ビエム
「止まれ!何者だ!」
ヨクトは革命軍の陣の前で呼び止められた。
供はリョーカと華侯姫だけだ。仲間は近くに待たせてきた。ヨクトとリョーカは丸腰。華侯姫は魔導士姿に化けている。
「オレは王都近隣のゲリラ隊、一番隊隊長のヨクト。こっちは二番隊のリョーカだ。」
「そこで待て。」
「ご主人様。」
華侯姫が心配そうに声をかける。
「大丈夫だ。オレの顔を知っているやつを探しているんだろう。」
しばらくして。
「入れ。」
◇
陣の中は、ヨクトが想像していたものとは少し違った。
十万の軍勢というから、もっと雑然とした空気を想像していた。
しかし、実際は違う。
整然としていた。
炊き出しの列は乱れない。
見張りの交代は寸分違わず行われる。
武器の手入れも、休憩も、すべてが決められた通りに動いている。
(まるで訓練された官軍だ。)
(俺たちの部隊とずいぶん違うな。)
(革命軍は基本的には民兵の集まりだ)。
(どうやればここまで規律をだせるんだ。)
そして、兵たちの装備に気になる印を見つける。
十字と四つの星の紋章。
(霊教の紋章だ。)
(霊教の信徒。いつの間に増えたんだ。)
革命軍に宗教の背景はなかった。
どの神を信じようが自由だ、というのがヨウトの方針だったはずだ。
(それにしろ、これではまるで霊教の軍だ。)
そんなことを考えていると声をかけられる
「同志ビエムがお会いになるそうだ。」
「オレはビエムよりヨウトさんに会いたいんだがな。」
そうつぶやきながらも、ヨクトはビエムのもとへ案内された。
◇
「やあ、ヨクト君、久しぶりだね。王都でいろいろあったみたいだから心配していたよ。」
ビエムはヨクトを笑顔で迎え入れた。
「任務をほったらかしにしたことは悪かったと思ってる。」
「申し訳ありませんでした、ビエムさん。」
ヨクトとリョーカは開口一番、頭を下げた。
「うん、君たちだけじゃなく、部隊全員が消えたからね。何があったか話してくれるか。」
「ああ、そのつもりで来た。」
ヨクトはアビとの出会いや王都での出来事を話した。ビエムは黙って聞いていた。
「アビさんね。私も名前は聞いたよ。キョウ王女を暗殺犯から救出した英雄。まさかアオ様とも行動していたとはね。」
ビエムは顎に手をやり、興味深そうに続ける。
「私たち革命軍は脱退は自由だ。連絡はほしかったが、抜けたこと自体は構わないよ。わざわざ報告に来てくれたのかい?」
「それもあるが、ヨウトさんと話がしたい。」
「なぜ?君は別の守りたいものを見つけたんだろう。」
「ヨウトさんが何をめざしているか聞きたい。」
「平等で自由な社会だろ。知ってるだろう。そのために王室を倒さないといけない。正確にいうと、体制だけどね。」
「ああ、それはわかる。しかし、レイ王の死に乗じて攻めるのはあの人らしくねえ。それに今のキョウ王女、それにチュウエイってやつ。どちらも交渉が利かない奴には見えなかった。一度、話し合ってもいいんじゃねえか。」
「君から見て、二人はどんな人たちだった?」
ビエムは笑みを崩さない。
その瞬間。
(ご主人様……)
華侯姫がさりげなくヨクトの身体に触れ、念話を送ってきた。
(なんだ、華侯姫。)
(このもの、精神干渉を行っているかもしれません。)
(なんだと。)
(かなり高度なものです。私でも解析は不能です。)
(わかった。ならかかった振りをしようじゃねえか。)
「キョウ王女はまっすぐな人だった。ヨウトさんやアビとは違うタイプだな。ヨウトさんがいってたな、レイ王も若いころは理想に燃えるやつだったと。あんな人だったのかもしれない。」
「ではチュウエイは。」
「やつは自分のことしか頭にない。民のためとか国のためとか、そういう話じゃない。ただ、だからこそ損得の話は通じる気がした。」
「なるほどね。」
ビエムは少し間を置いた。
「実はね、そのキョウ王女から話し合いの提案があった。」
「なんだって!」
「ああ。戦いを終わらせることができるかもしれない。」
「それで、受けるのか。」
「そうか、さすがヨウトさんだ。話し合いで終わるならそれに越したことはない。」
リョーカの目が輝く。
「ところで、君らの仲間はどこにいる?」
「半数はこの陣の近くで待機している。残りはアビたちと一緒だ。故郷に帰った連中もいる。」
「元気ならそれでいいよ。それで、君はこれからどうするんだ?」
「ヨウトさんに会わせてくれるか。直接話を聞きたい。」
「それは難しいね。」
「なぜだ?」
「王女との会談準備もある。ただ、毎日のように陣中を見舞っておいでだ。その時に挨拶くらいはできるかもしれない。」
「わかった。じゃあここに滞在させてもらう。明日にでも話をしてみるさ。」
「ああ、構わないよ。」
◇
三人がビエムのテントを出ると、華侯姫がヨクトに耳打ちした。
「ご主人様、彼は本当に人間なのですか。」
「どういうことだ。オレたちは昔からビエムさんを知ってる。いい人だぞ。」
「精神干渉をしている人がいい人ですか?」
「……精神干渉?」
リョーカが目を丸くする。
「あいつは話している間、ずっとお二人に精神干渉をしていました。」
「ということらしい。」ヨクトが続ける。
「うそだろ!?信じられない。」
「オレは昔から、ビエムには違和感を感じていた。あいつが話すと、どんな屁理屈でも周りは納得してしまう。オレはずっと自分がおかしいのかと思っていたが、そうじゃなかったようだ。今日、華侯姫にいわれてわかったよ。ありがとよ。」
「ありがとうなんて、ご主人様、そんなあ♡ おそらく【豪傑覇気】がはじいていたんですよ。」
華侯姫は身体をくねらせ、黒い翼をパタパタと羽ばたかせる。
「おい!翼が出てるぞ!」
ヨクトは思わず周りを見渡した。
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