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冒険者ギルドで死亡扱いされた私が、神と邪神に愛され最強で最高のダークヒロインになる。  作者: 黒木菫
幻教操国編

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第71話 王女と神使(みつかい)

大将コウ、六十を超える名将は、目の前に広がる革命軍の陣容を静かに見つめていた。


総勢十万を超える軍勢である。


しかし、そのほとんどは民兵のはずだった。武器もまちまち、装備も貧しい。


にもかかわらず、死を恐れず立ち向かってくる。


「これが……勇者ヨウトの力というのか。」


コウは思わずつぶやいた。


「王家はこれほどまでに、民に憎まれていたのか……」


隣に立つキョウ王女が、心痛な表情でつぶやく。


「殿下、それは違います。これこそ、あのヨウトのまやかしに違いありません。」


コウはキョウに敬礼しながら答えた。


コウはキョウに、自分の孫娘の姿を重ねる。


王女が戦場に来ると聞いたとき、コウは驚き、自らの不徳を恥じた。


そして、ここに来るよう勧めたというチュウエイには、殺意すら覚えた。


しかし、王女はただ守られるだけの存在ではなかった。


自ら剣をとり、戦場を駆けた。妲姫という悪魔を使役し、敵を打倒した。


その姿を見て、兵たちも奮い立った。


しかし、王女の表情は晴れなかった。


それは恐怖ではなかった。


「私が戦っている相手は……守るべき民ではないか。私はいったい、何をしているのだ。」


戦いの中、王女はそうつぶやいた。そして先日の軍議で、誰もが息を呑む提案をした。



「コウ将軍よ。私が戦場で直接、ヨウトと話をすることはできないか。」


軍議の場が、水を打ったように静まり返った。


「何をおっしゃいます!」


しかしキョウは動じなかった。将軍たちも、この王女が戦いをなめているわけではないと、すでに知っていた。この少女は本気でヨウトとの対話を望んでいる。


「反乱軍といっても、彼らは本来、愛すべき民ではないか。ヨウトも民のために戦っている。そして私も、民のために戦っている。ならば、私は直にヨウトの言葉を聞きたい。」


キョウは立ち上がり、将軍たちを見渡した。


「彼の親友であり友であった、わが父レイ王は死んだ。彼の妻たるリョウコ殿も旅立たれた。すべてを失った男が、どのような世界を思い描いているのか。私は直に聞きたいのだ。」


「なりません、危険です!」


群臣は口々にキョウを止めた。


「ヨウトが対話を拒み、だまし討ちをするようであれば……もはや勇者は死んだのだ。」


キョウの声は、静かだった。しかしその静けさが、かえって場の空気を変えた。


「しかし、そのような男に、あれほどの民が惹かれるだろうか。私は直に見てみたい。」


「殿下は私が守る。この命に代えても。」


傍らに控えていた銀髪の女が、静かに答えた。


「黙れ、貴様ごときに何ができる!控えろ!」


将の一人が女を一喝する。


その瞬間、女の空気が変わった。


褐色の肌が白くなる。頭に一本の角が生える。青い瞳が、静かに光る。


「戦場で殿下が使役されていた悪魔か!?」


群臣たちが声をあげた。


「使役ではない。」


キョウは将軍たちを見回して、はっきりと言った。


「これはわが友、妲姫だ。」


「……悪魔が、友ですと?」


「そうだ。」


キョウはわずかに口元をゆるめた。


「ところで妲姫、命をかけるも何も、今のお前はアビがいる限り不死身なのだろ?」


「ああ、そうだったな。」妲姫はキョウの肩に手をやる。


「ところで、アビのやつもこっちに向かっているぞ。」


「そうか。楽しみだな。」


(悪魔を友と呼ぶ姫君か……)


コウは信じられない思いで目の前の少女を見た。


しかし同時に、この願いをかなえてやりたいと思った。


「わかりました。ヨウトに使いを出しましょう。ただし、どうなるかは約束できませんぞ。」


「閣下!」


「責任は私が持つ。」


コウは居並ぶ将軍たちを見回した。


「妲姫殿は悪魔といえど命をかけると言った。ならば我らこそ、王家を守るために命をかけねばなるまい。違うか、諸君。」


「そうだ、我らこそ王家の剣。悪魔の妲姫殿などに負けてはおれん!」


群臣たちは、大将コウの声にうなずいた。



――革命軍、ヨウトの本陣。


幹部たちが居並ぶ中、上座には七十を超えたヨウトが座していた。


覆面で顔をおおわれ、その表情は目元しか見えない。その目は、ただ静かに、遠くを見ていた。


動かない。


しかし、その存在感は圧倒的だった。


上座に座るだけで、空気が変わる。呼吸のたびに、室内の気圧が揺れるような錯覚がある。


幹部たちの前に立ち、言葉を仕切っているのはヨウトではなかった。


四十代の男、ビエムである。


端整な顔立ちをした男だった。声は低く、よく通る。


笑うときは必ず目が笑っていた。


誰に対しても丁寧で、怒鳴ることがない。


若き日のヨウトのようであった。


「諸君、最大のチャンスが来た。」


ビエムは官軍からの手紙を皆に見せる。


「キョウ王女が直接、ヨウト様と話したいと申し出てきた。」


「なんと!」幹部たちがざわつく。


「同志ヨウトはお受けになるのですか?」


「同志ヨウトにそのような場に出ていただく必要はない。このビエムが代わりに受ける。」


ビエムはそういって、ヨウトに向かって深々と頭を下げた。


誰も、ヨウトが頷いたところを見ていない。


しかしビエムは「ありがとうございます」と言った。


「会食の場を設け、その場でキョウ王女を捕らえる。」


一瞬、場が静まった。


おかしい、と思った者は何人もいたはずだった。


それはヨウトの志ではないはずだと、誰もが感じたはずだった。


しかし。


「……なるほど。」


「それが最善か。」


「さすが、ビエム様だ。」


気がつけば、幹部たちは頷いていた。


一人の男だけが、立ち上がった。


「お待ちください。」


トレーズという名の男だった。若い。まだ三十にもなっていない。


「そのような卑怯なことが、同志ヨウトの志であるはずがない。同志ヨウト、そうでしょう。」


トレーズはヨウトに話しかけた。


場が、また静まった。


しかし今度の静けさは違った。


ビエムが、トレーズを見た。


ただ、見ただけだった。


笑っていた。目も、笑っていた。


「トレーズ。君はヨウト様のことを考えているのだな。」


「……当然です。」


「私もそうだよ。」


ビエムは静かに、しかし全員に聞こえる声で言った。


ビエムはゆっくりとヨウトの座する上座に目を向けた。


神使ミツカイである私の言葉は霊神の言葉、そして同志ヨウトの志でもある。」


ビエムは幹部たちを見回して、穏やかに微笑んだ。


「さあ、準備を始めよう。これはヨウト様が民に贈る、最後の勝利だ。」


その言葉を聞いた瞬間、何人かの幹部が、無意識にひざまずいていた。


トレーズはそれ以上なにもいわなかった。


幹部たちは、誰一人として疑問を持たなかった。


ヨウトは、その一切を黙って見ていた。


ここまで読んでいただき、ありがとうございます!


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