第70話 決別の記憶
「なるほど、なかなか気に入った。」
ワタシはジークからもらったローブを試着してみた。
なんとこの装束、体の成長に合わせてサイズが変わるのだ。しかも防御力もなかなかのものらしい。
「装着者の魔力が強いほど丈夫になるのさ。」
ジークが人の姿に戻ってキセルをふかす。
「いいのこんなのもらっちゃって。」
そうはいいながらも、お言葉に甘えるつもりだが。
「借りはつくっておくのが好きじゃないんでね。」
そういいながらも、ジークの機嫌は良いようだ。
「しかし、アビ、お前こんなところで何をやってたんだ。」
「ええ、それなんだけど、実は……」
ワタシはこれまでの経緯を話した。
ジークはしばらく考え込む。
「アオ様、あなたはどう思います?というか、もうご存じでは?」
「勇者、いや、革命家ヨウトはまだ生きているのでしょうか?」
「さあ、どうだろうね。私は彼に嫌われてしまったからね。」
アオは寂しそうにいう。
「何があったの?言いたくないなら言わなくてもいいけど……」
ワタシはためらいながらも気になって聞いた。
「リョウコはヨウトのパーティーだったって話は知っているよね。」
「それは知ってる。」
「彼らは将来を誓い合った仲だったんだよ。」
胸が苦しくなる。亡くなる直前、リョウコさんがヨウトの名を呼んでいたな……
「あれは魔王を討伐する直前の夜、ヨウトがリョウコにプロポーズをしたあとのことよ。」
そういって、アオは昔話を始めた。遠い日を思い出すように。
◇
「先生!オレ、リョウコにプロポーズしたんだ!」
黒髪で長髪の青年、ヨウトがアオに向かってうれしそうに話す。
「よかったわね。おめでとう。」
アオはヨウトの手をとり、祝福をする。
「あの魔王ヴィクトリーを倒したら、リョウコと冒険者でもするかな。レイのやつは王様にならなきゃならないしな。」
ヨウトは遠い目をする。
「ヨウト。じゃあ、私も最後に、まだ教えてないことを教えないとね。」
アオは目のバンダナを外しながら、ヨウトに話す。
「なんだよ先生。もしかして、魔王を倒すためのものすごい必殺技を教えてくれるのか!」
勇者ヨウトは目を輝かせる。
「違うわよ。」
そういって、アオは全裸になり、ヨウトを見つめ、絡みつく。
「せ、先生!な、なにを!」
「もちろん、最後の授業よ。ヨウト、あなた、女性にモテるのにリョウコ以外には目もくれないんですもの。こうなったら奥の手を使わせてもらうわ。さあ、私を抱いて。リョウコに恥をかかせちゃ駄目でしょ。練習のつもりで……」
アオはゆっくりとヨウトに唇を近づける。
自分の魅了に抗えるものなどいない。たとえ、勇者でも——それは例外ではないはずだった。
その瞬間。
ドアが開く。
「先生、あなた、何をしてらっしゃるんですか……」
【限界突破】を発動させたリョウコがそこに立っていた。
「あら、こうなってはしかたないわね。あなたもいっしょにどう?」
アオは悪びれることなくいう。
【限界突破・最大出力】
『四霊法術・麒麟!』
かつてない力がリョウコの拳に宿り、アオの結界すら突き破り、アオは宿の壁をぶち抜き、はるか彼方に吹き飛ばされた。
◇
「それから、しばらくリョウコもヨウトも口を聞いてくれなくて、ヨウトにいたっては二度と二人で会ってくれなくなってね……」
聞いていた全員が沈黙した。
「アホかああああ!」
ワタシはスリッパでアオの頭を思い切り張り倒した。
「痛い!」
「何の話よ!それは単にアンタがセクハラして怒らせただけじゃないの!意味ありげに何の話を聞かされたんだ、私たちは!」
「そう、私の魅了をはねのけたのはヨウトが最初で、あなたが二人目よ、アビ。」
アオは指を立てて、どうでもいいことをいう。
「つまり、ヨウトはあなたに会ってくれないだろうと。」
「まあ、まだ50年くらいしかたってないしね。」
(人間の尺度だと、50年は十分長いが。)
「何の話だったっけ、これ?」
ワタシはもう訳がわからなくて、そういうしかなかった。
「要するに、アオ様でもヨウトの今はわからないということですね。」
ジークが静かにまとめる。
「そうだね。」
アオはワタシに腕を絡ませながら呟く。
「ところで、ジークはどこに行くつもりだったの?」
「ああ、どうやらさっきのヒュドラな、意図的に集められてるみたいでな。官軍に調査と討伐を依頼したのさ。うちの商人も襲われてたからな。それで物資補給の依頼があって、その道中に襲われたのさ。」
「ワタシたちがいた官軍とは別の軍ってことね。」
「だろうな。どうだ?うちの護衛を頼めないか?あのヒュドラが今後も出るんじゃ、物資を守りながら移動するのは難しそうだ。」
(早くキョウと合流したいのは山々だけど、ジークにも世話になったしな。)
「わかったわ。物資を運ぶところまででいい?」
「ああ、それでいい。帰りはなんとかするさ。」
こうして、ジークと再会したワタシは少し寄り道することになった。
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